2008年5月15日(木)「しんぶん赤旗」
主張
WTO農業交渉
「自由化」を根本から見直せ
深刻な食料不足・価格高騰が世界、とりわけ途上国の国民を苦しめています。その背景に、世界貿易機関(WTO)が進めてきた多国籍企業と輸出国にとって都合のいい貿易自由化が、国民への食料供給を保障すべき各国の国内農業を破壊してきたことにあります。
食料不足・価格高騰が急速に強まっているいま、農産物の過剰を前提にしてつくられたWTO農業協定を根本的に見直し、国民の食料主権を基本とした農業生産を確保するルールづくりを追求すべき時です。
農業掘り崩す交渉
WTOは交渉(ドーハ・ラウンド)の年内妥結を掲げて、さらなる市場開放を押しつける交渉に拍車をかけようとしています。難航する農業交渉では、ファルコナー議長が関税や農業補助金などの引き下げ方式(モダリティ)について、二月に提示した議長案(改訂版)に修正を加えた新たな議長案(第二次改訂版)を近く発表する見通しです。今後開かれる予定の閣僚会合でモダリティでの合意が得られれば、個別品目の関税率(譲許表)についての交渉をへて、最終合意にいたるとの筋書きです。
交渉の柱の一つは、農家の経営とくらしを支え食料の増産をはかる価格保障や不足払いを「貿易歪曲(わいきょく)的」として敵視し、大きく削減することにおかれています。
また、輸入国に市場をさらに開放させるため、関税引き下げ、上限関税設定の是非、ミニマムアクセス(最低輸入)量の拡大など「重要品目」の扱いなどが議論されています。
歴代自民党政権はWTO農業協定を受け入れ、ミニマムアクセス米の輸入拡大とコメの関税化など国境措置の引き下げ、農業保護の削減などを進めてきました。その結果、日本の食料自給率は世界の先進国に類のない39%にまで落ち込みました。
食料は「外国から買えばいい」とする政策は破たんしています。自給率を抜本的に向上させる農政への転換が急務で、価格保障や国境措置など、自給率を高めるための政策を示した日本共産党の「農業再生プラン」は、農家をはじめ広範な国民から歓迎されています。
同時に、農業問題の根本的な解決のためには、自由化を進めるのではなく、WTO農業協定を抜本的に改定することが必要です。この問題は日本だけのものではありません。
各国の食料主権を顧みないWTO農業交渉には、国際的にも強い批判が向けられてきました。そのなかで、二〇〇一年のドーハ・ラウンド交渉立ち上げ以降も、〇三年のカンクン閣僚会議では交渉が決裂、さらに〇六年七月から〇七年一月まで交渉が中断する事態も起きました。
さらにいま、農産物が「過剰」から「不足」へと変化し、世界的な食料危機が顕在化したことで、WTO交渉はその前提が根本的に変化しています。コメの輸出国が輸出を規制するようになったことが、それを端的に示しています。
高まるWTO批判
WTOに対する国際批判も新たな高まりをみせています。国連人権理事会に一月提出された食料問題に関する特別報告は、WTOおよび国際通貨基金(IMF)・世界銀行を名指しして、これら機関の政策が「食料を得る権利の擁護を掘り崩している」と指摘しています。
政府はいまこそWTO交渉での守勢にたつ政策を改め、日本農業を抜本強化する立場に立って、交渉のあり方を転換するよう各国と協力すべきです。