2008年3月14日(金)「しんぶん赤旗」

JR採用差別 判断回避

東京地裁 「時効」口実に賠償認めず


 国鉄分割民営化、JR発足時に国労、全動労の組合員ら千四十七人がJRに不採用・解雇された事件で、国労組合員らが、国鉄を引き継いだ鉄道建設・運輸施設整備支援機構に地位確認と損害賠償などを求めた裁判の判決が十三日、東京地裁でありました。

 中西茂裁判長は、時効(三年)で賠償請求権が消滅したとして原告の訴えを退けました。組合差別については判断を避けました。

 中西裁判長は、「損害が生じたのはJR不採用の一九八七年四月、あるいは遅くとも国鉄清算事業団を解雇された九〇年四月であり、原告らは法的措置をとらなかった」として、時効が完成していると判断しました。

 記者会見した原告団の川端一男代表は、「司法の恥だ。不当労働行為にふれない逃げの判決であり、許せない」とのべました。

 原告の妻の鈴木淑子さんは、「家族も大変な思いで二十年たたかってきた。機構、政府に責任をとらせるために引き続き頑張る」と発言。国鉄闘争共闘会議の二瓶久勝議長は、「政府に政治解決を求める姿勢に変わりはなく、闘争をますます強めたい」とのべました。

 弁護団の萱野一樹弁護士は、時効論はこれまでの判決で否定されていると指摘し、「原告らの二十年の苦しい生活に思いをいたさず、司法の責任を回避した」と批判しました。

 判決について建交労鉄道本部の高橋将治書記長は、「不当労働行為がなかったとはいえなかった。不当労働行為を認定した二つの判決でつくった流れに確信をもってたたかう」とのべました。

 この裁判は、北海道、九州などの国労組合員と遺族ら三十五人が二〇〇四年十一月に提訴しました。

 これまで、〇五年の鉄建公団訴訟判決と今年一月の全動労訴訟判決(いずれも東京地裁)は、不当労働行為・不法行為を認定し、慰謝料の支払いを命令。時効についても、不当労働行為・不法行為の責任が国鉄にあると最高裁が判断した〇三年十二月が起算点であり、完成していないとしていました。


解説

不当労働行為 事実消せず

 JR採用差別事件訴訟で東京地裁民事十九部が十三日出した判決は、労働者が受けた二十一年間におよぶ苦痛や損害を顧みもせず、「時効」の二文字で切り捨てるもので司法の責任を回避した不当な判決です。しかし、国が許されない不当労働行為を行った事実を消し去ることはできません。

 判決は、「損害はJRに不採用になった八七年四月か、国鉄清算事業団から解雇された九〇年四月に発生していたのに、賠償請求をとらなかった」として、時効が完成しているとしました。

 しかし、国鉄がつくった名簿にもとづき採用したのはJRであり、損害賠償よりまずJRに採用を求めたのは当然のことでした。ところが最高裁の多数意見は二〇〇三年十二月、JRに法的責任はないとする一方、不当労働行為の責任は国鉄・清算事業団が負うべきだとする判決を出しました。

 そのため労働者は国側を相手に訴訟を起こしたのであり、賠償請求権が発生するのは、不採用の責任主体が国鉄にあるとの判断が確定した最高裁判決を起算点とするのは当然のことです。

 国による不当労働行為・不法行為を認めた〇五年九月の鉄建公団訴訟判決、今年一月の全動労訴訟判決(いずれも東京地裁)も、この最高裁判決を起算点とし、時効成立を主張する国側のいいぶんを退けました。今回の判決は、こうした最高裁や二つの地裁判決の流れをまったく無視したものです。

 しかも、国をあげて不当労働行為を行った事実は、中央・地方労働委員会命令や〇五年と今年の地裁判決など数々の命令・判決で動かしがたい事実になっています。「時効」の名でこうした国家的不当労働行為を放免することは許されません。

 採用差別事件は、国鉄改革の名による国民サービス切り捨てに反対してたたかう労働組合つぶしをねらって起こされたものです。政府は「一人も路頭に迷わせない」「所属組合で選別しない」との答弁や国会決議も投げ捨て、許されない不当労働行為を働きました。

 こうした事実を否定できないため国側は裁判で労働者の「処分歴」を持ち出して不採用を正当化しようとしました。しかし、労働者から正当な組合活動への参加を理由とした不当な処分だと反論され、最高裁以来の流れにも反して「時効」論に逃げ込むしかなかったのです。逆にいえば、国が不当労働行為を行った事実と責任は争う余地がないことを示しています。

 「時効」で退けようとも不採用から二十年が過ぎ、解決を見ずに亡くなった労働者も多く、家族も含めて苦痛は極限に達しており、人道的立場からも一刻も早い全面解決が求められていることに変わりはありません。

 全国で七百以上の地方議会や七度のILO(国際労働機関)勧告など早期解決を求める世論は国内外に広がっています。国は全面解決に向けて関係者との協議を直ちに開始することこそ求められています。(深山直人)



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