2008年7月28日(月)「しんぶん赤旗」
鑑賞教室の実態調査報告書
減少の背景にあるもの
「実施したいが予算がない」「授業時間との兼ね合い難しい」
文化庁はこのほど、学校における鑑賞教室に関する実態調査の結果を五年ぶりに発表しました。調査は全国の小・中・高校、ならびに教育委員会にたいして行われ、鑑賞教室は二〇〇七年度の実施状況をたずねたものとなっています。
調査結果によると、鑑賞教室の実施状況は、全体で68・9%(小学校75・4%、中学校55・3%、高校73・1%)となっています。今回の調査で、小学校の場合、百人以下は65・3%、六百一人以上で83・8%と、小学校・高校において学校規模の大小による格差があることや、都道府県別の実施状況でも、92・8%(宮崎県)から43・2%(徳島県)まで大きな差があることがわかりました。
★5年前より1・4%減
鑑賞教室は、五年前の調査に比べ、1・4%減となっています。とりわけ、「自校単独」開催が前回比3・1%減の53・1%となっています。非実施校のうち、23・5%が「以前は実施していたが取り止めた」と回答しています。
非実施校での開催できない理由では、「実施したいが予算がない」が58・0%、「授業時間との兼ね合いで難しい」が50・4%と、予算と時間の問題に集中しています。生徒数別では、小規模校になるほど、「予算がない」の割合が増え、小学校百人以下で70・8%、高校四百人以下で71・0%に達しています。逆に、人数が多くなるほど「時間」をあげる割合が高くなっています。
公演料の負担は、「児童・生徒の負担があった」が78・4%で最も高くなっています。児童・生徒の負担額の平均は、小学校六百四十八円、中学校千七十三円、高校千六百九十七円となっていますが、高校の場合、八百一―千人の千四百六十八円に比べて、四百人以下千九百七円と差が開いています。
公演料を支払わなかったところでは、「教育委員会が費用を負担した」が44・3%で最も高くなっていますが、前回の58・0%からは大幅に低下しています。文化庁の「本物の舞台芸術体験事業」は26・0%と増加していますが、小規模校での割合は低くなっています。
★8割が助成支援を求め
鑑賞教室の今後については、「従来と変わらない」が62・2%で最も高く、「減らしたい」は0・7%にすぎませんが、「未定」が28・9%を占めています。鑑賞教室を増やしていくために必要と思われる支援策については、「文化庁や教育委員会などからの助成支援」が81・2%と圧倒的になっています。
解説
すべての子どもたちに年1回以上の鑑賞機会を
学校における鑑賞教室が減少しており、その理由が予算と時間にあることは、これまでも指摘されていましたが、今回の調査は、それを詳細に裏づけるものとなりました。
鑑賞教室への助成が少なく、事実上、児童・生徒の負担によってまかなわれているため、小規模校ほど予算を組むことができず、鑑賞教室を開催することが困難になっています。
また、学校規模が大きい場合でも、授業時間確保のために鑑賞教室が開催できなくなっています。これらの背景には、自民党政治のもとで、教育・文化予算が減らされていることや、「学力向上」を理由にした授業時間増があります。
また、「子どもの貧困」が広がるなかで、鑑賞教室の費用が児童・生徒負担になっていることも、困難に拍車をかけています。
減少しているとはいえ、七割近くの学校で鑑賞教室が開かれていることは、子どもたちに芸術鑑賞の機会を保障する大事なとりくみとなっています。鑑賞教室への助成を拡充すれば、すべての子どもたちに年一回以上の鑑賞機会を保障することは可能です。実際、報告書の分析によると、都道府県ごとの実施率上位五府県のうち、四県はなんらかの支援を行っており、生徒負担も全国平均を下回っています。
日本共産党の井上哲士参院議員は昨年、鑑賞教室について質問主意書を提出し、政府は調査を約束していました。調査結果を生かし、助成を拡充することは政治の責任です。
辻 慎一(党学術・文化委員会事務局次長)
調査報告書「学校における鑑賞教室等に関する実態調査」は、文化庁のホームページに掲載されています。