2008年11月2日(日)「しんぶん赤旗」

主張

「濡れ衣」論文

増長させた政治の責任


 任命した防衛相はもちろん、最高指揮官である首相の責任がきびしく問われています。

 航空自衛隊トップの田母神(たもがみ)俊雄航空幕僚長が、民間企業が募集した懸賞に、日本が侵略国家であったというのは「濡衣(ぬれぎぬ)」だと戦前の日本の侵略を否定する論文を執筆し、更迭されました。

 日本が中国で起こした「張作霖列車爆破事件」は「コミンテルンの仕業」だなどという田母神氏の「論文」は、まったく事実にもとづかない妄言です。戦前の「植民地支配と侵略」によって、中国などアジア諸国に「多大の損害と苦痛を与えた」ことをわびた、政府の立場とも真っ向から反します。更迭は当然です。

 田母神氏はこの「論文」なるもので、侵略戦争の責任を日本に押し付けたままでは「集団的自衛権も行使できない」と主張します。事実を曲げてまで過去の戦争への反省を投げ捨てるのは、憲法を踏みにじってでもアメリカとともに海外で戦争するためだと、認めたのも同然です。

 田母神氏は安倍晋三内閣のとき久間章生防衛相によって任命されました。これまでも自衛隊のイラク派兵を違憲と判断した名古屋高裁判決を「そんなの関係ねえ」と非難するなど問題発言を重ねてきました。石破氏は当時、「隊員を思う真摯(しんし)な気持ち」と田母神氏を擁護しました。

 制服組の暴走は危険きわまりないものです。政治の側の甘やかしが増長させたのは明らかです。


学テ結果公表

点数競争の道敷きつめるな

 各地で、全国いっせい学力テストの市町村や学校ごとの結果公表の是非が、問題になっています。大阪府、鳥取県などで公表されました。

 公表をもとめる側は、情報公開の原則をあげます。これにたいし公表を拒む側の理由は、学校の序列化やテスト成績競争の激化などによる教育の荒廃です。子どもについての施策の問題です。教育の荒廃を防ぐことを、何よりも優先することが当たり前のはずです。

 実際、全国学テの弊害は目に余ります。テストに備えてのドリル中心の勉強が重視される一方、「分かった!」と子どもが目を輝かせる授業が減りました。学習に遅れがちな子どもへの指導も手薄になりました。教員は管理職から「点数をあげろ」としめつけられ、創意ある授業ができません。平均点をあげるために不正に手を染める学校さえでました。

 結果公表は、こうした成績競争の風潮をさらに広げます。行うべきではありません。

 文部科学省の実施要領は、「序列化や過度な競争につながらないよう十分配慮」「都道府県教育委員会は、個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わない」などと明記しています。結果公表はこの実施要領に照らしても問題です。

 公表の動きには二〇〇七年の大阪高裁判決が影響しているといわれます。同判決は、大阪・枚方市独自の市内いっせい学力テストについて、情報公開の優位を支持しました。

 しかしその後の学テの弊害を見れば、判決の認識は不十分だったといわなければなりません。一九七六年の「学テ最高裁判決」は、競争激化を防ぐ観点から、全国学テを認める条件に「結果の非公開」をあげました。比較すれば、この見解のほうに現実味があります。

 全国学テの公式の目的は、全国的な学力の調査です。それなら数%の抽出調査で十分です。生徒個人の学習への指導も目的とされていますが、数カ月あとに返されるようなテストでは役にたちません。

 要するに、全国学テは公式にかかげた目的のためには必要がなく、かつ、「こうなってはまずい」とした競争や公表だけがどんどん進んでいるのです。こんなことに毎年数十億円使う金があるなら、教員数をふやし、子どもたちを少しでもていねいに教えられるようにすべきです。

 結果の公表を求めているのは財界です。日本経団連は「結果を学校ごとに速やかに公表する」ことを「重点的に講じるべき方策」の一つに掲げています。教育を点数至上の競争原理で染め上げて、安上がりに、従順な労働者をつくる教育にしようというのがその狙いです。

 ノーベル賞を受賞した益川敏英氏は、昨今のテスト優先の教育を「教育汚染」と呼び、考えない子どもをつくっていると批判しました。

 未来を担う子どもたちの前におとな社会が点数競争の道を敷きつめていいのか。考え直す時にきています。



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