2008年5月19日(月)「しんぶん赤旗」
イラク帰還兵
占領下の市民殺害・民家破壊
米議会は実態調査を
【ワシントン=西村央】米国内でイラク占領の実態を告発している「反戦イラク帰還兵の会」(IVAW)のメンバーは十五日、米連邦議会の下院の公聴会で証言し、イラクで起きていることの実態を議会としても調査してほしいと訴えました。
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公聴会は、国民の多様な見解や議論を議会に反映することを目的に結成されている米議会の進歩議員連盟が開いたもの。これまでもイラク戦争で使われた費用についての公聴会などを実施しています。
九人の帰還兵が証言。歩兵や海兵隊員としてイラクに三度派兵されたジェイソン・レメックスさんは「まったく罪のない地方住民の殺害に参加したことが、今トラウマとなっている元兵士が少なくない」と指摘し、「軍隊のなかでは民主主義もなければモラルもまったくない」と告発しました。
機甲部隊としてイラクに駐留したスコット・ユーイングさんは、掃討作戦の名で民家を破壊し、子どもも含めた市民を拘束したことを写真を使って紹介しながら、「イラクで何が行われたのかを議会として調査していただきたい」と要請しました。
イラクで偵察・狙撃小隊に所属していたセルジオ・コッハージンさんは、部隊が罪のない市民を殺し続けることに歯止めがかからなくなったことを証言し、「米国はこれらの死に対して責任をとる必要がある」とのべました。
IVAWには、米国内の四十八州と首都ワシントンおよびカナダに千人を超えるメンバーがおり、高校や大学、地域のグループのなかで、米国がイラクで何をしているのかを告発する運動を続けています。そして、米軍のイラクからの即時撤退、イラク国民への補償、帰還兵への精神面を含めた医療保障などを要求しています。
帰還兵の自殺、戦死上回る?
イラク、アフガニスタンから帰還した米兵の自殺者が、戦闘での死者を上回る可能性があると米政府の専門家が指摘し、波紋を呼んでいます。長引く戦争が、帰還後も兵士をむしばんでいることを改めて印象付けています。
米メディアの報道によると、この指摘は国立精神衛生研究所のトーマス・インゼル所長が五日、ワシントンで開かれた米国精神医学協会の年次総会で行ったもの。米民間研究所「ランド研究所」が四月、帰還兵約三十万人が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っていると推計した報告書(本紙四月十九日付既報)などにもとづいて、「自殺や精神疾患が原因の死亡が戦闘での死亡を上回りかねない」と警告しました。
帰還兵の70%が国防総省や退役軍人省に対して診療を願い出ていないと指摘。専門の公的医療機関が問題を認識すべきだと強調しました。
一方、米下院退役軍人問題委員会は六日、ピーク退役軍人長官らを証人に招いて公聴会を開き、帰還兵の自殺問題を取り上げました。
ピーク氏は帰還兵による自殺行為が月千件以上に上るとの推計を紹介。ところが他の証人から、退役軍人省では自殺者に関する十分なデータが収集されていないことが明らかにされました。
同委員会のフィルナー委員長(民主)は、自殺者の数を隠ぺいしようとしているとして同省の姿勢を批判。国防総省と退役軍人省が精神面の健康診断をすべての帰還兵に対して義務付けるよう求めました。
イラク、アフガニスタンでの米兵の死者数は五月半ばまでで約四千六百人。帰還兵の自殺者は詳しい統計がありませんが、米陸軍の調査によると二〇〇七年の一年間に自殺を図った米兵は二千百人で、イラク開戦前(〇二年)の六倍となっています。(山崎伸治)
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