2008年10月19日(日)「しんぶん赤旗」
米国発の金融危機 Q&A
Q「カジノ資本主義」の破綻って?
米国発の金融危機が世界や日本の経済に深刻な影響を及ぼしています。この問題を考えます。
A
米国型の経済のことをよく「カジノ資本主義」と呼びます。その破綻(はたん)が、今回の金融危機です。
カジノとは、ルーレット、カードなどを備えた賭博場のことです。英国人経済学者のスーザン・ストレンジ氏は著書『カジノ資本主義』(一九八六年)のなかで、「金融システムは急速に巨大なカジノ以外の何物でもなくなりつつある」(岩波現代文庫)と指摘。世界的な金融カジノの元締めは大銀行などで、農民、輸出業者、小売商、工場労働者などすべての者が、心ならずもその日のゲームに巻き込まれていると述べています。
賭博につぎこむマネーは急拡大します。十一日放送のNHKスペシャルによると、二〇〇七年には、金融資産が実体経済(全世界の国内総生産)の四倍に膨れ上がっています。投機マネーの暴走が、原油や穀物の価格を左右し、実体経済に襲いかかっています。
それを可能にしたのは、金融と資本の自由化でした。マネーは国境を超えて飛び回ります。国民の金を預かる銀行が、証券業務との垣根が取り払われ、ばくちに手を出すようになります。
実業界からも「実体経済からカネをもってラスベガスのカジノへ行くような連中を放ってはおけない」(スウォッチグループ会長のニコラス・G・ハイエク氏、「朝日」十月十六日付)との声が出ています。
金融危機に直面し、求められているのは、小手先の対応ではなく、「カジノ資本主義」との決別です。
どうなる暮らし・経済 どう対応
Q サブプライム問題って?
A
今回の金融危機の直接の引き金となったのが、米国のサブプライム住宅ローン問題です。
プライムとは、最良のという意味です。サブプライムとは、良くないということです。返済を滞ったことがある人など信用力が低い人たち向けの住宅ローン。ただし金利は高い。それが、サブプライム住宅ローンです。
返済されないかもしれない人たちを相手に、なぜこんな住宅ローンが成り立ったのでしょうか。住宅価格が上がり続けていたからです。返済が難しくなったら、値上がりした住宅を担保に新たなローンに借り換えればよかったのです。
この住宅ローンが、株券のように証券化され、ほかの金融商品と組み合わされ、世界中にばらまかれました。格付け会社も最優良の商品とのお墨付きを与えて、売り出したため、急速に広がりました。「毒入りまんじゅう」ともいわれたこの金融商品でぼろもうけしたのは、米欧などの大手金融機関でした。
ところが、米国の住宅価格が下がりはじめるや、こげつき、逆回転がはじまりました。次々と金融機関の損失が明るみに出、米国では五つの証券大手のうち、三つの会社が破たん・再編にのみ込まれました。
国際通貨基金(IMF)の報告は、サブプライム問題を発端にした世界の金融機関の損失が、今後数年間で約百四十三兆円になると推計しています。
Q ツケを雇用や中小企業に回すなって?
A
「カジノ資本主義」の破たんは、米国経済を直撃しました。輸出に頼ってきた日本の大企業は、米国経済の減速がより鮮明になるなかでも、大もうけを続けようと必死です。そのひとつの手段が、労働者や中小企業・業者へのしわ寄せです。
「日経」十月三日付によると、トヨタ自動車は国内工場で働く期間従業員を九月末までの半年間で約二割削減しました。直近三カ月で約千五百人を削減。ピークの〇五年六月の一万一千六百人に比べ期間従業員は四割減った計算になるといいます。トヨタグループでは、本紙も取り上げたように、子会社のトヨタ自動車九州が八月までに派遣八百人を雇い止めにしました。
トヨタのある下請け企業の経営者は、どんな状況になっても、年二回の部品単価切り下げの「定期便」は続いていると嘆きます。
トヨタ自動車は、利益が減ると騒いでいるものの、〇八年四月―〇九年三月期の連結決算で、本業のもうけである営業利益は一兆六千億円、純利益(最終利益)は一兆二千五百億円を見込んでいます。原材料高騰分などをコスト削減で吸収する計画です。
トヨタ自動車の奥田碩前会長は「経営者よ、クビ切りするなら切腹せよ」(『文芸春秋』九九年十月号)といったはず。それを、生きている人間をもうけのために「調整弁」のように使い捨てることは許されません。
「世界一の自動車企業が“リストラの嵐”の引き金を引くというのは許される話ではない。それをやめよということをきちんというのが政治の責任」(日本共産党の志位和夫委員長、十四日の記者会見)です。
Q 貸し渋り・貸しはがしって?
A
金融危機のあおりを受けて懸念されているのが、日本でも金融機関の中小企業に対する貸し渋り・貸しはがしに拍車がかかることです。なかでも、重大な責任があるのが、大銀行です。
〇八年三月期決算によると、みずほ、三菱UFJ、三井住友の三大メガバンクグループが、この一年間で減らした中小企業向け貸し出しは、二兆七千六百億円になります。
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申告所得は、三大メガバンクだけで、年間三兆円近くあるのに、納めた税金は「ゼロ」同然です。「不良債権の早期処理」を名目にした減税措置があるからです。その一方で、三菱UFJが米証券大手のモルガン・スタンレーに九千五百億円を出資するなど、米国の大手金融機関を支えることには熱心です。
日本の大銀行は、バブルに踊り、バブルがはじけるや、国民の公的資金で支援を受けました。それで、大もうけをするようになったのに、税金はまともに納めない、中小企業への貸し出しは減らすでは、銀行の社会的責任が果たせません。
「政府は、三大メガバンクに対して、貸し渋り・貸しはがしをやめなさいという強力な指導をおこなうべきです」(志位委員長、十四日の記者会見)
Q 日本政府は、日本のバブル処理を自慢しているけど?
A
十日、ワシントンで開かれた主要七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)。麻生太郎首相は、中川昭一財務相に「G7では日本の体験を発信してきてほしい」と指示しました。日本の「体験」とは、バブル崩壊後の「金融危機」に公的資金を投入して対応したことです。
日本の「体験」は世界に誇れるようなものだったのでしょうか。当時、J・K・ガルブレイス氏(ハーバード大学名誉教授)が「避けるべきだ」としていた「無謀にも投機ブームを招き、バブルを膨張させた経済主体を救済するようなこと」(「日経」九八年十月九日付)に走ったのが、自民党や公明党でした。公的資金の投入と不良債権の早期処理をあおったのが民主党でした。
預金保険機構の資料によると〇八年三月末現在、公的資金はこれまで約四十六兆八千億円投入され、約十兆四千億円は国民負担となりました。日本長期信用銀行(現新生銀行)は、三兆六千億円の公的資金(国民負担)を注ぎ込み、米国系の投資グループにわずか十億円で売り飛ばしました。
公的資金を投入する口実のひとつは「貸し渋りの解消」でした。しかし、九七年九月と〇八年九月を比較すると、都市銀行など大銀行の貸出残高は百三十二兆円も減っています。四割近い減少です。一方、超低金利政策により十四年間で三百四兆円(日銀試算)の利子所得が家計から金融機関に移転しました。
Q 麻生政権の追加景気対策とは?
A
相変わらず、大企業・大銀行や大資産家の救済を最優先しているのが、麻生自公政権の「追加景気対策」です。
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麻生首相は一日の衆院本会議で、企業の海外利益の非課税化や省エネルギー設備の投資促進税制などを年末にかけて検討すると表明。与党は、上場株式の譲渡益や配当に10%の軽減税率を課す現行の暫定税率(本則は20%)を当面維持することを検討しています。「金持ち優遇」との批判で打ち切りを決めた大口への優遇の継続です。民主党は、さらなる減税まで求めています。
自公政権は定額減税も具体化する予定ですが、一年限り。その後には、麻生首相が提唱する消費税増税が控えています。二〇一一年ごろから毎年1%ずつ引き上げて10%程度にするという構想です。
「カジノ資本主義」に決別することが、求められている時に、麻生自公政権には、投機マネー呼び込みへの反省がありません。いまや東京株式市場の株の売買に占める外国人投資家の比率は六割を超えています。その多くはヘッジファンドと呼ばれる投機基金だといわれています。ばくちのプロ集団が左右する賭博場に、「貯蓄から投資へ」と国民を誘い込む政策は、転換が必要です。
Q いま日本に必要な経済対策は?
A
日本共産党の志位和夫委員長は十日放映のCS放送・朝日ニュースターで、「カジノ資本主義」の破たんの影響が日本経済にも及んでくるときに、「国民、庶民に犠牲を負わせるような対応をするのか、それとも国民、庶民の暮らしを守るという対応をするのか、ここで分かれてくる」としたうえで、次のように述べています。
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「政治の責任としては、国民への犠牲転嫁を許さず、国民生活擁護最優先の政策をとる必要があります。『働く貧困層』をなくす対策をちゃんととる。人間らしい労働のルールをつくる。社会保障の拡充をはかる。中小企業や農業を守る。消費税増税計画はやめ、庶民への減税をはかる。こうやって内需をずっと土台から盛り上げて、外需頼みから内需主導に、大企業から家計に軸足を移す経済政策の転換をはかる。こういうことをやるかどうかが、分かれ道なんです」