2008年9月12日(金)「しんぶん赤旗」
『日本のオーケストラ2008』から考える
楽団と楽団員の賃金、労働条件は
日本音楽家ユニオン発行の『日本のオーケストラ2008――賃金労働条件等実態一覧』(同オーケストラ協議会編集)が発行されました。このデータは現在、日本のプロ・オーケストラ二十五団体を網羅しています。調査項目は、年間総経費、助成金から、楽団員数、平均年収、諸手当、労働日数など、三十三項目におよび、毎年発行されています。
日本には芸術団体と専門家の両者の状態を明らかにするデータがほとんどないだけに、文化行政を考えるうえで欠かせない貴重なものです。二〇〇八年版が発行されたのを機会に、経年で比較可能なオーケストラの状況をみてみました。データからはとりわけ、自主運営オーケストラと自治体オーケストラで楽団と楽団員の状況が悪化していることがわかりました。
労働条件の悪化
今日、国民生活の困難から、舞台芸術は一般に公演自体が厳しくなっているといわれます。そのなかで、オーケストラの公演数は増加し、年間演奏回数は二〇〇三年以降、それまでの年平均百三十回台から百四十回台に増えています。ところが、事業収入は二〇〇三年と二〇〇八年とを比べてもほとんど変わりません。
逆に、楽団員の労働条件は悪化し、年間の休日は、二〇〇一年と比較して年平均で九日も減っています。また、楽員の平均給与は、二〇〇三年から減少に転じています。たとえば、日本フィル(四百八十一万から四百五万円)のような自主運営オーケストラや、自治体オーケストラでも、神奈川フィル(四百二十六万から三百八十三万円)、都響(七百三十三万から六百八十四万円)などで急速に悪化しています。
オーケストラの努力で公演数は確保し、楽団員はこれまで以上に働いているのに、事業収入は増えず、給与は減少しているのです。
公的助成の後退
背景には、「構造改革」路線がすすむなか、国民の鑑賞条件が厳しくなり、一公演あたりの聴衆が減少している事実があります。加えて、オーケストラと楽団員の苦境にたいして、それを支えるべき公的助成が削減・改悪されているという問題があります。
フランスやドイツでは、オーケストラの経費のうち公的助成の占める割合が、七〜八割に達しています。ところが、日本では全体でも、二〇〇三年で26・6%だったのが二〇〇七年には25・9%に減少しています。自主運営オーケストラは、もともと13・1%と低かったのが11・5%になっています。自治体オーケストラでも、49・6%から46・7%に減少しています。
公的助成は国と地方がありますが、地方自治体の助成は「財政危機」を理由に二〇〇〇年段階から一貫して減少し、国の助成は、二〇〇一年から〇三年までは微増ですが、それ以降は減少しています。また、二〇〇五年に国の助成方法が改悪され、団体単位の助成が、公演ごとの助成になったため、オーケストラ側からは長期の計画を組みにくいものになったと指摘されています。助成方法の改善とともに助成率を上げていくことが求められています。
辻 慎一(党学術・文化委員会事務局次長)