2008年9月20日(土)「しんぶん赤旗」
文科省
「靖国」訪問を奨励
侵略戦争美化 神社へ学校行事で
文部科学省が都道府県教育委員会の職員を集めた説明会で、「学校行事として靖国神社を訪問してよい」とする政府答弁書を配布していたことが十九日、明らかになりました。かつて国民を侵略戦争に動員する役割を果たし、現在も「日本の戦争は正義の戦争だった」という歴史観を広げている靖国神社に、学校が子どもを連れて行くことを事実上、奨励したものです。
政府答弁書が資料として配られたのは、文科省が主催した小・中学校それぞれの新教育課程中央説明会の特別活動部会です。学習指導要領の改定を受け、六月末から七月はじめの二日間の日程で開かれました。
政府答弁書は平沼赳夫衆院議員(無所属)の質問主意書に答えたもので、五月二十三日に閣議決定しています。政府はこのなかで「靖国神社について他の宗教的施設と異なる取扱いをする理由もない」として、児童生徒が「歴史や文化を学ぶ目的で訪問してよい」との見解を示しました。
文科省の初等中等教育局教育課程課は、資料を配布、説明した理由について「学習指導要領の定めている学校行事との関連が深いので、一応、情報提供しておく必要があるだろうと(判断した)」とのべています。
同省の説明会を受け、北海道と埼玉県では、教育委員会が平沼氏の質問主意書や政府答弁書を各学校の教育課程担当の教師に配布しています。
解説
背景に「靖国」派の狙い
政府・文部科学省が学校行事での靖国神社訪問を解禁、奨励した背景には、侵略戦争を美化する「靖国」派のねらいがあります。
一九四九年十月に文部省(当時)は、学校主催の靖国神社訪問を禁じる事務次官通達を出しました。自民党の衛藤晟一参院議員が、今年三月二十七日の文教科学委員会で、通達が失効しているのか、いないのかについて質問。渡海紀三朗文部科学相(当時)は「既に失効している」と答弁しました。
この答弁を受け、平沼赳夫衆院議員が質問主意書で通達の失効を再度確認。「(通達が)有効であるという誤解が全国の教育委員会に残っている」として「誤解を払拭(ふっしょく)するための具体的措置」を求めました。
平沼、衛藤両氏は「靖国」派議員でつくる日本会議国会議員懇談会のメンバーで、平沼氏は会長です。自民党の麻生太郎幹事長も同会の前会長で特別顧問です。
平沼、衛藤両氏は質問主意書や文教科学委員会で、「(靖国神社を)学校行事として訪問し、我が国の戦没者追悼のありかたを知る機会を奪われてきたということは大変遺憾」とのべています。
しかし、靖国神社の「遊就館」の展示は「日本の戦争は自存自衛の戦争」「アジア解放のための戦争」と、侵略戦争を美化する特異な歴史観でつくられています。このようなところに「授業の一環として、歴史や文化を学ぶことを目的として」(政府答弁書)子どもを連れて行くことは、誤った歴史認識をもたせる危険があります。
埼玉県教職員組合の北村純一書記長は「批判的精神や別の角度から物事を見るという学習の土台が発達していない子どもたちを、侵略戦争を推進してきた靖国神社で学習させることは許されません。復古調の強い新学習指導要領の導入に伴い、どさくさ紛れに行われているように感じます。教育課程を編成するのは現場の教師です。政府や教育委員会が圧力をかけることは絶対あってはならない」と話します。
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