2008年6月3日(火)「しんぶん赤旗」
陸自アフガン派兵 首相発言
福田康夫首相がアフガニスタンへの陸上自衛隊派兵について「可能性は常々考えている」と発言(一日)したことは、自衛隊の派兵拡大にとどまらない重大さを帯びています。発言の問題点、背景には何があるでしょうか。
問題点 戦争行為への参加
恒久法先取り
アフガンの陸上で活動している米軍と国際治安支援部隊(ISAF)は反政府武装勢力タリバンに対する武力掃討作戦を行っています。ここに陸上自衛隊を派兵することは「治安維持」を名目に、対テロ掃討作戦=戦争行為そのものへの参加を意味します。“戦闘地域には派兵しない”“海外での武力行使は許されない”としてきた政府の憲法解釈からいっても違憲の海外派兵です。
自民・公明のプロジェクトチームが検討している派兵恒久法策定では、復興支援や停戦監視などの従来の自衛隊の活動のメニュー(類型)に加え、警護・治安維持への拡大が含まれています。それと同時に、武器使用基準の緩和を進め「任務遂行の必要上の武器使用」や「駆けつけ警護」も検討対象とされています。
アフガンへの陸上部隊の派兵は、恒久法論議を先取りするものです。
アフガンへの陸上部隊の派遣は民主党の小沢一郎代表の持論であり、昨年末に民主党が与党の新テロ特措法案への「対案」として国会に提出した「アフガン復興支援法案」にも盛り込まれました。
政府・与党内では、小沢氏のISAF参加論に懐疑的な見解が支配的でしたが、参院での与野党逆転状況の中で、恒久法制定に向けた民主党の妥協、協力を引き出すことも狙って検討課題に上ってきました。与党は一月の臨時国会会期末の処理で、民主党の「アフガン復興支援法案」を廃案とせず「継続」させました。
他方、四月に名古屋高裁で自衛隊のイラクでの米軍支援活動に対し、武力行使の一体化として違憲判決が下り確定したことにも示されるように、自衛隊の戦地派遣に対する重大な疑義が広がっています。憲法九条を擁護する国民世論も大きく広がっています。アフガンへの陸上部隊の派兵の動きは、国民との矛盾をいっそう激しくせざるを得ません。(中祖寅一)
背景 悪化する現地情勢
米の増派圧力
政府首脳がアフガンへの陸上自衛隊派兵を検討していると公言した国際的背景として、アフガン情勢悪化に苦慮する米国が、兵力を増派するよう同盟諸国に圧力をかけてきた事情があります。
二〇〇一年十月に米軍主導で開始された対アフガン戦争は、七年目に入っていますが、情勢安定化の展望は見えないまま。昨年は戦闘で八千人以上が死亡し、開戦以来で最悪の年となりました。
アフガンでは現在、北大西洋条約機構(NATO)が指揮する国際治安支援部隊(ISAF)と米軍主導の「不朽の自由作戦」の二つの軍事作戦が同時進行しています。米軍は、兵力増派をNATO諸国に求めてきましたが、派兵反対の世論の高まりもあり、多くの国は応じていません。
そのため米国は、海兵隊も含めアフガンに米軍を増派。現在アフガンに駐留する六万人以上の外国兵のうち、米兵は約三万五千人を占めています。米国は、二〇〇九年にこれを四万人に増強することを検討していると報じられています。この動きはアフガン戦争の「再米国化」と表現されています。ISAFには約五万人が所属し、うち約二万人が米兵です。
十二日にパリで開かれるアフガン復興支援会合を前に、日米間で調整が進められてきました。五月上旬にはパキスタンを訪問していた高村正彦外相が急きょアフガン入り。カルザイ大統領らと会談し、「復興支援」継続を伝えました。五月下旬の福田康夫首相のアジア政策についての演説では、五つの課題の一つとして「平和協力国家」として「汗をかいていく」と表明。「テロとの戦い」を続けていくと述べています。(坂口明)
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