2008年10月20日(月)「しんぶん赤旗」

『蟹工船』ブーム

政治革新の可能性はらむ

フランスの識者が見た日本


 小泉「構造改革」に始まる、歴代政権による新自由主義路線が日本社会に与えた影響をどう見るか―。小泉「改革」にかんする論文を発表しているベルナール・トマン仏国立東洋言語文化研究院(INALCO)助教授に聞きました。(パリ=山田芳進 写真も)


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(写真)友人にもらった『蟹工船』の本を手にするベルナール・トマン氏
 1965年生まれ。専門は日本の労働関係。立命館大学や東京大学で研究。現在、日本のじん肺訴訟について研究中。

 小泉政権は、官僚や、それとつながる自民党内の「守旧派」を批判することで、あたかも国民の利益を擁護するかのようにして誕生しました。そして、「郵政改革」のような大衆受けするスローガンで、これによってあらゆる問題が解決するような印象を国民に持たせることに成功しました。

庶民が目覚ます

 しかし、その陰で小泉政権がとったのは、トヨタなど輸出大企業を応援するための、派遣労働の拡大を代表とする規制緩和路線でした。当時、多くの国民は、それがどういう結果をもたらすか気付いていなかったのでしょう。

 安倍政権は、小泉氏の政策を基本的に継承しましたが、安倍氏には、庶民に語りかける言葉がなかった。それで、庶民は目を覚ましました。大企業が潤っているのに、その恩恵を自分たちは受けていないという現実に、気付き始めたのです。

 福田氏は自民党「守旧派」の「リベンジ」として登場しました。しかし福田氏は、貧富の差の拡大、年金・医療保険制度など、庶民が心配する大きな政治的課題解決のビジョンを示せませんでした。

 麻生氏も福田氏と同じ問題を抱えています。表面的には解決を約束しますが、「どうやって」という点が欠けています。

取り繕えぬ格差

 一九八〇年代以降、歴代の政権が、日本社会としてのまとまりを壊してきました。しかしそれは、政治家によるナショナリスト的な発言で隠されてきました。麻生氏もナショナリスト的な人物ですが、もはやそういうやり方では取り繕えないほど格差が広がってきていると感じます。

 ところが、民主党に政治的対案があるわけでもありません。一般国民の中には、政治はもうたくさんだ、という雰囲気もあり、ますます政治離れが進む状況が、もしかしたら今後長く続くかもしれません。

 そういう中で、『蟹工船』が広く読まれているのは驚きです。現在の日本の危機的状況がそうさせているのかもしれません。これは、新たな政治的革新につながる可能性をはらんでいると思います。

 外から見ていると、日本共産党だけが唯一明確な主張をしています。小さくても、勇気をもって現状を告発する存在は大事だと思います。



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