2008年3月1日(土)「しんぶん赤旗」
スペイン首相が提唱した「文明の同盟」とは?
〈問い〉 スペイン首相が提唱した「文明の同盟」について、もう少しくわしく教えてください。(大阪・一読者)
〈答え〉 「文明の同盟」は、キリスト教を背景に持つ西洋社会とアラブなどのイスラム社会の溝を埋めることを目的に、スペインのサパテロ首相の2005年の第59回国連総会演説で始まったイニシアチブです。トルコのエルドアン首相が賛同し、同年中に国連の枠組みのもとに発足しました。
今世紀に入って起きた米国での同時テロ、アフガニスタン、イラクへの米英軍の侵略戦争、スペインのマドリードでのテロ事件などの展開のなかで、キリスト教を背景に持つ欧米社会とイスラム社会を対立的に描く「文明の衝突」という概念が喧伝(けんでん)されました。サパテロ氏の提唱はこれに対極するものです。
アナン事務総長(当時)は、ハタミ・イラン前大統領、ノーベル平和賞受賞者のツツ大主教(南アフリカ共和国)ら20人からなるハイレベルグループを任命。同グループは5回にわたる会合を重ね、06年11月に、「キリスト教が多数を占める西側諸国とイスラム世界のますます広がる分裂の原因は、宗教でも文化でもなく、本質的に政治にある」との最終報告をアナン事務総長、サパテロ、エルドアン両首相に提出しました。
同報告は、文明間の緊張が政治のレベルを超え、人々の心の中にまで広がっていると指摘。これに対処するための教育、青年、移民、報道機関の4分野での具体的な取り組みを提起。また、文明の同盟の基本的な課題としてイスラエル・パレスチナ紛争を挙げています。国連事務次長を補佐する上級代表の任命を勧告しています。
アナン氏の後を受けて国連事務総長に就任した潘基文(パン・ギムン)氏は、07年に上級代表にポルトガルのサンパイオ前大統領を任命、事務局をニューヨークの国連本部に設置しました。
文明の同盟はさらに、07年5月に「実行計画07―08」を発表。「文明の同盟フォーラム」の世界各地での開催、国家や国際機関による「グループ・オブ・フレンズ」の組織、国連事務局長任命による大使、同盟信託基金などを提案しました。「グループ・オブ・フレンズ」には現在、80を超える国連加盟国と国際・地域機関が参加しています。
第1回文明の同盟フォーラムはスペインの首都マドリードで1月15、16の両日開催。世界80カ国の政府関係者や国際機関、民間組織の代表が集い、教育、青年、移民、メディアの各分野で12の計画の実施を決めました。フォーラム開会あいさつで潘事務総長は「対話が結果を得るための最も確実な方法だ」と指摘。サパテロ首相は、同盟の使命は、平和の促進、互いの尊重と寛容の理解を奨励していくことで「文明の衝突を避けることだ」と語りました。エルドアン首相は、トルコの欧州連合(EU)加盟が同盟の成功の試金石だとの考えを示しました。(夏)
〔2008・3・1(土)〕