2008年8月29日(金)「しんぶん赤旗」
派遣法改正
「登録型」規制盛らず
労政審部会に 厚労省「たたき台」
厚生労働省は二十八日、労働者派遣法改正の骨格となるたたき台を、労働政策審議会部会に示しました。
低賃金と不安定雇用が問題となっている日雇い派遣を規制するため、三十日以内の短期雇用を原則禁止とするなど規制強化の方向が盛り込まれました。
しかし、現行法で規制している労働者委員が求めてきた登録型派遣の原則禁止や、違法派遣をすれば派遣先が雇用したとみなす「直接雇用のみなし規定」、派遣先の労働者との均等待遇などは盛り込まれませんでした。
日雇い派遣については原則禁止の一方で、職業紹介で日雇い仕事をあっせん。政令で定める例外としては、現在、期間制限がない専門二十六業務に「労働者保護に問題のない業務」も加えています。
不安定な登録型派遣は常用化をすすめるとして、一年以上の派遣労働者は期限のない派遣労働者に雇い入れることなどを派遣先の努力義務とします。
待遇について派遣先の同種の労働者の賃金を考慮するよう指針に定め、派遣料金などの情報公開を義務付けます。
違法派遣については派遣先が従前以上の条件で雇用契約を申し込むよう行政が勧告。脱法行為と指摘されているグループ企業内派遣は、グループ企業に派遣する人員の割合を八割以下とする規定も盛り込みました。
一方で、派遣先の雇用契約の申し込み義務や、派遣先が派遣労働者を特定する行為(現在禁止)については、期限の定めのない雇用契約の派遣労働者については問題がないとして適用除外とすることが盛り込まれました。企業側が求めてきたものです。
製造業禁止に戻すべきだ
労働者代表主張
審議会では、使用者側が日雇い派遣の原則禁止に批判的な意見を出しました。
全国中小企業団体中央会の代表は「日雇い派遣は電話一本ですむので便利で使い勝手がいい。同程度に使いやすい制度を」「日雇い派遣はイメージが悪いので呼び名を変えてほしい」と主張しました。
これに対し、労働者代表の古市良洋・全建総連書記長は、「雇用責任を放棄して手軽に利益をあげることに批判が高まっていることをみていない」と批判。「登録型の常用化では解決しない。せめて製造業禁止まで戻すべきだ。違法派遣はみなし規定の法律でシロクロをつけるべきだ」と求めました。
長谷川裕子連合総合労働局長は、直接雇用が原則であって間接雇用を規制するという立場に立つべきだとのべ、「登録型派遣を何とかしなければいけない」と強調しました。
解説
抜本改正へ議論尽くせ
「自由化」10年
厚労省が示した派遣法改正のたたき台は、有識者研究会の報告を基本にしたもので、日雇い派遣の原則禁止など規制強化の方向が盛り込まれています。
しかし、労働者側が求めてきた登録型派遣の禁止や、派遣先が違法行為をした場合は直接雇用したとみなす規定などはすべて盛り込まれませんでした。
これは、日雇い派遣の禁止にとどまった有識者研究会の枠を押し付けようとするものです。公労使の代表でつくる審議会で出された主要な意見が排除されることなどあってはならないことです。
日雇い派遣の禁止にとどまらず、抜本改正を求める世論と運動を無視して有識者研究会報告の枠内におしとどめることは許されません。
日雇い派遣についても三十日以内の禁止では、製造派遣などで三カ月から六カ月契約が横行している現状では不安定雇用はなくなりません。登録型派遣の常用化も努力義務にとどめており、不安定雇用を解決する力にはなりません。禁止の例外を現在の専門業務以外にも広げる方向を打ち出していることも、実効性が問われかねません。
低賃金と不安定雇用を生み出す大本にある登録型派遣の抜本的な規制に踏み出すことこそ求められます。
違法派遣について、派遣先が直接雇用を申し込むよう行政が勧告する制度を設けることは、違法行為をただして労働者の雇用を守るうえで一歩前進です。
しかし、勧告に従わないことも可能であり、労働者の雇用を守る力になるかどうか問われます。偽装請負が問われた松下プラズマ事件判決では、憲法と労働法に反しているとして、派遣先と労働者の間に「黙示の労働契約が成立している」と認め、派遣先に直接雇用を命じました。労働者が雇用されていると認めることこそ、労働者の権利を守る一番の力になるものです。
派遣労働の自由化から十年となる節目の今こそ、こうした判決の到達点も踏まえて、抜本改正に向けて議論を尽くすべきです。(深山直人)
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