2008年3月18日(火)「しんぶん赤旗」

経済時評

後手後手に回る物価対策


 ドル安・円高が急速にすすみ始めています。

 ドル安・円高はドル建ての輸入商品の価格低下を通じて、物価引き下げの効果を持ちます。しかし同時に、今日のドル安は、投機マネーのドル離れと商品投機(原油、穀物など)を促進し、物価高の要因にもなります。

 すでに原油投機によるガソリンや灯油の値上がりに続き、穀物投機の影響で食品が軒並み値上がりしはじめています。みそ、しょうゆ、パン、牛乳、ビール、コーヒーなど、一品一品の値上げはわずかのようでも、レジで集計すると相当な値上げを実感します。四月からは、小麦価格が30%値上げされ、電気代も上げるといいます。

薄型テレビの性能が2倍になれば、「価格が半分に下落」とみなす物価統計

 政府の消費者物価統計では、昨年十二月も今年一月も、0・8%上昇でした。しかし、実際にスーパーで買い物をすると0・8%どころではない、財布にずしりと応える物価上昇を感じます。

 消費者物価統計では、薄型テレビ、パソコン、デジカメなどの家電製品の性能が二倍になると、価格は同じでも、価格が半分ぐらいに下がったとみなします(注)。IT(情報技術)革命が急速にすすめばすすむほど、統計上は消費者物価が下がっていくことになるわけです。毎年、薄型テレビやパソコンを買い換えるならともかく、そうでない限り、スーパーでの実感と物価指数がずれてくるのは当然です。

 世界はいま、投機マネーの横行によって原油価格は一一〇ドルを突破し、トウモロコシ価格も十一年半ぶりの史上最高値、鉄鉱石価格も前年比65%上昇しています。しかも、サブプライムローンの破たんによる金融危機を契機に主要国の金利引き下げ、超金融緩和がすすみ、インフレ懸念が世界中で広がっています。

 日本でも、今年一月の国内企業物価指数(旧卸売物価指数)は、前年同月比で3・0%上昇し、これは、一九八一年三月いらい二十七年ぶりの高い伸びといわれます。原材料費、燃料費、飼料の高騰で、中小企業や農家・漁家の経営は、急速に悪化しています。

 これから、いちだんと物価上昇が予想されているのにたいし、政府の物価対策はどうなっているか。政府は、昨年十二月に原油高騰に関する緊急対策閣僚会議を開き、「物価担当官会議」を設置しましたが、各省庁の審議官クラスの情報交換、連絡会議の域をでていません。

物価局を廃止、「物価レポート」も中止し、「インフレ・ターゲット」論へ傾く

 政府の物価対策が後手後手に回りつつあるのには、根深い背景があります。

 政府は、一九七五年から二〇〇〇年まで、毎年、詳細な「物価レポート」を発表していました。これは、政府の「白書」類のなかでは、数少ない国民生活の立場に近い物価動向の分析でした。

 ところが、政府は〇一年に、突然、「物価レポート」の作成を打ち切りました。当時、電話でその理由を問い合わせたことがあります。いろいろと“言い訳”をしていましたが、結局のところ、担当していた経済企画庁物価局が省庁再編で廃止され、内閣府の物価政策課と物価調整課に引き継がれたが、局から課への格下げにともない、もはや「物価レポート」を出す力はないということでした。

 しかし、物価局廃止の意味は、「物価レポート」の中止にとどまりませんでした。そのころから、政府の物価問題への関心は、それまでの物価引き下げ=物価安定から百八十度転換して、「デフレ脱却」=「インフレ・ターゲット」論に傾いていったからです。

 「インフレ・ターゲット」論とは、物価上昇の目標値を定めて、実際に物価が目標値に達するまで、金融緩和を徹底させるという政策です。そのために、政府・日銀は、異常な超低金利政策を続けて、いまだに金融政策は「デフレ脱却」を政策目標にしています。

 福田内閣の物価対策が後手後手に回って、なかなか本腰が入らないのは、金融政策の基本が物価安定とは逆を向いているからです。

「消費者重視」を言うなら、「家計に軸足」を移し、消費税増税路線を転換せよ

 福田首相は、就任いらい「消費者サイドの施策の充実」をかかげ、「消費者庁」の新設まで検討しているといいます。

 消費者サイドの政策を拡充すること自体には、反対するいわれはありません。そこで、もし本気で「消費者重視」をいうなら、福田首相には、当面する食品安全対策などとともに、次の三点を求めたい。

 第一に、家計を守る立場から物価対策を強化するために、従来の金融・経済政策を抜本的に見直すこと。円高差益を物価に反映させるとともに、投機マネーへの国際的規制を実現するため、サミット議長国としての責任を果たすことが必要です。

 第二に、消費税増税路線からきっぱり決別する方向で、税制・財政政策のあり方を再検討すること。「消費者重視」をかかげながら、最悪の消費者いじめである消費税増税をねらうならば、国民を欺瞞(ぎまん)するものです。

 第三に、経済政策の基本的視点を、国民の暮らしの現場にしっかりすえて、低賃金、重税・負担増、物価高の家計のトリプル・ペイン(三重苦)を軽減する政策に真摯(しんし)に取り組むこと。いいかえれば、「経済政策の軸足を、財界・大企業から家計に移すこと」です。

※  ※  ※  ※

 「消費者重視」というスローガンには、現代資本主義のもとで「大資本と労働の対立」から生まれる政策問題を、「生産者と消費者の対立」にすりかえるねらいも隠されています。

 実際に、自民党政府は、これまでも「消費者重視」をかかげて、いかにも消費者の味方をするかのようなポーズをとりながら、労働法制の規制緩和などをつぎつぎと強行してきました。

 福田内閣の「消費者重視」も、いま政治の焦点に浮上してきた派遣労働法の改正など、労働問題の政策課題をかわす手段にならないよう、しっかり監視する必要があります。(友寄英隆)


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