2008年3月1日(土)「しんぶん赤旗」
主張
イージス艦衝突原因
軍事優先・隠ぺいを許さない
海上自衛隊のイージス艦「あたご」がマグロはえ縄漁船「清徳丸」に衝突・沈没させた事故は、二週間にもなるというのに原因の骨格すらあきらかになっていません。徹底究明に背を向けている政府・防衛省に対する批判は大きくなるばかりです。
とくに問題なのは、防衛省と自衛隊が一体となって、はじめから隠ぺい工作に終始し、海上保安庁が捜査中だからといって事実を隠していたことです。口では原因究明に努力するといいながら、裏で「あたご」の責任をうやむやにするために口裏をあわせていたことは断じて認められることではありません。
うそにうそを重ねて
事故原因をめぐる防衛省の説明はまったく信用できません。当初、漁船を発見したのは「二分前」だといっていたものを、あとになって「十二分前」に変えました。十二分もあれば「あたご」は海上衝突予防法に従って右転し、衝突を避けることができたはずです。こんな大事なことを隠したのは、衝突が不可抗力だと思わせるためとしかいいようがありません。
防衛省・自衛隊が事故直後に「あたご」幹部から、時間をかけて聞き取り調査をしていながら、それを隠し続けたことはさらに重大です。
護衛艦隊の幕僚長は事故から四時間半後に「あたご」に急行し、「あたご」が横須賀基地に入港するまで艦内にいました。さらにそれと入れ違いに、海上幕僚長は「あたご」の航海長を防衛省に呼び、制服トップクラスでほぼ一時間話し合っています。一連の密議は、責任追及をどうかわすかの口裏あわせだった疑いが濃厚です。二十八日までこの事実を隠した防衛省の態度は言語道断です。
しかもこのあと、石破茂防衛相は大臣室で航海長から事情をきいたにもかかわらず、その内容もあきらかにしていません。航海長は事故直前の「あたご」の当直士官であり、事故原因を知る中心人物の一人です。自分で聴取しながらその事実を隠したのは、防衛相が制服組とぐるになって原因隠しに手を貸したといわれても仕方がありません。
石破防衛相は、海上保安庁が捜査していることを理由に、原因究明に必要な客観的な事実さえ隠しています。しかし、ことは巨大な武力集団である自衛隊の最新鋭艦がなぜ、漁船に衝突したのかという国政上の重大問題です。防衛省が海保の捜査とは別に、独自調査を行い、国会に報告することは当然の責務です。一九八八年の「なだしお事件」で「第一富士丸」の弁護を担当した田川俊一日本海事補佐人会会長は、「客観的データを公表しても、捜査に影響を与えるものではない」とのべています。
背景には軍事優先の問題があります。「あたご」の艦長は、「あの海域で漁船が多い状況だったことを理解していなかった」とのべました。漁船の安全など眼中にない態度です。軍艦優先を当然視するおごりのあらわれとしかいえません。衝突する一分前まで自動操舵(そうだ)にまかせていたのも同じです。
首相と防衛相の責任
今回のイージス艦衝突事故と防衛省・自衛隊の対応で見過ごせないのは、「そこのけそこのけ軍艦が通る」といった軍事優先と責任を隠ぺいする体質がますます強まっている問題です。石破防衛相が原因を徹底究明せず、自衛隊に都合の悪いものを隠す態度が、自衛隊のおごりをあおる結果になっているのは明白です。石破防衛相はもちろん、任命権者である福田康夫首相の責任も重大です。
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