2008年6月25日(水)「しんぶん赤旗」

集団的自衛権の憲法解釈

安保法制懇、変更を提言


 安倍晋三前首相当時に設置され、政府の憲法解釈を検討してきた「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)は二十四日、集団的自衛権の行使は認められないとする解釈の変更を求めた報告書を福田康夫首相に提出しました。

 首相の諮問機関とはいえ、政府の憲法解釈変更を求めるのは過去に例がありません。福田首相は「中身を研究する」と述べ、解釈変更に慎重な姿勢を示しました。

 集団的自衛権とは、自国の防衛とは無関係の、他国の「防衛」に参加する行為で、憲法九条が定める「自衛のための最小限」の実力行使を超えるものであり、「憲法上認められない」(一九八一年の政府答弁)というのが現行解釈です。

 これに対して報告書は、「憲法九条は明文上、集団的自衛権の行使を禁じていない」「安全保障環境が変わった」などの理由を挙げて、集団的自衛権の行使は憲法上「可能」としています。

 安倍前首相は昨年五月の第一回会合で、(1)公海で並走中の米艦船が攻撃を受けた場合の自衛艦の応戦(2)米国を狙った弾道ミサイルの迎撃(3)海外派兵中に他国軍が攻撃を受けた際に駆けつけて反撃(4)米軍や多国籍軍への後方支援―の四類型について検討を指示しました。

 報告書はいずれについても、「日米同盟の維持・強化に不可欠」などとして集団的自衛権の行使を求めています。

 また、自衛隊の武器使用の拡大について、「政府与党で検討されている一般法制定の過程で実現されることを期待」すると表明。戦闘行為につながる「かけつけ警護」なども可能とするなど、海外派兵恒久法の制定を促しています。


解説

安全保障の環境とずれ

 「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は、集団的自衛権の行使を当然視するメンバーで固められています。そういう意味で、政府の憲法解釈変更を求めた報告書は「結論先にありき」でした。

―○―

 懇談会を設置した安倍前首相は報告書を昨年秋までに提出させ、ただちに解釈改憲に着手する考えでしたが、昨年七月の参院選大敗で野望は打ち砕かれました。

 それでも懇談会メンバーは今年に入って非公式の「意見交換会」を重ね、二十四日に報告書を提出したのです。ただちに憲法九条の明文改憲が実現できなくても、何とか解釈改憲だけは実現して、日米同盟強化と海外派兵拡大の“障壁”となっている憲法九条を骨抜きにしようという改憲派の執念を感じさせます。

―○―

 報告書は、北朝鮮の核・ミサイル開発など「安全保障環境の変化」を憲法解釈変更の最大の根拠としています。「集団的自衛権は憲法上、行使できない」とする政府解釈では、弾道ミサイルや国際テロなどの問題に「適切に対処できない」というのです。

 しかし、いまや報告書自体が、「安全保障環境の変化」からずれています。

 北朝鮮の核・ミサイル問題では、北朝鮮が核計画を申告し、米国が「テロ支援国家」指定から解除する方向で動いています。北朝鮮が米国を弾道ミサイルで攻撃し、日本が応戦するという想定自体が、国際情勢に対応できなくなっています。

 しかも、変更が必要なのは「(従来の)解釈では日米同盟を効果的に維持することに適合し得ない」からというのです。「米艦防護」も「弾道ミサイル迎撃」も「日米同盟のため」というのが唯一の理由です。

 ブッシュ米政権の先制攻撃戦略が幅を利かせていた情勢を前提として、それに「適合」するために憲法解釈を変えるなどということは、二重三重に憲法を愚弄(ぐろう)するものです。(竹下岳)



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