2008年7月31日(木)「しんぶん赤旗」

駐イラク米軍地位協定 交渉難航

破たんした7月締結

占領に国民の根強い反対


 【カイロ=松本眞志】「米軍地位協定は、他国を攻撃し、イラク人の家を襲撃し、政府の許可なくイラク人を拘束する権利をイラク駐留米軍に与えるものだ」。イラク連邦議会のハラフ・アルヤン議員(イラク合意戦線=イスラム教スンニ派)は二十三日に、地元のメディアでこう述べました。

 イラクと米国の間で難航している駐イラク米軍地位協定交渉は、「占領永続化」に反対するイラク国民の声に直面したまま締結予定の七月末を迎えました。交渉では、米軍の免責特権やイラク人拘束権など主権侵害条項の改定、米軍撤退期限の明確化が焦点。七月末に予定していた協定締結は事実上破たんしました。

態度変えたマリキ首相

 マリキ首相は十八日、ブッシュ米大統領とのテレビ会談で、米軍削減と治安権限移譲の計画表作成について合意。ブッシュ氏はこれまで日程策定を拒否していましたが、イラク側の要求に応じる形となりました。

 マリキ氏は十九日に、ドイツ誌『シュピーゲル』のインタビューで、米軍の免責特権を全面的に拒否するとともに、米民主党大統領候補になるオバマ上院議員が主張する米軍撤退計画(大統領就任後十六カ月以内に撤退)に賛成しました。

 オバマ氏が二十一日にイラクを訪問した際、イラク政府は米軍駐留を二〇一〇年末までとする見解を表明。治安情勢改善が前提となっているものの、マリキ首相は、初めて公式にイラク側が求める米軍駐留期限を明示しました。

 マリキ氏は本来、イラク側で米軍地位協定を推進する当事者でした。米軍の支援下で占領反対派勢力の「鎮圧」の指揮をとり、米軍撤退にも消極的でした。それが一転して、協定案を「主権侵害」と非難し、米軍撤退計画と一体でなければ承認しないというまで変わりました。

 ここには、最近の住民虐殺にみられる米軍の無法な占領の実態と、イラク国民の圧倒的多数がこれに反発している現実があります。

 最近の世論調査では、イラク国民の約八割が米軍占領に反対しています。イラク連邦議会の議員多数も今年六月初め、地位協定について米議会に書簡を送り、(1)イラク連邦議会に審議・決定権がある(2)米軍撤退を義務づける仕組みと結びつかない協定は断固拒否する―と言明しました。

固執する米 予断許さず

 当初の思惑とは異なる展開に、ブッシュ米政権は、民間軍事会社職員の免責特権放棄などの妥協を余儀なくされています。

 一方、侵略と占領政策の矛盾と破たんにもかかわらず、米国側は、地位協定に米軍撤退期限を盛り込むことを拒否し、米軍兵士の免責特権やイラク人を拘束する権限にも固執し続けています。協定締結期限も「年内に」幅をもたせる声もあり、交渉の行方は予断を許さないといえます。



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