2008年5月19日(月)「しんぶん赤旗」
貧困・投機・環境――資本主義は限界か
テレビ朝日系番組 志位委員長大いに語る
日本共産党の志位和夫委員長は、十八日放送されたテレビ朝日系番組「サンデープロジェクト」が企画した「資本主義は限界か」に出席し、田原総一朗氏のインタビューを受けました。コメンテーターは、朝日新聞編集委員の星浩氏、米戦略国際問題研究所非常勤研究員の渡部恒雄氏でした。
番組冒頭、カール・マルクスの写真が映し出され、ナレーションが入ります。「二十世紀に世界的な影響を与えた一人、マルクスがかつて指摘した資本主義の限界。そしていま資本主義の超大国アメリカで起きたサブプライムローン(低所得者向け高金利型住宅ローン)問題。懸念される世界経済の行方、世界中で広がっている格差、資本主義はもはや限界なのか。マルクスは、日本共産党の理論の礎。志位和夫委員長に聞く」
さらに、日本共産党員作家・小林多喜二の『蟹工船』の写真も。戦前のプロレタリア文学の名作が、現代のベストセラーになっていることも話題になりました。司会の田原氏は、インタビューに先立って「マルクスといえば、やっぱり共産党の志位さんですよ。志位さんから見て、日本、世界の経済がどうなんだ。これは限界で、やがてこれはだめになるのかどうか、この辺をじっくりききたい。共産党の志位さんにいまの経済をうかがうっていうのが面白いですよ」と意気込みを語りました。
マルクスと『蟹工船』がブーム、資本主義は限界か
田原 よろしくお願いします。さて志位さん、最近、この『蟹工船』という、小林多喜二さんが、戦前に書いた本がベストセラーになっている。小林多喜二さんという人は、特高に捕まり拷問で殺された人です。
さらに最近、マルクスについての本がやたらに出ている。マルクスとかあるいは『資本論』についての本が出ている。実は、今日の朝日新聞でも、要するにマルクスなんですよ。左翼っていうが、マルクスについての本がいっぱい出ていますと。新たな階級闘争の始まりではないかと出ています。
というのも、一つはアメリカでサブプライムローンが破綻(はたん)し、アメリカ経済が大打撃を受け、これは世界にも及び、日本の経済がだめになっている。実はそのマルクスが、百年以上前に、将来は、資本主義の限界が見えてきて、その限界で破綻すると。そういう状態にいまなっているのかなあと思っている人が多いけれども、志位さんはどう見ますか。
「利潤第一主義」の暴走が、限界にきている
志位 『蟹工船』といえば、戦前のオホーツクの海で、蟹工船での奴隷的な労働を強いられた労働者のたたかい(を描いた小説)です。それで、たとえばいまの派遣労働が、同じような奴隷的労働だということで、非常に共感を集めています。(田原「正社員ではない派遣労働ですね。待遇が悪い」)そういう問題だと思うんです。
話題は『蟹工船』から「資本主義の限界」、社会主義論にすすみます。
志位 いま「資本主義の限界」といわれたんですが、ちょっとフリップをつくりましたが、大きくいって、世界でも日本でも、貧困と格差が広がり、それから投機マネーが暴れまわって、穀物や原油に流れ込んで高騰をもたらしている。(田原「石油は一バレル百五十ドルと、むちゃくちゃなことになっている」)そうです。もう本当の高騰で、全部の生活必需品を値上げさせていますよね。それから環境破壊で、地球温暖化まで出てきた。マルクスは資本主義の本性は「利潤第一主義」で、儲(もう)け第一でともかく突っ走ると。この暴走がどうも限界にきているとやはりいえると思うんですね。
ソ連の崩壊、中国の現状をどうみるか
田原 その前にお聞きしたいですが、本当ならば、資本主義の限界が見えてきたら、共産主義が本当は発達しないといけないのに、ソ連、東欧、最近中国も変わりましたが、みんな共産主義経済はやめています。いまこそ共産主義だといえばいいのに、なんでやめちゃったの?
志位 私たち、ずいぶんソ連とは論争しましたけれども、(ソ連は)傲慢(ごうまん)な大国主義をさんざんやりました。(田原「傲慢?」)チェコを侵略したり、アフガンを侵略したり…。
田原 共産主義にも傲慢とか謙虚がある?
志位 だからもうああいうやり方は社会主義とはいえないと、われわれは考えていたんです。
田原 では、むしろ万歳ですか。
志位 (ソ連共産党が)つぶれたときには、歓迎する声明を出しました。
田原 中国は?
志位 私は、中国はいろいろな模索や試行錯誤をしているけれども、「市場経済を通じて社会主義へ」という道を探求中だと思うんです。
田原 社会主義とか共産主義には競争がない。ところが中国は自由競争に似ている。こんなのは明らかに資本主義ですよ。
志位 社会主義は競争がないというのではなくてね、市場経済と計画的な部分をうまく組み合わせて社会主義の方向にすすんでいこうとしています。これは実は晩年のレーニンも探求した道なんですよ。それに中国は中国なりに、ベトナムはベトナムなりにいま取り組んで、成果をあげているところだと思います。
投機マネーの暴走が原油・穀物高騰をつくり、世界を苦しめている
田原氏は、つぎに、「いま一番聞きたいのは、アメリカのサブプライムローンが焦げ付いて、いま大問題になっていますが。これはどう見ます?」と質問。志位氏は次のように答えました。
「信用制度が過度投機、賭博とペテンをつくる」――サブプライム問題は典型
志位 サブプライムローンというのは、いわゆる低所得者向けの住宅ローンです。これを詐欺商法のようなひどいやり方で貸し付けて、貸し付けた側はすぐ証券にして売り飛ばしちゃう。そして、手数料だけ取るという非常にひどいやり方がはびこった。
田原 この詐欺商法を具体的にいうと、とにかくマイノリティー(少数民族)とか、所得の低い人たちのためのサブプライムローンで、金利が高い。ところが頭金がなし、最初は金利がほとんどなく、安くて借りやすい。それで、三年、四年たって(利息が)ガーンと上がってくる。どうすればいいのかと。住宅(の価格)が上がるんだから売り払えばいいといっていたのに、住宅が下がってしまった。
志位 住宅が上がり続けることを前提にしたものだったんですが、そんなことはありえないですから、ボーンと下がって大破綻が起こった。
田原 どうしてアメリカの資本主義が発達した先に、こんな詐欺商法になっちゃったんだろう。
ここで志位氏は、『資本論』の中からマルクスの言葉を一つフリップで紹介します。
志位 マルクスの言葉を一つ。『資本論』のなかでこういう言葉が出てくるんです。「信用制度が…過度投機の主要な梃子(てこ)として現れる」と。それから、「信用制度は…巨大な賭博とペテンの制度にまで発展させる」と。
田原 このサブプライムローンは賭博とペテンだと。
志位 そうですね。サブプライムローンというのは、賭博とペテンの典型だと思いますね。
田原 渡部さん、賭博とペテンですか。
渡部 過度な場合はそうでしょうけれども、ではいま、信用制度がなくなったらお金は借りられないから、たとえば中小企業がビジネスをすることもできないんですよ。
田原 アメリカが過度な賭博とペテンをやったから、アメリカにたいする信用がなくなり、ドルがどんどん安くなったということがありますね。
志位 そうです。ですから、そういう事態がありますが、私たちは信用制度全体をなくせといっているわけではない。「過度な投機」というところが問題です。
田原 アメリカがそうです。
世界の金融経済は、実物経済の3倍の規模に膨れ上がっている
志位 アメリカがそうです。もう一つは、過度な投機マネーがどれだけ暴れまくっているか。これは、三菱UFJ証券がつくった金融経済と実物経済の比較表です。実物経済は世界のGDP(名目)で、四十八・一兆ドル(二〇〇六年)。
田原 たいした伸びはない。
志位 それでもまあ伸びています。それでガーっと伸びているのは金融経済のほうで、百五十一・九兆ドル。ですから、百兆ドルぐらいの差があるわけですよ。
田原 実物経済より、金融経済がドーンと伸びていると。
志位 ドーンと伸びている。これが全部が投機マネーとはいえませんけど、(この資料を)分析した方によれば五十兆ドルぐらいは余ったお金だということです。この余ったお金が世界中を徘徊(はいかい)して、原油や穀物に流れ込んで、そしてこれで一番困っているのは、世界の庶民です。それから発展途上国でしょう。食糧危機で暴動まで起こっている。やはり、非常に深刻な限界が表れていると思います。
日本経済――「外需頼み、内需ないがしろ」がゆきづまった
投機マネーの問題から、日本経済のあり方に議論はすすみます。
田原 そこで聞きたいんですが、実はそのサブプライムローンの影響は、日本はほとんどありません。サブプライムローンでやられているのは、やっぱりアメリカとヨーロッパなんですが、日本にはほとんど影響がないんです。にもかかわらず日本の株が、ドーンと下がっている。一番の震源地はアメリカなのに、ニューヨークの株価よりも日本の株価のほうがドーンと落ちている。なんで日本がこんなにダメなんだ。
さらに、ちょうど去年八月以来、つまり自民党が負けたときから、外国人の投資家がどんどん日本から逃げていっている。どうも日本を見捨てているんじゃないか。なんで、こういうことが起きるのか。
そういえば志位さん、実はこの一人当たりのGDP(国内総生産)で、OECD(経済協力開発機構)のランクで言うと、日本は九三年には二位だったのに、いま十八位にまで落ちている。ドーンと落ちているわけです。それから、実はこれは世界経済フォーラムが出典の国別競争力では、日本は八位です。技術、情報技術競争力にいたっては十九位で、もうドーンと日本は落ちている。これは何でなんだろう。
志位 (日本の)株が落ちたことについていいますと、直接的には田原さんがこのフリップ(外国人投資家の株式売買動向)を出しましたが、外国人投資家がどんどん売った。大体いまの日本の株式市場の(売買の)六割ぐらいが外国人投資家ですが、この人たちは短期の株の売買で利ざやを稼ぐという動きをするわけで、この人たちが売った。
これが直接的な原因だと思うんですが、問題はなぜそういう売りが出たかということです。根本を言えば、日本の経済が、“外需頼み、内需がないがしろ”になっている。(田原「つまり輸出頼みね」)輸出頼みになっている。つまり「成長」というが、伸びているのは輸出なんです。「繁栄」というが、繁栄しているのは一部の輸出大企業なんです。それで、経済の五割以上を占める家計消費をはじめとする内需のほうは低迷している。つまり内需を犠牲にして、外需を強くすればいいというやり方が行き詰まった。(田原「ずっとそれできたの日本は」)ずーっとそれできたんだけれども、とうとうそれが行き詰まって、そこを見透かされる。
つまり、そうなると、アメリカのほうでサブプライム(問題)が起こる。アメリカの市場が収縮する。そうすれば輸出が危ないぞということで、パッと逃げていくという状況だと思います。
田原 ほんとはね、アメリカの信用がだめになったら、ぼくは日本株でも買おうかと思って。
志位 でも、外需頼みの経済をつくってしまったのだから、ここは経済のあり方を内需主導で、とくに家計を大事にする、家計にテコ入れをして、経済が健全に発展していくような方向をとるべきです。そうしないと、長期的には、先ほど言った国際競争力の問題にしても長期の展望が出てこなくなります。(田原「内需ですね」)内需が大事だと。
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貧困の根源に、人間らしい労働のルールの破壊がある
志位氏は、日本経済のとるべき方向を示したあと、「そのためにどうすればいい」との田原氏の質問に答えます。
派遣労働の規制緩和のなかで「ワーキングプア」が広がる
志位 やはり、いま貧困ということが問題になっています。貧困の一番の根源は何かと考えたら、人間らしい労働のルールが壊されている。
田原 実は、ここにそのデータがあるんですが、年収二百万円以下の給与所得者数がどっと増えてきている。いま、ついに一千万人を超えてしまった。
志位 そうですね。この経過のなかで、派遣労働がずっと自由化され、業種が拡大しているでしょう。
田原 派遣労働、パートタイム…。
志位 そうです。正規の労働者を減らして非正規雇用に置き換えて、それで給与所得が低い方がどんどん増えてきた。
田原 この辺(一九九九年)で派遣労働を認めた(原則自由化した)わけですね。
志位 それから製造業にまで解禁したのが、二〇〇四年です。そういうふうに労働の規制緩和をやってきたところに問題がある。
「大洪水よ、わが亡き後に」――短期の儲け第一で、長期の視野に欠ける
志位 マルクスの言葉を一つ出したいんですけど、こういう有名なせりふが『資本論』にあります。「大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!これがすべての資本のスローガンである」と。「それゆえ資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんらの顧慮も払わない」と。
田原 「大洪水よ、わが亡きあとに来たれ」。これはいまの経営者がそう思っているというわけ?
志位 フランスの皇帝ルイ十五世の愛人が、あまりにもぜいたくざんまいをやった。そんなことをしていたら国家経済が破綻するといわれ、「それだったら私が死んでからにしてよ」という有名な言葉があった。大洪水がくるんだったら、死んだあとにしてくれという。まあ、日本語でいえば、「あとは野となれ山となれ」ということです。
田原 いまの経営者も、みんな洪水よわがあとに来たれと。
志位 みんなとはいわないが、短期の儲けだけは考えるが、長期の日本社会の発展とか、経済の発展とか、とくに人間を大事にするということが欠けているんではないかと私は思います。
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資本主義の限界をどうみる―質問にこたえて
話はいよいよ「資本主義の限界」の核心に。
田原 じつは、志位さんの一年後輩がここにいる星さんです。
ケインズ主義につづく新自由主義の破綻――資本主義は道に迷っている
星 ただ歴史を考えると、資本主義とか社会主義というか、柔軟性の競争というか、たとえば一九三〇年代の大恐慌のあとに、資本主義は修正をして、社会主義的なものを取り入れて回復した。おそらく今回のこのサブプライムローンの問題なども、資本主義のほうはそれなりに法制を強化したり、公正なルールを決めて、まだしばらくは柔軟性、修正競争みたいなことをやると思うんです。これは、もうさすがに今度はもたない修正なのか、また資本主義は意外と柔軟なゆえに回復してしまうのか。その辺は面白いと思います。
志位 限界を見極めるのは難しいと思うんですが、しかし長い歴史でみると、十九世紀の資本主義というのは、いわば社会的な規制というものがなかった。せいぜい工場立法で十時間労働制にするぐらいのものでした。ところがそういうやり方では恐慌がどんどん起こってどうしようもない。
そこで、言われたようなケインズ主義という、政府が経済に介入して恐慌を抑える仕掛けをつくった。しかし、それをずっとやってきたが、だいたい(一九)七〇年代ぐらいで、どうも使えなくなってきて、(八〇年代以降)新自由主義に変わるわけです。新自由主義というのは、市場原理主義とよく言われますが。
田原 小泉さんや竹中さんがやった。もっといえば、レーガンやサッチャーがやった。
志位 そうです。それがはしりですね。
田原 フリードマンという学者が言い出した。
志位 ええ。それで、そのやり方というのは、もうすべてを市場に任せる。そういうところにまできてしまったわけです。
田原 政府があんまり介入しないで、市場に任せようと。
志位 しかし、そういうやり方をやった結果が、さきほどの貧困であり、格差拡大であり、それから地球環境の問題でもどうにもならなくなってきた。そこから、ではもう一回ケインズ主義に戻るかといったら、どうも戻れない。だから、はっきりいって資本主義というのは、もう道に迷っているところだと思います。
田原 資本主義が道に迷ってわからないから、志位さんにきてもらったんです。
「大企業への社会的規制」で儲け放題を抑えることが必要
そこで志位氏が示したマルクスの言葉が映し出されます。
志位 マルクスが言っている言葉ですね、この「社会によって強制されるのでなければ」とあるでしょう。つまり社会的な規制です。大企業のもうけ放題を社会がルールをつくって規制する、労働時間を規制する、派遣労働も規制する、そういうルールをつくってきちんと規制することがまず大事になってくる。それがなかったら、(労働者の)健康だって寿命だって、もうおかまいなしです。いまの過労死、それからネットカフェ難民。こんなことを平気でやるのが資本だからです。
田原 マルクスは僕は素人だからわからないんだけど、結局、かつては労働というのは働きがいであり、労働に価値観があった。ところが資本家が出てきたところから、労働者はどんどん搾取される。搾取がどんどん大きくなってくる。だから、労働の価値がなくなっちゃう。あるいは労働者自身が商品化されていく。こういうわけですか。
志位 労働力を商品化するというのが資本主義の特徴です。派遣労働というのは、人間丸ごと商取引の対象にしていくやりかたですから、極端なところまでいってしまった。
投機マネーの国際的規制、“会社ころがし”での荒稼ぎへの規制を
渡部 質問があるのですが、一番のいまの時代の難題は、多分マルクスも直面していないと思うのですけど、国際的に資本や労働の移動が激しくなり、社会によって強制されたルールを国が強制できるかという問題がある。国際的につくれるのか。たとえば企業は国際的な競争にさらされているから給料を上げられないとか、そういう部分が出てくる。このあたりはどう対処すべきでしょうか。
志位 やはり、いまはグローバル化の時代ですよね。グローバル化というのは避けられないとマルクス自身も言っているわけで、これは資本主義の本性です。ですから、たとえばさきほど投機マネーの話をしましたが、これを抑えようと思ったら、国際的な協調で抑えないと、一国では難しいです。たとえば、ヘッジファンドが投機マネーの手先になっているわけですが、ヘッジファンドについては、情報公開をして、いままったく分かっていない実態を明らかにしようと、サミット(主要国首脳会議)でも議題になっています。まず、こういうことをやっていく必要があると思います。
田原 そこで、投機と投資というのがある。たとえば、最近のM&A(買収合併)などがある。うまくいっていない会社を買って、それをいい会社にするのはいいが、たとえば、買うぞと値段を上げて、勝手に売ってしまうというのと二種類があります。
志位 これは見分ける必要があります。投資というのは、お金を投じて、物やサービスをつくって、儲けると。これは、ある意味で健全なんです。
田原 まさにそのサブプライムローンを株式にする、これをもうけるために、どんどん売っていく。これが投機なんですね。
志位 そうです。問題はやはり過度な投機ですよ。いま言われた会社の(買収合併の)問題でも、たとえばブルドックソースをつくっている会社を、ソースづくりにぜんぜん関心がないような会社がこれを買おうとする。(田原「(米投資ファンドの)スティール・パートナーですね」)そうです。(スティールは)いいソースをつくろうなんてぜんぜん考えていない。ただ会社を買って、バラバラにしたり、リストラをしたりして売り飛ばす。この“会社転がし”でもうけをあげようというのは、これは邪道の商売だと思います。
田原 渡部さん。いま“会社転がし”がどんどん大きくなっていると。
渡部 健全な投資は、いいとおっしゃいましたが、難しいのは、全部、投機的要素だということで規制してしまうと、お金がうまく流れません。だから、規制のバランスが難しいのではないかと思うんです。ブルドックソースのケースでも、いいものをつくらなければ、会社としては最終的にはお金を出している意味がないということになるのですが、投機的だとすぐ引いちゃうから問題なんです。
田原 そこで志位さん、話は違うけど、日本への投資は、意外に少ないんです。世界の先進国は、どこも二けたあります。日本はGDP(国内総生産)の2・5%と、極めて投資が少ないんです。なんでこうなったの?
志位 さきほど言った、経済がゆがんでいる、外需頼みにゆがんでいるところが非常に大きいと思います。これが非常に日本経済を脆弱(ぜいじゃく)にしている。だから、本当に内需主導で力強く前進している経済だったら、やはり良質な投資が出てくると思うけど、それが出てこないというのは、日本経済の弱さにある。だから、庶民の暮らしを大事にして、内需を温めて、そこから経済をよくしていく道を選ぶべきだと思います。
「ルールなき資本主義」から暮らしをまもる「ルールある経済社会」へ
田原 実は先週、中曽根(康弘元首相)さんと、土井(たか子元衆院議長)さんと不破(哲三前日本共産党議長)さんに出てもらったときに、不破さんが、日本の資本主義は「ルールなき資本主義」だといったんですが、「ルールなき資本主義」とはなんですか?
労働時間でも、派遣労働でも、企業買収でも、まともなルールがない
志位 資本主義でも型がいろいろあって、たとえばヨーロッパと日本を比べると、日本では、労働時間一つとっても、労働基準法を見ても残業の法的な規制がないんです。「三六協定」で労使で決めたら、青天井で労働時間が延ばせる。
三六協定 労働基準法第三六条は、法定労働時間を超えた労働や法定休日の労働について、労使間の例外協約(三六協定)を認めており、残業時間延長の温床となっています。 |
派遣労働の問題でも、ヨーロッパでは一時的、臨時的な業務に限られていて、しかも正社員との均等待遇というルールがあるんです。日本ではまったくノンルールで、本当に「使い捨て」労働をやっている。あらゆる面でルールがない資本主義です。
田原 オランダなどではとくに正社員でもパートタイマーでも、同じ労働時間であれば、同一労働、同一賃金で、まったく差がない。
志位 そうですね。そういうルールがある。それから、たとえば会社の買収という話がでました。EU(欧州連合)ではどうなっているか。50%以上の株を買う場合には、労働条件を悪くしてはいけないというEU指令というのがあり、これは守られているわけです。日本の場合は、会社のM&Aという買収合併で、一番被害を受けるのは労働者です。ですから、まったくルールがあらゆる面でない。
田原 M&Aでは、必ずリストラしますよ。
志位 リストラで、結局一番苦しむのは労働者です。そういうルールがない資本主義というのは、やはり長持ちしません。
「ルールある経済社会」という点では、EU(欧州連合)は参考になる
星 さきほど田原さんから紹介があったように、日本の一人当たりのGDPが二位から十八位になったが、その間にどんどん入ってきたのは北欧などヨーロッパの、ある意味でルールの確立した、透明度の高い資本主義の国、高福祉、高負担の国なんですけれど、そうしますと、共産党のとりあえずの目標はルールの高い資本主義ということですか。
志位 そうです。すぐに社会主義というのは、ちょっと気が早いですが、やはりルールのない資本主義から、ルールのある経済社会にすすもうということです。
田原 前に一度お聞きして、志位さんから「つまんない質問するな」といわれたんですが、志位さんが考える国に近い国は世界でどこですか。
志位 これは、どこかのモデルを決めて、どこどこの国というわけにはいかないですよね。
田原 オランダなんか近いのかな。日本でいわれるのは、スウェーデンとかオランダとかね。
志位 国の名前をいうのはちょっと控えようと思いますが、ルールある経済社会という点では、EUがめざしていることは大いに参考になると思います。
地球環境問題―資本主義で根本解決ができるかが本格的に問われてくる
志位 環境問題も出ましたが、環境問題で最後に一枚。
「自然の復讐」――エンゲルスの警告
田原 今度はエンゲルスか。マルクスでなくて。
志位 エンゲルスですね。マルクスの盟友です。『自然の弁証法』の中で、「われわれ人間が自然にたいしてかちえた勝利にあまり得意になりすぎないようにしよう。そうした勝利のたびごとに、自然はわれわれに復讐(ふくしゅう)するのである」といっています。
田原 いまCO2(濃度)が高くなって、いろんなことが起きているのは、自然の復讐なんですね。
志位 復讐だと。この(マルクス・エンゲルスの)時代は、だいたい森林を壊して、農地にして、作物がとれるようになっても、水は枯れて荒野になった。こういうことをエンゲルスは問題にしているんですが、やはり今でいえばCO2(の増大)、地球温暖化の問題ですよ。こういう問題への警告がずばっとある。
2020年までの中期削減目標をちゃんと決めるかどうかが焦点
田原 CO2でいえば、日本はひどいんですね。きょうの朝日新聞にも書いてあったけれど、今年洞爺湖サミットが行われる。去年のサミットで二〇五〇年までにCO2を半減しようというところまで一致した。今年やるなら、二〇五〇年以前に(達成をめざすべきだ)。
志位 そうです。二〇二〇年までの中期目標が問題です。
田原 二〇二〇年の中期目標を立ててないと。一番悪いのは経団連だね。
志位 そうです。
田原 本当は中期目標で二〇二〇年までに、例えばCO2を10%減らそうとか、15%減らそうとなる。経団連が絶対にこの中期目標に反対して、下からの積み上げだといっている。経済産業省がだらしなくて、これにまったくちゃんといえない。
志位 田原さんがおっしゃるとおり、二〇二〇年までの中期削減目標をちゃんと決めるかどうかが焦点で、これをやろうとしないわけです。ヨーロッパは、20%から30%(削減)を決めてやろうとしています。
田原 へたをするとアメリカもヨーロッパと組みそうなんです。
資本主義の枠内でも知恵と力をつくすが、社会体制のあり方が問われてくる
志位 アメリカは(二〇二五年まではCO2排出を)伸ばすという話だから、あまり感心しないんだけども。やはりこれは、(日本は)「利潤第一主義」がヨーロッパと比べてもひどい。ヨーロッパはかなり資本主義の限界いっぱいまで、環境保護を資本主義の枠内でもやっていこうとしている。ヨーロッパは、かなり先をみた資本主義なんです。しかし、日本は目先の利益だけで、ルールをもたない資本主義になっている。
星 いまの資本主義と共産党の主張との競争は、ある意味、環境問題でかなりクリアにでていると思います。どうやって負担を減らしていくか、ある意味で利潤を減らしながらやっていくということですから、非常にむずかしい作業です。
志位 環境問題というのは、資本主義の枠内でも、まず解決のための最大限の知恵をつくす必要があるけれど、いったい「利潤第一主義」という資本主義で根本的に解決できるかどうかが本格的に問われてくると思います。
田原 ヨーロッパは「利潤第一主義」ではないですよね。
志位 「利潤第一主義」をセーブしようという枠をつくっているわけです。
渡部 ただ、(環境保護は)内需拡大、家計を大事にするというのとは短期的には多分矛盾するんです。
志位 (私たちは)まずは、(最大の排出元の)大企業に責任を負わせようという立場なんです。
田原 どうもありがとうございました。
志位 またやりましょう。
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