2008年4月13日(日)「しんぶん赤旗」

深夜手当 払わせた

札幌 「つぼ八」のバイト青年ら

労資協定結び改善


 全国にフランチャイズ展開する居酒屋「つぼ八」の札幌市内の加盟店で働くアルバイトの若者ら八人が地域労組「札幌ローカルユニオン結(ゆい)」の分会を結成し、要求を大きく前進させました。一年にわたるたたかいで八日、深夜・休日割増賃金を二年間さかのぼって支払うことで合意、今後の労働条件も協議していく、との労資協定を結びました。(田代正則)


 若者たちが組合加入を決めたきっかけは一昨年暮れ、労働基準監督署の調査でした。深夜手当を払うよう指導が入り、深夜十時以降の時給が一・二五倍になりました。

 突然増えた時給に「こんなにもらえるはずだったの」とバイトの若者たちはびっくり。しかし、割増賃金が加算された給料は、調査が終わった途端、元に戻りました。

 ある女性店員は、深夜手当が増えた分、「今月から時給を下げる」といわれ、帳尻を合わされて給料はそのままでした。

 「こんなのおかしいっしょ」。女性は腹の虫が治まらず、友人から聞いた「労働組合」を電話帳で引いて、道労連に電話します。そこで一人でも入れる「結」があることを知りました。「みんながまとまった方がいい」と「結」役員のアドバイスも受け、携帯メールで仲間に声をかけました。

 八人で「結」分会の結成を会社に通告、初めての団体交渉は昨年五月でした。

 労働基準法では、深夜割増賃金は25%以上を払わなければなりません。

 「そんなの出してたら経営は成り立たない」と社長。別の交渉では「割増手当分を加味して最初から時給を高めにしていた」とごまかしました。

 組合側は法違反に厳重に抗議するとともに、自分たちの出勤記録を集め、会社にもタイムカードを出すよう求めます。

 未払い賃金をきっちり計算して突きつけると、会社が連れてきた社会保険労務士もたじたじ。要求を一つひとつ認めさせていきます。七度の団交を重ね、有給休暇の取得や雇用保険加入に続き、深夜や休日の割増賃金百二十五万円を支払わせました。一年がかりでした。

 「結」の木村俊二書記長は「彼らはお金がほしいだけじゃなくて、ものがきちんといえる職場環境にしたいと思っているのです。『黙ってはいられない』と非正規の若者たちが立ちあがってきました」といいます。

“途中でやめない”の思い胸に

 「札幌ローカルユニオン結」つぼ八分会を結成した若者のなかには、定時制高校や大学に通いながら働く人や、二、三カ所のアルバイトを掛け持ちしている人がいます。

 女性(24)=札幌市西区=は、札幌市内の店で十八歳からアルバイトをしていました。

 一人暮らしを始めた女性は、つぼ八の仕事ではお金が足りないので昼間と深夜にも、総菜屋や飲食店でと、三つの仕事を掛け持ちしていました。夜明け前の午前五時に帰宅し、仮眠をとり、午前九時に起きて昼の仕事に向かいます。一日十数時間もの激務にもかかわらず、月収は十五万円にしかなりませんでした。

 つぼ八加盟店の社長がブランド服を着て、高級車を乗り回しているのを見て、「絶対、私たちのお金だ」と思いました。

 女性は、家が店から遠くなったことと職場に不満がたまり、昨年退職しますが、「どうせ辞めるなら深夜手当の未払い分をもらおう」と一人で社長にかけあいます。

 「三万円で手を打ってくれ」と社長はいい放ちました。不誠実な態度に、女性は怒りがこみ上げてきました。

 そんなとき、昼の飲食店でも一緒にアルバイトをしている女性から「結」に誘われます。「みんなでやれば強くなるよ」「じゃあ入る」。二つ返事でOKしました。

 「結」の組合事務所に十―二十代の若者五、六人が押しかけ、木村俊二書記長は驚きます。「法律をちゃんと守る職場にしたいんです」と真剣なまなざしで訴える若者に心を打たれました。

 しかし、団交に向けた打ち合わせは困難を極めました。アルバイトのシフト(勤務体制)や、仕事を掛け持ちをしているので全員がそろいません。夜遅くでも、二、三人の都合がついたところで何度も話し合いました。

 「若い人たちがどんな生活をして、どんな思いを持っているのか、改めて学ばされました。愚痴のなかから大事な事実がポツポツと出てきます」と木村さん。時給をいきなり下げられた体験談がでたのもこの時でした。

 「それは不利益変更といって会社が勝手にやったら法律違反だよ」「えーっ、知らなかった」。次々実態が浮き彫りになり、要求が増えました。

 女性は「時間をつくるのが大変でした。途中でやめても、こっちが“バカを見る”と思って、ここまで頑張りました」とうれしそうに話します。

 「会社と交わした協定書は今後、労働条件は話し合いで決めると約束させたことは画期的です」と木村さん。「組合に入りたいけど、会社にいじめられるのではとちゅうちょしている若者が多くいます。分会の若者と『この協定を知らせて、どんどん仲間を誘おう』と盛り上がっています」



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