2008年4月16日(水)「しんぶん赤旗」
「靖国」上映中止
メディア、懸念相次ぐ
「表現の自由にとって深刻」
自民党国会議員の圧力を発端に、ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」が一時、上映中止に追い込まれた問題で、言論と表現の自由を擁護する論調が大手メディアにも広がっています。
「靖国」派に反撃
上映中止の動きに対し、日本新聞協会が「看過できない」との談話を出し、日本民間放送連盟も「強い懸念」を表明しました。全国紙五紙も社説を出し、「言論や表現の自由にとって極めて深刻」(「朝日」二日付)などと書きました。テレビでも「サンデープロジェクト」、「ニュース23」などの報道番組が特集しました。公開前の試写を文化庁を通じて要求し、圧力をかけた自民党の稲田朋美衆院議員(「靖国」派の議員連盟・伝統と創造の会会長)を名指しして、「世の中は、この人たちが弾圧してつぶしたと思っている」(田原総一朗氏)などと指摘しました。
政府も、福田康夫首相らが上映中止は遺憾だとのべ、稲田氏は「私が批判の矢面に立たされている」「映画の『公開』について問題にする意思は全くなかった」(「産経」九日付)などと弁解に回っています。
稲田氏は、旧日本軍隊長らが大江健三郎氏などを訴えた「沖縄集団自決」裁判や、南京事件の「百人斬(ぎ)り」報道名誉棄損裁判の原告側弁護士。日本会議国会議員懇談会の事務局次長も務め、先鋭的な「靖国」派、南京虐殺否定論者として活動してきました。
今回の「靖国」上映中止問題は、同氏が今年二月、映画「靖国」を「『百人斬り』の新聞記事や真偽不明の南京事件の写真を使って、反日映画になっているよう」(「伝統と創造の会」会長通信)だと行動に出たのが発端でした。自民党の有村治子、水落敏栄の両参院議員も国会質問で圧力をかけました。
予想外の広がり
これまで南京事件に関する映画などは、虐殺を否定する勢力の執ような攻撃を受けてきました。
一九九八年には、映画「南京1937」が、横浜市で右翼にスクリーンを切られ、上映中止に。市民の自主上映も妨害されました。二〇〇四年には、本宮ひろ志氏の漫画「国が燃える」(集英社)が、「誇りある日本をつくる会」などの抗議で南京事件部分の修正・削除をのまされ、連載中断に追い込まれました。
しかし、どちらの事件もメディアの反応は鈍く、抗議の声は大きくは広がりませんでした。
今回の上映中止に抗議声明を出した映画演劇労働組合連合会の高橋邦夫委員長は「これだけ反撃が広がったのは、正直いって驚きです。『靖国』派にとっても予想外だったのではないか」といいます。
沖縄の「集団自決」で軍の関与を削除させた昨年の教科書検定問題でも、沖縄県民の怒りが広がり、文部科学省は追い込まれました。
高橋さんは「これまでの、表現の自由への圧力に抗議が広がらない社会の雰囲気が映画館を委縮させてきた。流れを変え、さらなる上映つぶしの攻撃を許さないためにも、表現の自由擁護の声をいっそう広げるのが重要」と話しています。(西沢亨子)
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