2008年6月8日(日)「しんぶん赤旗」

少年法改定案

被害者が審判廷を傍聴

「更生」目的守れるか

仁比参院議員に聞く


 与党と民主党は、殺人など重大犯罪に限り原則非公開の少年審判廷の傍聴を、被害者やその家族に認める少年法改定案(三日に衆院通過)を、今国会で成立させようとしています。法案に反対の日本共産党の仁比聡平参院議員(法務委員)に問題点を聞きました。(聞き手 佐久間亮)


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(写真)インタビューにこたえる仁比議員

 改定案は、これまで少年審判が果たしてきた役割を変質させる恐れが極めて強くあります。日本弁護士連合会などから強い懸念が出され、被害者団体でも意見は分かれており、国民的合意は得られていません。

 衆院では、修正案提出後わずか三時間の委員会質疑で通過させましたが、拙速な議論は許されません。

 少年法は加害少年の更生を目的としています。少年審判では、裁判官が対話を通して少年の内面に向き合い、少年院送致、保護観察などの処分を決めます。少年は、自らの非行や被害者の苦しみと本格的に向き合い、過去の生活や行動を見つめ直します。

委縮の可能性

 少年の内省は、少年院など保護処分の段階でも深化します。しかし、それが実りあるものになるかは、審判廷での少年に対する裁判官の向き合い方にかかっていることが多く、少年が委縮することなく参加できる環境の確保が不可欠です。そのため、少年審判は原則非公開とし、審判廷は裁判官が少年と近い距離で向き合うようになっているのです。

 被害者の同席によって、少年が委縮する可能性は否めません。そのことで必要な情報を得ることができなくなれば、少年の更生に向けた適切な処遇を困難にするという指摘もあります。

 影響は少年だけではありません。審判では、少年の保護者や学校の先生などからも話を聞きます。被害者を前にして、少年の更生に必要な言葉かけを委縮せずにできるかという懸念があります。

 審判廷は十畳ほどと非常に狭く、被害者の息遣いも聞こえるでしょうし、視野に入ることもあります。万一、被害者が感情的になった場合、不慮の出来事が起こらないかという心配もあります。

 審判は、殺人事件の場合、ある被害者団体の表現でいえば四十九日の前に開かれます。その段階で、被害者が少年法の理念を踏まえながら対応することは極めて難しく、逆に少年の不用意な発言で傷つけられる恐れさえあります。

 したがって、加害少年と被害者の関係のあり方は、少年司法手続きのなかでもっとよく検討する必要があります。

12歳の根拠は

 与党と民主党は、加害少年が十二歳未満の場合は傍聴を認めないとする修正案を共同提出しましたが、なぜ十二歳以上なら認めてもよいのか、科学的根拠は明らかでなく、懸念はなくなりません。

 二〇〇七年の少年法改定では、少年院送致の年齢が「十四歳以上」から「おおむね十二歳以上」に引き下げられました。民主党はこの改定を、引き下げの根拠が明確でないと批判していました。

 法案には、被害者が閲覧・謄写できる少年事件の記録範囲を、少年の生い立ちや家族構成といった身上・経歴まで広げる問題もあります。

 これまでも、本来流出してはならない調書や少年の内面にかかわる情報が、マスコミで大きく報じられることがありました。今回、閲覧・謄写の範囲が広がれば、さらに少年のプライバシーを損ない、更生に悪影響を及ぼす事態が起こる懸念がぬぐえません。

 少年法は二〇〇〇年以降、毎国会のように改定が強行されてきましたが、その運用と効果については十分に検討されていません。今国会で改定案を強行することで、いっそう少年司法手続きをめぐる対立を深刻化させることがあってはなりません。


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