2008年4月19日(土)「しんぶん赤旗」
経済時評
金融危機―「守旧派」と「改革派」
先週末(四月十一日)、ワシントンでG7(七カ国財務相・中央銀行総裁会議)が開かれました。
G7は、最悪のシナリオ―《ドル暴落による世界金融恐慌》を避けるために、各国の協調を確認し、大手金融機関にたいする国際監視グループの設置などの「工程表」を盛り込んだ共同声明を発表しました。
今回のG7へいたる経過をふりかえってみると、「戦後最大の金融危機」からどうやって抜け出すか、金融安定化の方向づけをめぐって、国際的に二つの考え方が激しくせめぎあっているのを感じます。
面白いことに、国際金融の安定化をめぐる舞台では、従来の「金融自由化」路線に固執する「守旧派」にたいし、新たなルールある国際金融秩序をめざす「改革派」が対抗するという、攻守ところを変えた新しい構図が生まれています。
「守旧派」は、従来の「金融自由化」路線を続けるための公的資金導入を主張
従来の「金融自由化」路線には手をつけずに、公的資金の投入などで事態の打開をはかろうと主張している「守旧派」の代表格は、グリーンスパン前FRB(米連邦準備制度理事会)議長です。
グリーンスパン氏は、「(FRBの)過去の政策に悔いはまったくない」、「金融危機を予想できる完全な計量モデルなどはない」、「危機に対応できる最良の策は、柔軟な市場と透明な競争をまもることだ」と強調しています(英フィナンシャル・タイムズ三月十七日付)。そして、米CNBCテレビのインタビューでは、「サブプライム問題の処理のためには公的資金を裏付けとした新機構」が必要だと提言しています(「日経」四月九日付)。
かつて大蔵官僚として米国発の「金融自由化」を推進した榊原英資早大教授なども、「米国は金融機関への公的資金の投入についても、必要に応じてやるべきだ」(「日経」四月九日付)などと提言しています。
公的資金の投入は、国民の税金を使って、巨額な損失を出している大手金融機関へ資本を注入し救済するという対策です。
こうした方策は、投機に失敗した金融機関の崩壊を食い止めることでふたたび投機マネーを呼び戻し、市場を活性化させることができるかもしれません。その意味では、一時的には即効性のある対策です。しかし、真に長期的な金融安定化の道を開くことにはならないでしょう。
深刻な金融危機をもたらしている原因――投機化した資本市場の構造的ゆがみ――にメスを入れる方策ではないからです。
危機の原因は、米国発の「新自由主義」路線による「金融的繁栄」の破たん
就任直後の白川方明日銀総裁は、G7出発前の会見で、「日本の金融危機の経験とノウハウ」を金融安定化に役立てたいと語りました。しかし、現在の金融危機は、一九九〇年代の日本の金融危機とは基本的に違っています。
現在の国際的な金融危機は、基軸通貨ドルの米国が震源地である点に最大の特徴があり、その意味で直接的にドル暴落、世界金融恐慌の危険と結びついています。
今回の米国発の金融危機は、「新自由主義」金融政策による「金融自由化」、「金融証券化」路線の破たんの結果から起こりました。いいかえれば、製造業などの地道なモノづくりによる価値生産ではなく、投機的、寄生的な「金融的繁栄」を追い求める経済活動の行き詰まりが原因です。
現在の金融危機をもたらした原因を直視するかどうか――ここに金融安定化をめぐる「守旧派」と「改革派」の分水嶺(れい)があります。
「改革派」は、ルールある国際金融の新秩序を主張
国際金融安定化のための「改革派」は、従来の「金融自由化」路線を転換し、金融の民主的な規制強化を主張します。
たとえば、EU(欧州連合)の財務相会合は四月四日、銀行健全化に公的資金を活用することには反対するという意見書をまとめました。EUは、国際会議では、このところ一貫して、投機的な資本市場の透明化、金融機関への規制強化の提言をしています。
今回のG7の共同声明の基礎となった金融安定化フォーラム(FSF)の提言は、民間金融機関の自主的規制に軸足を置いた従来の手法を転換して、各国の金融監督当局による規制の強化を勧告しました。
これまで「金融自由化」路線を推進してきたアメリカでも一定の変化が生まれています。米財務省が三月末に発表した金融行政の改革案では、FRBの権限を拡大し、証券会社も監督対象にすることなどを盛り込みました。
この米財務省の金融改革案については、高田太久吉中大教授は、「FRBの監視機能を、金融証券化に対応するために、銀行だけではなく投資銀行やファンドまで拡張することは一歩前進」と評価しながら、「単なる機構改革ではなく、市場の透明性を高め、金融機関やファンドの投機活動を実効的に規制できる多角的な改革が必要」と指摘しています(本紙、四月九日付)。
世界の潮流は、明らかに「新自由主義」的金融政策からの転換をもとめる「改革派」が主流になりつつあるようです。
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現在の世界的な金融危機は、アメリカのドル支配のもとで投機市場化した国際金融体制の改革、しかも破滅的なドル暴落を回避しながら、それを国際協調によって実現しなければならないという困難な課題を提起しています。
夜明け前は、闇がもっとも深くなるといわれます。米国発の二十一世紀型金融危機を抜け出すときに、世界は「ルールある国際通貨・金融秩序」へ向けて、一歩踏み出すことができるのではないでしょうか。(友寄英隆)