2008年7月16日(水)「しんぶん赤旗」

「容疑者」と呼ぶのはなぜ?


 〈問い〉 秋葉原の凶悪事件に胸が痛みます。昨今、これらの事件を報道する際、犯人が現行犯逮捕された場合でも、犯人を「容疑者」と呼称するのはなぜでしょうか?(埼玉・一読者)

 〈答え〉 容疑者という用語は、新聞やテレビなどの報道機関が使用するもので、法令用語の被疑者とほぼ同義語です。被疑者が被害者と発音が似ているので誤解が生じないようにマスコミでは、容疑者を用いるようになったといわれています。

 警察などの捜査機関から犯罪の疑いをかけられている者を容疑者(被疑者)と呼びます。容疑者が起訴された後は被告人といいます。

 一方、秋葉原の無差別殺傷事件のように、犯罪の現場にいる犯人もしくは犯人と断定できる人物を逮捕することを現行犯逮捕(憲法33条、刑事訴訟法213条)と規定しています。現行犯逮捕する場合は、現場で視認しているので、検察、警察が請求して裁判官が発行する逮捕状は不要です。

 こうした現行犯で逮捕された者も、逮捕状を示す通常逮捕で拘束された者も法的には同様の被疑者です。だから、取り調べなど一定の手続きを経て起訴されるまでは、犯罪報道でも容疑者と表記します。

 現行の憲法とそれにもとづく刑事訴訟法は、人権が無視された戦前の教訓をふまえています。罪を犯した嫌疑を受けた者も、裁判で結論が出るまでは、法的には無罪の推定が働いているという、いわゆる「推定無罪」の理念もその一つです。

 憲法では「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若(も)しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」(31条)と規定しているのをはじめ、被疑者の権利を定める諸条項があります。刑事訴訟法では、その具体化をはかっています。

 犯罪報道で、容疑者、被告などと呼称を使い分けるのも、推定無罪原則を考慮したものです。過去においては報道機関の大半が、犯罪報道で被疑者を呼び捨てにしていました。これにたいして市民の人権意識が高まる中、法的には、有罪判決まで無罪と推定されるのに被疑者の段階で呼び捨てにすることに批判や疑問が高まりました。

 こうした世論を受けて、報道機関は1989年12月から呼び捨てをやめ容疑者の呼称を使うようになりました。「しんぶん赤旗」も同年12月1日付で「犯罪報道で『呼び捨て』をやめます」という社告を掲載。人権尊重と真実の報道を追求する立場から、被疑者の呼び捨てをやめ容疑者の呼称か、肩書をつけることにしました。(近)

〔2008・7・16(水)〕


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