2008年10月30日(木)「しんぶん赤旗」

米軍地位協定

イラクで異論噴出

占領継続の余地/犯罪に免責特権

締結反対の声広がる


 【カイロ=松本眞志】イラク駐留米軍地位協定の行方が不透明になっています。協定案は十五日に米・イラク政府間でいったん合意されましたが、イラク与党勢力内からも異論が続出。国連が定めた外国軍駐留期限の今年末までに協定が締結されるのは事実上困難との見方も広がっています。


 イラクのマリキ政権は二十八日、協定案の修正を協議。マリキ首相は交渉チームを通じて米側に修正を求めていくことを明らかにしました。

 三十一の条文からなる協定案のうち、焦点の一つは米軍撤退の規定です。米軍は二〇〇九年六月末までに米軍基地や米軍使用施設を除く都市部や町村部から撤退し、二〇一一年末までにイラクから全面撤退するとされています。しかしイラク側が求めた場合、駐留延期も可能とするなど占領継続の余地を残しています。

 イスラム教シーア派与党連合・統一イラク同盟(UIA)などは一一年末の撤退厳守を主張、駐留延長を可能にする規定の削除を求めています。

米国の圧力

 もう一つは米軍兵士・軍属の免責特権の問題です。協定案では、米軍基地や施設内での米兵や軍属の犯罪に対して米側に第一次裁判権があるとしています。イラク側に第一次裁判権があるのは米軍基地・施設外での勤務外で行われる「重大」かつ「意図的」な犯罪に限られています。何が「重大」かは米・イラクの共同委員会が判断できるとしています。

 最近、米兵犯罪の第一次裁判権を日本が放棄した日米密約の実態が明らかにされましたが、密約文書を明らかにした新原氏が指摘した「米兵への提訴をぎりぎり最小限にする」という点は、米・イラク協定にも共通しています。マリキ首相所属の与党ダアワ党はこの問題でイラク側権限の拡大を要求しています。

 ゲーツ米国防長官やマレン米統合参謀本部議長は、イラク側の対応に不満を示し、「時間切れになる」「協定案不承認は深刻な結果をもたらす」と圧力をかけています。米側の高圧的態度は逆にイラク側の反発をもたらし、地位協定に賛成するクルド同盟の議員でさえ「圧力をかけるな」と批判するほどです。

市民がデモ

 地位協定案の内容が周知されるにつれて、協定の枠内での権限拡大の要求とともに、協定そのものに反対する動きも広がっています。十八日に首都バグダッドでシーア派のサドル師派を中心とする市民数万人が抗議行動を実施。二十五日には南部の都市バスラでもサドル師派と対立していたUIAの支持者が米軍駐留協定に反対してデモ行進しました。

 イラク紙アッサバハ二十三日付は、国民の七割が地位協定案の是非を問う国民投票の実施を要求していると報じ、イラク国内での地位協定反対の声の広がりを指摘しました。



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