2008年4月25日(金)「しんぶん赤旗」
「慰安婦」番組の改ざん
NHKは編集権乱用
最高裁で弁論 市民団体が主張
日本軍の「慰安婦」問題を取り上げたNHK番組が政治的圧力で改ざんされたとして、取材協力した市民団体バウネットがNHKと制作会社二社に損害賠償を求めた訴訟の上告審口頭弁論が二十四日、最高裁第一小法廷(横尾和子裁判長)で開かれました。
NHK側は「憲法二一条の保障のもとにある報道の自由は、国民の知る権利に奉仕するものであり、軽々に制限されてはならない」として、取材を受ける側の「期待権」を認めた東京高裁判決の破棄を求めました。
原告のバウネット側は安倍晋三官房副長官(当時)が、NHK上層部に「公正中立な番組を」と明言したあと、番組の異常な改変が行われた事実を示し、「編集権を乱用、逸脱したものだ」と訴えました。
弁論後、バウネットは報告集会を開き、共同代表の西野瑠美子さんが、「NHKは一般論としての『表現の自由』を主張することで、あたかも自分たちが被害者であるかのような弁論をしています。国民の『知る権利』を侵害したのは誰か。公正な判決を求め、最後まで頑張っていきたい」と支援を求めました。
一審判決はNHKの賠償責任を否定しましたが二審はNHKに、「期待権」の侵害と「説明義務」違反があったとして損害賠償を命じました。
同小法廷は判決期日を六月十二日に指定。判決では、期待権などについて最高裁の初判断が示される可能性があります。
解説
「報道の自由」誰が奪った
NHK側の弁論で奇異に感じられたのは、一言も政治家の関与について触れなかったことでした。NHKが展開したのはあくまで一般的な、憲法上の「報道の自由」の位置づけでした。
番組がどのような経緯で、日本軍の元加害兵士や、元「慰安婦」の証言を消すことになったのか。放送前から自民党の国会議員の中で同番組が話題になっていたことも、放送前日に国会担当局長と放送総局長が安倍官房副長官(当時)に面会に行った事実も、一切触れず。弁論は空疎で、視点をずらそうとの明確な意図が感じられました。
しかし、番組をとりまく状況が「極めて異常な状態」だったことは、首相官邸に出向いた国会担当局長自身が、法廷で証言したことです。高裁はこうした「特段の事情」を背景に、「期待権」を認めたのでした。
一方で、NHKは「報道の自由は、憲法的次元のもので、時に国家的利益と拮抗(きっこう)するほどの重要性を有するもの」と陳述しました。それならなぜ番組改変の過程でも国家的利益と拮抗し、自主自律を貫かなかったのでしょう。
報道の自由を奪ったのは、取材に全面協力した原告ではなく安倍氏ら自民党の政治家であり、その結果として国民の知る権利までも奪ったことを、NHKは直視すべきです。(板倉三枝)
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