2008年10月15日(水)「しんぶん赤旗」
主張
米国発金融危機
国民に犠牲を転嫁するな
七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)を受け、株式市場の悲観論が一時的に後退しています。
アメリカ発の金融危機に対してG7がまとめた「行動計画」は、主要な金融機関の自己資本を「公的資金」と「民間資金」で増強することを盛り込んでいます。一方で日本政府は、麻生太郎首相を先頭に、「資本投入をする以外に米国の金融の混乱は収まることはない」と、もっぱら税金投入論を主張しています。
失敗した日本のやり方
金融危機の発端となったアメリカの住宅バブルの崩壊は、すぐには収まりそうにありません。金融機関の損失が底なしに拡大するなら、投入する税金も際限がなくなり、イラク戦争や富裕層減税で積み上がったアメリカの財政赤字も歯止めがなくなります。
金融危機は米国を代表する産業を巻き込んで深刻化しています。自動車最大手のゼネラル・モーターズ(GM)は、販売不振と金融部門の収益悪化で債務超過が空前の約六兆円に達しています。同じく金融部門の比重が高いゼネラル・エレクトリック(GE)も、著名な投資家に巨額の出資を仰ぐほど財務基盤を傷めています。
アメリカ経済は倒産・失業の急増、消費の冷え込み、住宅市場のいっそうの低迷へと悪循環を深めている状態です。
何より、税金投入には世論の強い反対があります。ゴールドマン・サックス出身のポールソン財務長官ら、バブルにおどった金融業界で数百億円の巨額報酬を受け取ってきた張本人が、税金投入の旗を振っています。アメリカの国民が怒るのは当然です。
専門家からも厳しい批判が出ています。「金融業界が住宅ローンに対する投機的なパニックの犠牲者ではないことを認識するべきである」(ケネス・ロゴフハーバード大教授、『週刊東洋経済』)
日本政府は「日本の経験をぜひ参考にしていただく」(中川昭一財務・金融相)と、一九九〇年代後半の銀行への税金投入を自画自賛しています。
しかし、国民の反対を押し切って強行した税金投入以降も銀行の貸出残高は減り続け、貸し渋り・貸しはがしが横行し、倒産がいっそう増加したことは歴史的な事実です。九〇年代後半からの超低金利政策は、銀行と大企業を助けると同時に、国民からは巨額の預貯金利息を奪い取りました。
いま大銀行は政府の優遇策で税金もほとんど払わず、中小企業に貸し渋りを続けながら、さらに利益を増やすためにアメリカの大手金融機関に出資しています。産業の“血液”に例えられる銀行本来の役割を忘れ、ひたすら利益追求に走る―。税金投入で甘やかし、やみくもに収益力の強化を迫った金融政策が、大銀行の退廃を増幅させてきたことは明らかです。
暮らし最優先でこそ
日本政府が世界に語るとするなら、金融危機への対応を根本から誤ってしまった失敗を反省とともに伝えることです。それこそ本当の意味での国際貢献です。
アメリカの金融危機の波が及んできているときに、重要なのは景気悪化の犠牲を国民に転嫁してはならないということであり、大企業・大銀行応援から国民の暮らしを最優先で応援する政治に切り替えることです。