2008年6月26日(木)「しんぶん赤旗」
主張
安保法制懇報告
派兵恒久法への危険な執念
安倍晋三首相(当時)が集団的自衛権についての政府の憲法解釈を見直すために設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)が福田康夫首相に報告書を提出しました。予想された通り、憲法九条のもとでは不可能な軍事行動を可能にする解釈改憲の提言です。
福田首相は憲法解釈の変更には否定的ですが、懇談会がいまになって報告書を提出したのは、解釈改憲の布石を打つと同時に、自民党と公明党が進めている海外派兵恒久法づくりを後押しする狙いもあります。具体化を許さないことが重要です。
改憲派の異常な議論
安倍前首相が当初めざしたのは、昨年秋までに懇談会の提言を受け、それをテコにして解釈改憲を強行することでした。昨年七月の参議院選挙で自民党が大敗したことで野望は崩れました。諮問した当人がいなくなった以上、懇談会の役割は終えるのが筋です。懇談会が議論を続け、報告書をだしたのは、諮問機関の報告書をテコに、なにがなんでも解釈改憲の筋道をつけるためです。
柳井座長は、「今までの憲法解釈では、激変する安全保障環境に対応できない」とのべました。安全保障環境とは、アメリカが先制攻撃戦略と一国覇権主義にもとづき、イラクなど世界各地で軍事介入をつよめている事態のことを意味します。このアメリカの軍事戦略に参加するうえで邪魔になる憲法解釈を変えるのが、懇談会の狙いです。解釈改憲先にありきの、対米追随の異常な議論がそれを示しています。
そもそも懇談会が議論した「四類型」は、いずれも集団的自衛権の行使が前提です。集団的自衛権とは、日本が攻撃もされていないのに、武力を行使してアメリカなど他国を助けることです。日米同盟強化を口実にして集団的自衛権の行使を認めるなど言語道断です。
たとえば「公海における米艦の防護」では九条のもとでなぜ自衛隊が米艦を守れるのかの法理も示さず、「日米同盟の効果的機能が一層重要」だから「集団的自衛権の行使を認める必要がある」というだけです。「米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃」も、自衛隊が撃ち落とさなければ「日米同盟を根幹から揺るがすことになる」といって、集団的自衛権の行使を認めるというのではあまりにも乱暴です。
報告書は、他国の部隊・兵員などを守る「かけつけ警護」とそのための武器使用を「憲法で禁止されていない」と言い切っています。自衛隊が米軍の補給車両や兵員などを警護すれば、米軍を狙う勢力と自衛隊が戦闘することにもつながりかねません。憲法のもとで許されるはずはありません。
「警護」問題は、自民党と公明党が現在進めている海外派兵恒久法づくりのなかでも焦点の一つです。懇談会の報告書が恒久法づくりを後押しすることにもなっています。どこから見ても危険な報告書の具体化を認めるわけにはいきません。
九条守り生かしてこそ
いま国際社会は、紛争を戦争ではなく平和的・外交的方法で解決するという新しい平和の流れを強めています。報告書は、「国際的安全保障環境の変化」を解釈改憲の口実にしながら、世界の平和の流れと変化を無視しています。報告書は日本を世界から孤立させるだけです。
憲法九条は、世界の平和の流れと合流して戦争のない世界をつくる原動力です。改憲ではなく九条を守り生かすことこそ、焦眉(しょうび)の課題です。