2008年5月21日(水)「しんぶん赤旗」
陪審制度と裁判員制度の違いは?
〈問い〉 来年5月21日から裁判員制度が施行されますが、「裁判員」と米国の陪審制度の「陪審員」との違いは何ですか?(東京・一読者)
〈答え〉 どちらの制度も、刑事裁判を裁判官にまかせるのではなく、法律には素人である国民が刑事裁判に参加するものですが、その基本的な違いは、起訴された事実が有罪か無罪かについて、陪審制は裁判官から独立して陪審員だけで議論して決めるのに対し、裁判員制度は、裁判官と裁判員とがいっしょに議論し、有罪か無罪かを決めるというところにあります。
裁判員制度は、有罪の場合の刑の重さも裁判官と裁判員が決定します。アメリカの陪審制では、陪審員が有罪と決めた場合、多くの州で刑の大きさは裁判官が決めます。ただ13の州では、死刑で処罰されるべき事件について有罪と決めたら、同じ陪審員がその被告人に対する刑も決定するという例外があります。
陪審制はイギリスで発達し、世界各国に広がりましたが、ヨーロッパでは、取り調べ中心の官僚的な裁判に市民的感覚を取り入れようとの考えから、事実認定と刑の重さを国民から選ばれた参審員が裁判官とともに決める参審制に修正されて広がりました。裁判員制度は、国民と裁判官がいっしょに決めるという点で参審制の一種といわれています。
陪審制と裁判員制度を比べると、一般国民のなかから選ばれた人たちが裁判に参加するため、裁判のあり方も、法廷で見聞した証言・証拠にもとづき、集中的に審理して結論を出すことでは共通しています。アメリカの連邦および各州の陪審制は、全員一致制(または大多数の一致)が原則とされているのに対し、裁判員制度では裁判官・裁判員全体の多数決(ただし、多数の側に必ず裁判官、裁判員1名以上いることが必要)で決めることにしています。
また、陪審制では、裁判官から独立して事実を認定する陪審員が判断を誤らないように、検察官の集めた証拠は弁護人に全面開示され、警察官に述べた調書も証拠として認めず、法廷での証言や証拠についても、他人から聞いた伝聞証言は証拠としないなど、証拠を厳密に扱うルールが徹底しています。
日本の裁判員制度は、証拠の全面開示も実現しておらず、弁護側の十分な立証が制約される危険があります。警察官や検察官が作成した供述調書も証拠から排除されていません。被告人の自白が警察官の強制によるか、任意でなされたのかが一目瞭然(いちもくりょうぜん)にわかる取り調べ全過程の録画も実現するにいたっていません。
裁判員制度の施行までに、こうした問題点のよりよい改善が求められます。(光)
〔2008・5・21(水)〕