2008年5月26日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
告発――若者使い捨て
日雇い派遣 青年リポート
「人間を消耗品として使い捨てる究極の非人間的労働―日雇い派遣。そこで働く青年の実態、貧困の現実に迫りたい」。こういう思いでみずから日雇いを体験した青年から、本紙に生々しいリポートが寄せられました。(人物は仮名です)
遅刻なら一発で登録抹消
5月某日、雑誌に紹介されていた請負会社Aへ。事務所には20代〜30代くらいの社員が2人。「まず書類を書いて、終わったら呼んでください」。名前、電話、住所、生年月日、職歴は経験ある業種だけ。勤めていた会社名などは必要なし。
簡単な労働条件が書かれた「アルバイト説明書」をもらう。そこには「皆さんはA社の一員として働き、かつ当社が請負契約したお客様の一員として働いていただきます」。
派遣場所は前日にわかり、起床、出発、到着、仕事終了など、やりとりはすべてメール。交通費は「イベント軽作業」のときは支給されるが、「倉庫内作業」のときはなし。一通りの説明が終わり、「あとはメールで予約してみてください」。
その日は朝5時、「起床」のメールをうつことからはじまる。前日の夕方に電話があり、「早いけど、だいじょぶかー?遅刻したら一発で登録抹消だからね」。前日のメールで指定された集合場所に行くと、「A社?」と声をかけられる。複数の会社から来ているようだ。15人が「バイト」(派遣)、うち5人がA社。作業はイベント設営で、いっしょに来た人に言わせると「今日はむちゃくちゃおいしい仕事だった」らしい。
一緒に働いている人に話しかけてみると、意外と陽気に話してくれる。A社から派遣された一人は「昨日いきなり入れないかと言われたんだよ。こないだも何するのか、何時に終わるのかわかんないときあったな」。以前グッドウィルに勤めていた浅沼くんは事業停止をうけてA社へ。「グッドウィルはひどかった。交通費もでないし作業もきつい。給料からデータ装備費の天引きも。いまはバンドをやってるから定職につくのはやめとこうと思って」。しかし今も月給12万くらいにしかならないらしい。
所持金400円 当然家はない
衝撃だったのは山形から来た19歳の小泉くんだ。
高卒で東京にきて飲食店の正社員になったが、3日でやめたという。仕事を教えてもらえず、最初から「使えねえんだよ!」と怒られ、耐えきれなかったようだ。
東京に来て約1カ月がたち、現在の所持金は400円。ご飯は1日1〜2食、すべてカップ麺。家はもちろんない。練馬の友人の家に泊まっているが、仕事から帰る交通費が出せず、今日も新宿から歩くつもりらしい。
もちろん山形の実家に帰るお金もない。母はC型肝炎で治療費も高額、父は会社が倒産し、今は看護助手の姉の働きで一家をぎりぎり支えているという。
昼休み、小泉くんは「コンビニで立ち読みでもしてます」と言って、ご飯を食べようとしない。「なんか買ってくるよ」と言っても「いいっすよ、大丈夫なんで」。
見ている自分のほうがつらくなり、おにぎりとお茶を買ってきたら食べてくれた。「最近、悪いことしてでも金をとりたいと思う自分がいるんですよ。だめだと思うんですけど。生きてる意味あるのかな」
さすがに自分も話した。「必ず生きていてよかったと思えるときはくるよ。この世に生きていて意味がない人間はいない。小泉くんをそういうところまでおいつめている社会がおかしいんだよ」。さらに昨年の青年大集会には3300人集まったこと、「ネットカフェ難民」支援で政府を動かしてきたことなど。
「世の中おかしいですよ。不平等です。税金ムダ遣いしているやつらいっぱいいるし、最近自分も世の中なんかおかしいなって思うんです」という小泉くん。
「困ったらここに電話しなよ」と帰り際に連絡先を渡す。
生きてる意味あるのかな
午後5時45分、いっせいに「仕事終了」の電話とメールがはじまる。
この日の給料がもらえたのは1週間後。「これに名前書いてハンコ押して」と、「領収書」を渡される。「支給額10000円」「交通費460円」「所得税27円」「支給額合計10433円」。給与や賃金という言葉はない。「給与明細はもらえないんですか?」と言うと、「じゃあ、領収書コピーするから」。
私が出会ったのは、200万人をこえる登録型派遣の労働者のうちのたった15人、そしてそのたった1日。政府の統計にあらわれない貧困の実態を告発し、「どうせ変わらない」と思っている人も「おかしい」と思いはじめた人も、いっしょに手をつなぎ、一人ひとりができることをはじめることが必要だとあらためて思った。
実態を聞く
民青同盟品川地区委員会と日本共産党品川青年支部は、10月5日の全国青年大集会(東京・明治公園)にむけて日雇い派遣労働者の実態調査を行っています。JR大森駅近くで毎週、青年たちにアンケートをとり、実態や要望を聞いています。
午前7時半をすぎるとバス停はないのに、次々バスが止まり、携帯電話を握りしめた日雇い派遣の若者たちを乗せていきます。22日には、「乱暴な言い方をされる」「交通費を払ってほしい」「正社員になりたい」という声が寄せられました。
全国青年大集会2008プレ企画
若者の働きかたと貧困
〜ネットカフェ難民、日雇い派遣
6月13日(金)午後7時から。全労連会館2階ホールで。日雇い派遣の実態を告発。サプライズゲストあり。
問い合わせは同実行委員会03(5395)5359(首都圏青年ユニオン)
お悩みHunter
介護職場で夜勤激増 職員少ないからだが
Q グループホームで介護の仕事をしていますが、最近は疲れて、仕事以外、なんにもする気がしません。当初は月4回くらいだった夜勤が、最近は6回、7回と増えてきました。職員が少ないからと言われれば、その通りなんですが…。(24歳、女性、神奈川県)
疲れて当然 改善求めよう
A 夜勤は日勤に比べて身体への負担が大きく疲労回復にも時間がかかること、疲労が蓄積しやすく、さまざまな健康障害を発症しやすいことなどが知られています。
あなたが、疲れはててしまうのも当然です。
労働基準法は、使用者に対して、深夜勤務に対して25%以上の割増賃金の支払いを義務づけていますが、深夜勤の回数制限までは明記していません。(ただし、妊産婦や育児・介護中の労働者は夜勤免除を請求することができます)
ただ、使用者は、労働者が過重な勤務のために健康を害さないように、勤務体制や仮眠施設を整えるなどの「安全配慮義務」を負っています。
日本産業衛生学会は、深夜交替勤務について、(1)深夜帯の8時間勤務について、2時間以上の仮眠時間を保証する(2)徹夜勤務を常態とする事業所は夜勤明け日の就業を原則禁止、深夜の8時間勤務を2勤務と計算する(3)脳・心臓疾患などの既往を有する労働者は夜勤を禁止する、などを提言しています。また、ILO(国際労働機関)の夜業条約の勧告は「夜間労働者の通常の労働時間は一般的に平均して短く」することとしています。
夜勤で疲れているのはあなただけではありません。良い介護をするためにも、人員増などの改善は必要でしょう。職場のみんなで話し合い、使用者に改善を求めてはいかがですか。労働組合なども相談にのってくれますよ。
弁護士 岸 松江さん
東京弁護士会所属、東京法律事務所勤務。日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会委員。好きな言葉は「真実の力」。