2008年8月8日(金)「しんぶん赤旗」
裁判員制度の延期求める
市田書記局長の記者会見(要旨)
日本共産党の市田忠義書記局長が七日、裁判員制度の延期を求めて国会内でおこなった記者会見の要旨を紹介します。
一、今日会見を開いたのは、裁判員制度についての日本共産党の態度について明らかにするためです。裁判員制度が、来年五月から実施されます。年内にも裁判員候補が決定され、約三十万人にその通知がなされる予定になっています。
一、日本共産党は以前から司法制度の民主的改革を主張し、民主的で公正な司法を実現する第一歩であり、国民への司法参加の出発点になるものとして、裁判員法に賛成しました。この法律は、二〇〇四年に成立したものです。
一、同時に、わが党は、裁判員制度の実施と導入にあたっては、「さまざまな環境整備」が必要であることを賛成したおりにも強調し、実施までの間に、政府や裁判所が必要な環境整備をおこなう必要があることを一貫して主張し、関係する委員会の場でもさまざまな問題点を指摘し、改善を求めてきました。
一、制度の実施まで一年を切ったにもかかわらず、この制度にたいする国民の合意がなく、このまま実施することには国民の納得をえられないこと、また国民が参加しやすい制度という点でも、この間の条件整備はけっして十分ではなかったこと、さらに、冤罪(えんざい)を生まない司法を実現するという点でも、現状のままでは重大な問題点をはらんでいるといわなければなりません。また、この問題を直接担当する法曹関係者からも、深刻な懸念が表明されています。したがって、来年からの制度の実施については再検討し、実施を延期することを強く求めます。
国民の合意・理解が得られていない
一、制度実施の延期を求める第一の理由は、裁判員になることにたいして、国民の多数が消極的、否定的な意見をもっていることです。日本世論調査会による調査(三月)によれば、裁判員を務めたくないという立場を表明した人は72%、務めてもよいと表明した人は26%で三倍に達しています。この制度を管轄する最高裁の調査でも、「参加したくない」とする意見(38%)は、「参加してもよい」(11%)の三倍以上となっています。
裁判員制度に対する国民の合意がないまま制度を実施するなら、司法制度の民主化と国民の裁判参加という制度の前向きの方向に逆行する重大な矛盾に直面することは明白です。
国民からの理解を得られていないということです。制度に賛成の人も反対の人も、世論の状況を見ると、圧倒的な国民が裁判員にはなりたくないと考えている。国民的合意が得られていないもとで、すでに決まっているからといって来年五月から実施するというのはよくない、というのが、第一の理由です。
安心して裁判員になる条件が整っていない
一、第二の理由は、国民が安心して裁判員になるための条件整備が、依然として整っていないことです。
その一つは、仕事や日常生活との関係で、裁判員になることが過大な負担となりかねないことです。裁判員になれば、最低でも三日間から五日間、場合によっては一週間や十日以上にもわたって、連続的に裁判員として裁判に参加しなければなりません。この間、どのような地域に住もうと、どんな職種であろうと「原則として裁判員を辞退できない」とされています。しかも、会社員の場合、それが「公休」扱いされるかどうかは、個々の企業の判断に委ねられることになっています。中小零細企業や自営業者の場合も、辞退できるかどうかの明確な基準はなく、それぞれの裁判所の判断に任せられています。
二つ目は、裁判員になることにともなうさまざまな罰則が設けられている問題です。その代表的な例が、裁判員の「守秘義務」です。これは、判決にいたる評議などについて、家族であれ友人であれ、その内容を明らかにすることを禁じたものですが、それに違反した場合、「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が科せられることになっています。わが党は、裁判員法の採決にあたって、こうした罰則を取り除く修正案を提起しましたが、改めてこうした罰則のあり方を検討することが求められています。
三つ目は、裁判員になることの心理的な負担・重圧や、思想・信条にかかわる問題です。裁判員制度の対象となる裁判は、死刑や無期懲役・禁固刑につながる「殺人」や「強盗致死傷」、「放火」などのいわゆる「重大犯罪」です。こうした裁判では、ふだん接することのない犯罪被害者や現場の写真、証拠などに直接触れることになります。
これが心理的負担になることは、当の裁判所自身が「裁判員の心のケアが必要」というほどのものです。一方、国民の間には、死刑制度をはじめとして「人を裁くこと」にたいして、否定的な見方も含めさまざまな考え方があります。各種の世論調査でも、裁判員になりたくないとする最大の理由は、「有罪、無罪の判断が難しい」「人を裁くことをしたくない」などが挙げられます。
「冤罪」を生まない制度的保障がない
一、第三の理由は、「冤罪」を生まないための制度的な保障がないことです。この点で、最も懸念されることは、裁判の対象が重大犯罪であるにもかかわらず、最初から三日ないし五日間程度で結審すると見込んでいることです。裁判を短期間で終わらせるために、裁判員制度の導入の際に「公判前整理手続」を行うことになっていますが、これは、裁判員を除く職業裁判官と検察、弁護士の三者が、非公開で裁判の進め方と証拠、論点を事前に話し合うというものです。しかし、証拠の開示が捜査当局の一方的な意思の下に置かれ、警察や検察による被疑者の取り調べが密室で行われている現状で、こうした制度が導入されれば、裁判員裁判が「冤罪を生む新たな舞台」にさえなりかねないということです。
一、裁判員制度については、それを直接担うことになる法曹関係者からも延期を求める声があがっていることは、真摯(しんし)に受け止めなければなりません。いくつかの弁護士会もそういう意見表明をしています。
国民の間に合意がなく、法曹関係者の中にもさまざまな意見があります。
こういう主張や現状を無視したまま制度を実施するなら、重大な禍根を残す結果にならざるを得ません。したがって、再検討をして実施の延期を求めるというのが、わが党の立場です。