2008年6月19日(木)「しんぶん赤旗」
主張
生活保護通院交通費
削減する通知は撤回しかない
生活保護受給者が通院する際に支給される通院交通費(移送費)を今年度から削減するとした厚生労働省局長通知(四月一日付)をめぐり、同省が新たな課長通知を出しました(十日)。受給者らの「必要な医療が受けられなくなる」との抗議を前に説明を加えたもので、舛添要一厚労相は「(局長通知の)事実上撤回と同じような効果を持つ」とのべました。
全国生活と健康を守る会連合会(全生連)など関係八団体は声明(十五日付)で、大臣による「事実上の撤回」表明は世論の結果だとしながら、「局長通知の骨格は維持」していると厳しく批判し、局長通知そのものの撤回を求めています。
命にかかわる打ち切り
生活保護を受けざるを得なくなった人の最も大きな理由は、病気などによる貧困です。最低生活を送る生活保護受給者にとって、通院交通費の打ち切りや削減は、医療へのアクセスを絶たれることになります。医療の権利が奪われ、命の危険さえ起こりかねません。現行の生活保護制度では医療費は医療扶助で支給され、通院交通費は「最低限度の移送」に必要な実費が支給されてきました。
厚労省が都道府県や政令指定市、中核市に送付した局長通知は、通院交通費は災害現場からの緊急輸送や離島から医療機関への搬送など緊急の場合などに限定しました。それ以外は身体障害などで電車やバスの利用が「著しく困難」な人、それも通院する医療機関は原則として居住する福祉事務所管内に限って支給する―というものです。
通院交通費の削減問題は、そもそも違法な手続きによっておこなわれた北海道滝川市での暴力団による不正給付事件を口実にしたもので、道理はまったくありません。不適切な給付をやめるのは当然ですが、それを理由に生活保護世帯が必要な医療を受けられなくなるという事態は、絶対にあってはなりません。
「打ち切りを許すな」という怒り、通知の撤回を求める運動は、短期間に全国に広がりました。生活保護問題対策全国会議や中央社会保障推進協議会、全生連、「自立生活サポートセンター・もやい」など幅広い団体が、共同で「通院移送費と母子加算の削減中止を」と国会内外で要請を繰り広げました。東京都・埼玉県・千葉県と横浜市など首都圏七自治体も“医療や生活に重大な影響を与える”と意見書を出しています。
国会では野党がこぞって撤回の立場で、与党も議員有志が撤回を要請しています。日本共産党は繰り返し取り上げ、参院厚労委での小池晃氏の追及に、舛添厚労相が「生活保護の方々が必要な医療を受けられないような事態は絶対に起こさない」と答弁しています。
厚労省は、世論と国会論戦に押され、僻地(へきち)でなくても支給を認めるとし、金額も「福祉事務所の判断」「五百円、百円でも支給する」(五月二十一日、全生連との交渉)と表明していました。課長通知を出さざるを得なかったのも、こうした流れをふまえたものです。
廃止いわない課長通知
課長通知には、局長通知の廃止は明記されておらず、「事実上撤回と同じような効果」ではごまかされません。生活保護受給者の不安を取り除くためには局長通知そのものの撤回が不可欠です。
通院交通費の削減方針は、もともと健康で文化的な最低限度の生活保障を定めた憲法の理念や生活保護法に反します。実態を無視した局長通知は、直ちに撤回すべきです。
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