2008年4月13日(日)「しんぶん赤旗」
行き詰まる「市場まかせ」
G7 新自由主義の敗北示す
米国発の金融危機にどう対応するか。ワシントンで十一日開かれた主要七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が注目されました。“市場にまかせれば、すべてうまくいく”という経済政策の行き詰まりを象徴する会合となりました。(北川俊文、金子豊弘)
■より厳しく
G7の共同声明は「短期的な世界経済見通しは悪化した」と二月の会議より厳しい認識を示しました。
金融市場の混乱に始まる世界経済の変調は、大方の共通認識になっています。九日発表の国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しは、「二〇〇七年八月に勃発した金融市場の危機は(一九三〇年代の)大恐慌以来最大の金融ショックに発展した」と憂慮しています。
米国で信用力の低い人々に高金利で貸し付けたサブプライム住宅ローンの焦げ付きが急増したのが発端です。ローンが証券化され、危険が拡散したため、多くの大銀行などが巨額の損失を出し、金融機関の信用が揺らいでいます。金融市場の動揺が収まりません。
八日発表のIMFの世界金融安定性報告書は、世界の金融機関が九千四百五十億ドル(約九十七兆円)の損失を出す恐れがあると試算しました。
IMFの世界経済見通しは、今年は米国が景気後退に入ると予測し、世界経済も減速しているとしています。
■規制効果は
金融市場混乱の“主役”は、サブプライム問題を引き起こした大手金融機関です。G7参加国などで構成する金融安定化フォーラム(FSF)は「市場規律」の後退を指摘。その強化を勧告していました。
G7は、今回提出されたFSF最終報告を「支持」し、国際的な大手金融機関への対応を強化する方向を示しました。市場任せにしてきた従来の対応を手直しせざるをえなくなっています。
FSF報告から、「百日以内」に実行すべき勧告を特定しました。(1)複雑で流動性のない金融商品に関する情報開示(2)簿外で運営するペーパーカンパニーの会計と情報の開示(3)リスク管理の慣行の強化と自己資本の強化―などです。
また、「国際的に活動する大手金融機関」を監視する国際的グループの設置など、「二〇〇八年末までに」実施する勧告も明示しました。「市場監視当局は、詐欺、市場操作および相場操縦について調査し処罰するために、協力して迅速に行動すべき」だとしました。
今回打ち出された措置が、野放図な市場に対してどれほど実効ある規制となるかは未知数です。しかし、規制が市場の活動を阻害するとしてきた従来の対応が、もはや通用しなくなっていることを示しています。
■犠牲と負担
金融危機の震源地、それは世界のマネーセンターである米国でした。米国は資金力を背景に、自身のルールを他国に押し付け「マネー至上主義」をまん延させました。国内では、拡大する金融資産の恩恵に浸れる人々に一層の富みが集中。一方、巨額のローン債務を抱え路頭に迷う人々を生み出してきました。
市場に公正さもたらすとされる証券化は、逆に投機マネーの暴走を加速させました。高度な金融工学によって生み出された証券化商品の適正価格とは何か。いったい、リスクがどこにあるのか。損失規模はどのくらいか。金融当局も、当事者である大手金融機関も、状況を把握することも制御することもできなくなりました。
その渦中、大手証券のベアー・スターンズ社は「資金繰りが著しく悪化した」と悲鳴を上げ、当局に助けを求めました。市場任せの新自由主義の敗北でした。
錬金術で作り出された「巨大な迷宮」からの脱出に公的資金の投入が論議されています。国民経済に多大な悪影響を与えた日本での不良債権処理の悪夢が、今度はアメリカで繰り返されるのでしょうか。
今回の金融危機、だれの犠牲と負担で解決するのかが問われています。
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金融安定化フォーラム 一九九七年のアジア通貨危機の経験から、各国金融当局の情報交換や市場監視を目的に、九九年二月の七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が設立を決定。日米英仏独伊加の七カ国にオーストラリア、香港、シンガポール、スイス、オランダの五カ国を加え十二カ国で構成。日本からは金融庁、財務省、日銀が参加。