2008年2月27日(水)「しんぶん赤旗」

主張

イージス艦衝突事件

「12分前」隠ぺいの責任は重い


 海上自衛隊のイージス艦「あたご」の漁船「清徳丸」にたいする衝突事件で、石破茂防衛相ら防衛省側が、「あたご」が漁船を視認したのは衝突の「十二分前」だという情報を得ていながら、丸一日近く発表していなかったことが明らかになりました。

 その間防衛省は、視認したのは「二分前」という発表を繰り返していました。事態は発表の遅れというより、意図的な隠ぺい、情報の操作であり、防衛省とりわけ指揮・監督の責任がある石破大臣の責任は重大です。

「2分前」なぜ繰り返した

 この問題が重要なのは、「あたご」が衝突二分前に漁船の緑灯を視認し一分前に後進の動作を行ったが間に合わなかったのか、十二分前に漁船の赤灯を視認したが一分前まで何の回避動作も行わなかったのかは、衝突の責任が「あたご」と漁船のどちらにあるかのうえで、決定的な意味を持つからです。

 船が交差する場合、海上衝突予防法では右舷側に相手の船の赤灯を視認した船が右転し、衝突を回避する義務があります。「あたご」が十二分前に漁船の赤灯を見ていれば、当然「あたご」に衝突を回避する義務があったわけで、防衛省が発表を遅らせた責任は重いものがあります。

 事故から一週間を迎える二十六日未明になって防衛省がようやく明らかにした経過によれば、事故当日、防衛省が「あたご」に派遣した護衛艦隊幕僚長を通じて「十二分前に漁船の灯火を視認したと思われる」という情報を入手したのは午後四時十八分です。情報は「断片的」といいながら八時半には石破氏にも伝えられ、深夜には「あたご」の乗組員にも追加確認して、翌二十日午前八時半、増田好平防衛事務次官から大臣に正式に報告されていました。

 ところが、防衛省がこの事実を明らかにしたのはさらに半日たった二十日夕方です。しかもそれは自民党の国防部会という内輪の会合で、公式の記者会見などではありません。

 防衛省が「十二分前」という情報を得たあとも、石破氏や海幕防衛部長は「あたご」が漁船を視認したのは「二分前」という説明を繰り返していたのです。発表の遅れどころか、意図的な情報隠しであり、衝突の責任は漁船側と思わせる情報操作といわれても弁解の余地はありません。

 二十六日の国会でこの問題を追及された石破氏は、「情報確認の必要があった」「捜査にあたる海上保安庁とも調整した」などと言い訳しました。しかし、衝突事故の真相究明は一刻を争う問題です。こうした説明で、情報を隠し続けた責任をあいまいにすることはできません。防衛省の今回の発表では、事故直後に「あたご」の航海長を呼び寄せるなど、防衛省が綿密な打ち合わせを重ねていたことも明らかになりました。石破氏のいう「確認」などというのは、口裏あわせだったといわれて当然です。

軍事優先の根本をただせ

 イージス艦「あたご」の漁船への衝突事件は、巨大な軍事組織である自衛隊の最新鋭艦が、毎日の暮らしのために漁業に従事している民間の漁船に衝突し、生命・財産を犠牲にしたという大問題です。石破氏の発言には、そうした重大事件を起こした責任者としての、国民への説明責任の自覚がありません。

 自衛艦が当然求められる回避義務を怠った事件は、「そこのけそこのけ軍艦が通る」という、根深い軍事優先の体質を浮き彫りにしています。国民に事実を隠すというのも全く同根です。真相究明を通じてそうした体質こそただされるべきです。



■関連キーワード

もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp