2008年4月5日(土)「しんぶん赤旗」

「靖国」上映中止

何が起きた

「靖国」派の圧力 手貸した文化庁


 ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映を四月から予定していた映画館五館がすべて、上映中止を決定しました。右翼団体の妨害も受け、公開前の映画が上映中止に追い込まれるかつてない問題の背景には、「靖国」派国会議員による助成を口実にした圧力と、それを手助けした文化庁の動きがあります。


異例の国会議員試写会

 ことの発端は、三月十二日に開かれた国会議員向けの事前試写会です。昨年末、『週刊新潮』が、この映画に政府出資の芸術文化振興基金から助成金が出ていることを疑問視する記事を掲載。それを受け二月、自民党の稲田朋美衆院議員らが、文化庁を通じ、製作者に映画を見たいと要請してきました。

 対応した配給協力・宣伝会社のアルゴ・ピクチャーズらは、協議のすえ、特定の議員に限定せず、全国会議員を対象にした試写会をアルゴ主催で開くことを決定。文化庁の要請で国会議員のみを対象にした試写会が開かれるのは極めて異例です。

 当日は約八十人の議員らが出席。稲田議員は試写後、「靖国神社が国民を侵略戦争に駆り立てる装置だったという政治的メッセージを感じた」と感想を述べ、翌日には、自身が会長を務める「伝統と創造の会」と、「平和靖国議連」のメンバーで文化庁を呼び、公的助成は不当だと声をあげました。両団体とも、日本の侵略戦争を正当化する議員の集まりです。

 上映予定だった新宿バルト9が、今後起こりうるトラブルや他のテナントへの迷惑を懸念し、上映中止を決定したのは、この試写会の後。ほかの東京・大阪の四館も、これに続き上映中止を決めた格好です。

助成口実に国会質問

 試写後、自民党の水落敏栄参院議員、有村治子参院議員が、映画への公的助成の返還を求める国会質問をしました。

 水落議員は、監督が中国人で、スタッフにも中国人が多いこと、タイトルに「YASUKUNI」と英語表記があることなどを、この映画が助成対象にふさわしくない理由としてあげました。

 「靖国」は日中合作の映画ですが、「基金」は一定の条件のもとで、合作映画も助成対象になると規定しています。

 ほかに、製作者が「映画の製作活動を行うことを主たる目的とする団体」であり「日本映画を製作した実績」があることなどが、助成を受ける条件ですが、同映画は当然、いずれの条件も満たしているからこそ、審査を通過しました。文化庁も審査は「所定の手続き」で審査されたと説明しています。

 有村議員は、靖国神社とは「本来、御霊(みたま)と静かに向き合う場所」で「イデオロギー論争の場であり続けるのは、極めて御霊や御遺族に対して不遜(ふそん)」と主張。映画を助成した「文化行政の過失は決して小さくない」と述べています。助成審査の中身をただし、審査の具体的内容を書面で提出するよう文化庁に求めました。

会場手配・資料も提供

 見過ごせないのは、映画の内容に介入しようとする議員らに、文化庁が手を貸し、公開前に、事前試写や資料提供の協力を図ったことです。

 文化庁は、稲田議員らの「見たい」との要求にこたえ、製作・配給側に繰り返し話を持ちかけました。製作・配給側は当初、特定議員にだけ見せることはできないと主張。それでも文化庁は食い下がり、製作・配給側も次善の策として、全議員むけの試写会を開くことに合意しました。

 もとは、文化庁が稲田議員らのためにおさえていた会場を使い、費用も文化庁負担で進められていた話でした。ところが、試写の対象が、一部議員から全議員に変わったことで、文化庁は製作・配給側に費用負担を求めてきました。

 文化庁はまた、「靖国」の製作者が助成を受けるため、基金に提出した交付要望書などを、議員の求めに応じて提供。国会質問も、それらの書類をもとに、審査過程を問題にしています。

 九二年に「ミンボーの女」の伊丹十三監督が暴力団に襲われ、九八年には「南京1937」のスクリーンが切りつけられるなど、過去にも暴力による上映妨害の事件はありました。今回、最も深刻なのは、公開前の映画に対し、国会議員が文化庁を通じて圧力をかけ、一つの映画作品から公開の場を奪い、国民の鑑賞機会をも奪ったことです。

 製作・配給側は、今後の動きも含め、近く記者会見を開く予定だといいます。


 映画「靖国」 日本在住十九年の中国人監督、李纓(りいん)さんが、十年にわたり、「靖国刀」を造る刀鍛冶(かじ)の姿や、終戦記念日の境内の様子を記録した、日中合作のドキュメンタリー映画。



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