2008年10月1日(水)「しんぶん赤旗」
08年 選択
自衛隊インド洋派兵
継続ねらう自公
戦争でテロはなくせない 共産党
米原子力空母ジョージ・ワシントンが米海軍横須賀基地に初入港した9月25日、ウィンター米海軍長官は海上自衛隊のインド洋での補給活動の継続を日本に迫りました。麻生太郎首相はこれに呼応するかのように、ニューヨークの国連本部で派兵継続を公約。自公政権は高まる国民の批判に抗して派兵継続を強行しようとしています。総選挙の大きな争点です。(坂口明)
検証に耐え得るか
防衛省が一千万円以上の税金を使ってポスターやパンフの宣伝作戦を展開するなど、政府は海自のインド洋派兵継続に躍起です。その一環として全国十四カ所で「防衛問題セミナー」を開催。第一弾のさいたま市のセミナーに行くと、首をかしげたくなる主張の連続でした。
防衛省北関東防衛局の鎌田昭良局長や外務省総合外交政策局安全保障政策課の山本雅史・課長補佐らの講演の要点は、こうです。
(1)テロとのたたかいの主戦場はアフガニスタンだ。
(2)アフガンで活動するテロリストの武器や資金を含む流入ルートは、陸路ではなくインド洋だ。小船で移動するテロリストに対し、米国など七カ国の十五隻程度の艦船で海上阻止活動をする。
(3)日本は、それらの艦船が常時活動できるように洋上補給をしている。中断すると日本の地位は低下し、国際社会から孤立する。
これらは現実の検証に耐えるでしょうか。
「治安は不安定」と
アフガン戦争は、“9・11テロ首謀者のテロ組織アルカイダをかくまう者もアルカイダと同罪だ”との「報復戦争」の理屈で、武装勢力タリバン政権打倒のために開始。タリバン追放後も七年近く続き、第二次世界大戦より長期化しています。
民間人の死者は二〇〇六年の九百余人から〇七年には千六百余人へと急増。特に米軍中心の空爆による死者は三倍化しています。
タリバンは全土の八割近くで“復活”。現地で五年近く農業支援などをしてきた日本人NGO活動家の伊藤和也さんが殺害される悲劇も起きました。
八月下旬、同国西部ヘラート州で「武装勢力掃討」作戦に従事していた米軍の空爆で民間人九十人以上が殺害されました。カルザイ大統領も「対テロ戦争に勝てるのは国民が支持している時だけだ。それには民間人の犠牲を避けなければならない」と悲鳴を上げています(九月九日)。
「防衛問題セミナー」でも、一カ月のテロ攻撃などの平均事件数は、〇六年に四百二十五件だったのが〇七年には五百六十六件になるなど、「治安は不安定の度合いを強めている」と報告されました。
七年も戦争を続け、外国軍部隊が増加の一途をたどっているのに情勢は泥沼化。それは「戦争でテロはなくならない」ことを証明しています。
現実を見ない虚構
同セミナーでは、テロ勢力は「陸路を使わず」インド洋を経由すると説明し、海自の給油支援の意義を強調しました。ところが、いまアフガンで問題にされているのは、各種の武装勢力が地続きのイラクから流れ込み、増強されていることです。
しかも、インド洋に二回派遣された元インド洋派遣海上支援部隊指揮官の久野敬市・一等海佐(自衛隊千葉地方協力本部長)がセミナーで述べたように、海自が給油する外国艦船は日本列島がすっぽり入ってなお余りある広大な海域で海上阻止活動をし、「ザルにもならないぐらい」の効果しかありません。
周辺のソマリア沖で海賊行為が多発する問題についても、米誌『ニューズウィーク』九月一日号は、「米国の対テロ戦争がソマリアの政変を招き、それが海賊を横行させた」と指摘します。
“アフガンでテロを戦争で抑えつければ世界中のテロは対処できる、それを支援する海上給油こそ日本の最大の国際貢献で、そこからの離脱は孤立への道だ”との主張は、現実を直視しない虚構の宣伝でしかありません。テロ問題に対処するには、アフガン戦争の現実に立ち、「戦争でテロはなくせたか」がまず問われるべきです。
民主の危険な対案
海自のインド洋派兵の根拠とされる新テロ特措法は来年一月に期限切れになります。自民、公明の与党は、米国の要求に応じ、同法延長法案を国会に提出しました。
民主党は、同法案には反対するものの、海外派兵の恒久法の制定などを定めた、政府案以上に危険な対案を示し、アフガンへの陸上自衛隊派兵の構想を打ち出しています。
日本共産党は、自衛隊のインド洋・アラビア海からの速やかな撤兵を強く求め、派兵恒久法策定など、憲法を踏みにじる海外派兵のあらゆるくわだてに反対します。
各党の態度
日本共産党
9・11対米同時多発テロを厳しく非難。そのうえで、「テロ根絶のためには、軍事力による報復でなく、法にもとづく裁きを」と主張。旧テロ特措法に対し、違憲の報復戦争支援法だとして、一貫して反対してきました。派兵延長に対しても、戦争支援でなく、政治解決への支援に切り替えるべきだと「戦争でテロはなくせない」ことをイラクやアフガニスタンの現実から告発。
自民党・公明党
旧テロ特措法を衆参両院でわずか合計9日間の委員会審議で成立を強行(2001年10月)。しかし、同法が07年11月に期限切れを迎え、海上自衛隊は撤退。それでも新テロ特措法の制定を狙い、参院で否決されたにもかかわらず、衆院で再議決を強行(08年1月)。
民主党
旧テロ特措法に対しては、「自衛隊の活用も含めた新たな対応措置が必要」として派兵そのものは当然視。ただ、国会承認などをめぐって「修正」を求め、法案には反対。新テロ特措法に対しては、「復興支援」を口実にアフガニスタンへの地上派兵を可能とし、恒久法制定も求めた「対案」を国会に提出。
派兵継続迫る米政府首脳ら
▽イングランド国防副長官
アフガンでは「ヘリコプターが不足」しており、「日本の協力を期待する」(三月に訪米した自民党議員に対し)
▽バウチャー国務次官補
「同盟国や友好国がアフガンでとるどんな追加的役割も歓迎する」(八月八日、東京での記者会見でアフガンへの自衛隊地上部隊派遣について問われ)
▽ウィンター海軍長官
「日本の海自の『不朽の自由作戦』での多国籍軍艦船への洋上給油活動での指導的役割は、必要不可欠なものだ。皆さんのアフガンでの持続的なコミットメントは、達成された成果の確保に役立つ」(九月二十五日、米海軍横須賀基地での演説)
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