2008年2月26日(火)「しんぶん赤旗」

しゅとけんワイド

お産が危ない

減りつづける産科医


 政府の医師抑制政策のもとで医師不足が深刻です。特に過酷な勤務を強いられ、訴訟リスクの高いお産の現場で医師が減り、地域で分娩(ぶんべん)施設の閉鎖が相次いでいます。八都県でこの二年で百五十人の産婦人科医が減っています。人口の集中する首都圏の三都県で実態を見ました。


東京 毎年14施設消える

 東京都北区で保育士をしている三十七歳の女性は昨年九月、東十条病院で妊婦健診を受けました。月末に突然「十月で全科を休診する」と告げられました。東十条病院がなくなると区内でお産ができる総合病院は北社会保険病院だけになります。女性は北社会保険病院で「ここで産ませてくれますか。途中でまたほかに回されたら困ります」と必死に訴え、分娩予約が受け付けられました。

「患者が集中」

 「患者が集中し、先生がとにかく忙しそうで。流産も経験したので病院を替わるのがとても不安でした」といいます。

 東京都内の産婦人科・産科の病院・診療所は一九九九年の七百九十二施設から二〇〇五年に七百七施設と八十五施設も減りました(東京都調べ)。毎年約十四の施設がなくなった計算です。

 都立病院では豊島病院(=公社化計画、板橋区)が〇六年九月に産科を休診。同病院のNICU(新生児集中治療管理室)の受け入れも〇七年十月に休止、閉鎖の方向です。墨東病院(墨田区)は〇六年十一月、分娩新規受け付けを停止しました。

 〇七年十月に分娩をやめていた荏原病院(=公社化、大田区)は住民の運動が実り来年四月から産科を再開します。しかし再開のメドが立ったのは荏原病院に医師を派遣している私大病院が長野県内の病院から産科医を引き揚げるためでした。

 ハイリスク出産や緊急時に対応する都内の周産期母子医療センター(総合九カ所、地域十三カ所)も設備や医師数の絶対的不足でベッド満床の状態が恒常化しています。

 全国の産婦人科医のうち女性医師は三十―三十四歳で53%、二十五―二十九歳で73%を占めます(〇六年厚労省医師・歯科医師・薬剤師調査)。しかし結婚や出産を機に分娩の現場から離れる場合が多く、お産を扱う女性医師は経験十一年目で46%(日本産科婦人科学会調査)と半分以下に減ってしまいます。

低い待遇改善を

 都立病院医師の平均月収(基本給・手当)は百一万三千六百六円と全国六十一の都道府県・政令市立病院で最低です。都は〇八年度予算案で常勤医師確保対策として前年比八億八百万円増の九億六千万円を計上しましたが、日本医療労働組合連合会の全国調査によれば退職した医師の57%が他の病院に移っており、都立病院の待遇面の改善が急務となっています。(古荘智子)

 日本医労連の池田寛副委員長の話 医労連の調査では産婦人科医の四人に一人が月八回以上の宿直を行い、調査した医師の三分の一が過労死ラインの月八十時間以上の時間外労働をしています。

 こうした勤務状態を改善するには先進国中で最低クラスの医師の絶対数を増やすことが急務です。医師養成削減政策を根本的に改め、週四十時間労働や救急・夜間の交代制、休日・年休取得が保障される予算の裏づけと診療報酬の改善が必要です。産科で比重の高い女性医師が働き続けられる対策も進めるべきです。

埼玉 産科医の負担ワースト1

 埼玉県は産科医一人当たりの分娩数が二百六十八人と全国平均百四十一人を大きく上回り(日本産科婦人科学会調べ)、全国で最も産科医の負担が重い県です。特に秩父地域や北東、東部地域で分娩数に対し医師数が手薄になっています。

 県の統計では産婦人科・産科のある医療機関が二〇〇〇年の二百八十二施設(病院六十三、診療所二百十九)から〇五年に二百四十六(病院五十、診療所百九十六)に減少。残された医療機関に負担が集中しています。

 県東部の春日部市立病院は〇七年十月、医師の相次ぐ退職で小児科と、小児科医の支援が必要な産科も休止になりました。〇八年二月に非常勤医五人を確保し小児科は再開したものの、産科再開の見通しは立っていません。市民は「安心してかかれる地域医療を実現するために力を合わせよう」と小児科・産科の再開をめざす市民の会を結成し、署名や学習会など活動を始めています。

 県東南部の草加市立病院産科は草加市内で出産できる数少ない病院でした。産科医の病休や退職で〇五年三月に休止していました。市民の運動を病院の医師確保の努力が実り、〇七年十月に二年半ぶりに再開しました。(埼玉県・川嶋猛)

神奈川 県立病院残して

 神奈川県内でお産を扱う病院、診療所、助産所数は二〇〇六年度の百六十施設から〇七年度には百五十三施設に減り、これに伴うお産取り扱い件数は六万五千百十二件から六万二千四百九十五件と二千六百十七件も減る見込みです(県調査)。

 公立病院でも産科が縮小しています。三浦市立病院では〇七年四月から小児科医師が二人から一人に減ったため、お産ができず、大和市立病院では昨年七月から分娩入院にも制約を受ける状況に。厚木市の市民病院は、〇七年七月から産婦人科が休止し、年間六百例あった出産ができなくなりました。

 県立足柄上病院(松田町)で出産した女性(29)と夫の男性(31)は同病院が〇六年四月から分娩を制限していることに、「不安です。個人レベルの努力ではどうしようもない」と語ります。

 こうしたなか、県は、足柄上病院を含む六つの県立病院を、採算重視の「独立行政法人」にしようとしています。昨年末、結成された「地域医療の充実と県立病院の直営を求める会」は二十三日、七十六人で宣伝行動に取り組みました。妊娠している女性(35)は「少子化といわれるのに子どもを産むのが厳しい。県立病院をなくされると困ります」と同会の署名に応じました。

 県病院事業庁労組委員長の植木眞理子さん(57)は「独立行政法人になれば本当に必要としている医療が守れません。運動をみんなで広げていきたい」と話しています。(神奈川県・河野建一)

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