2008年9月19日(金)「しんぶん赤旗」
労政審、結論持ち越し
労使双方から意見相次ぐ
労働者派遣法の見直しを検討している労働政策審議会労働力需給制度部会は十八日、公益委員が作成した報告案が示されましたが、労使双方から意見が相次いだため、次回に持ち越しとなりました。
報告案は前回とまったく同じもので、労使双方から意見が出たにもかかわらず、「修正する必要がない」として何の修正も加えていないものです。
日雇い派遣は原則禁止するものの、不安定雇用を生む登録型派遣はそのまま。違法行為に関与した派遣先の責任は雇用契約を申し込むよう勧告することにとどめ、派遣労働者の待遇改善については派遣先労働者の賃金などを考慮要素の一つにするよう「努力義務」とする内容です。
この日の会合で労働者側は「日雇いにとどまらず、登録型派遣について規制を検討すべきだ」と改めて主張。違法な派遣先への勧告も行政の裁量にまかされているとして、違法行為があれば派遣先と労働者の間に雇用契約が成立しているとみなす「みなし雇用」を導入するよう求めました。
派遣労働者の待遇改善には報告案では実効性がないとして、均等待遇の原則を明記すべきだと主張しました。
これに対して使用者側委員は、日雇い派遣の原則禁止については異論を唱えなかったものの、常用化をすすめるためという名目で、最長三年の派遣期間の制限やそれを超えた場合の雇用契約の申し込み義務を除外するよう主張。派遣先労働者の賃金を考慮して賃金などを決めることにも、「企業が違うのだから採用すべきでない」として反対しました。
議論尽くし抜本改正を
労働政策審議会の労働需給制度部会が報告をまとめることができないのは、審議会を支える厚労省が有識者研究会報告(七月)に固執し、実態にもとづいた徹底した議論と意見集約を尽くそうとしないからです。
相次ぐ規制緩和によって増大した派遣労働が「ワーキングプア」の温床となり、社会問題になっているにもかかわらず、研究会報告は抜本改正に背を向けて規制強化も不十分な内容にとどめました。
不安定雇用を生み出す大本にある「登録型派遣」(仕事があるときだけ働く)の規制や、派遣先の雇用責任を強化する「みなし雇用」(派遣先と労働者の間に雇用契約が成立しているとみなす制度)も、「現行では難しい」などというだけでまともな理由もなく退けました。
その背景には、与党のプロジェクトチームが同じ枠組みの報告書をまとめていたことも影響していました。
しかし、研究会はもともと労使の意見がまとまらなかったのを受けて有識者の意見を聞こうと設けられたものです。報告を尊重するとしても、審議会がこれに拘束される理由はありません。
この日の審議では労働者委員が登録型派遣の規制や「みなし雇用」を主張したのに対し、使用者委員からはこれまでの日雇い派遣禁止反対の主張は影をひそめました。最初は意見が対立していても実態に基づいて議論を尽くすなかで、どちらの主張に道理があるのかが明確になり、一定の意見集約も可能になるものです。しかし、そうした議論が尽くされたとはいえません。
派遣法の抜本改正は人間らしい労働を取り戻すだけでなく、日本社会を健全に発展させるうえでも不可欠の課題です。拙速な審議ではなく議論を尽くして抜本改正を図ることこそ審議会に課せられた使命です。(深山直人)