2008年11月8日(土)「しんぶん赤旗」
主張
前空幕長問題
「臭いものにふた」は許せぬ
日本が侵略国家だったというのは「濡衣(ぬれぎぬ)」だと、戦前の日本のアジア侵略を否定する論文を発表した田母神(たもがみ)俊雄前航空幕僚長を、懲戒処分もせず、退職させた政府の態度に批判が高まっています。
もともとは、侵略戦争美化の発言をくりかえしていた田母神氏を航空自衛隊トップの空幕長に任命した、政府・防衛省の任命責任が問われる問題です。「臭いものにふた」をするような政府の態度が批判されるのは当然です。田母神氏自身の責任とともに、政府・防衛省の責任を明らかにすることが真相究明と再発防止に不可欠です。
憲法へのクーデター
民間企業の懸賞論文で日本の侵略を否定した田母神氏の主張は、戦後の出発点を否定し、政治の根幹を揺るがす重大なものです。
日本国憲法は戦前の侵略戦争を反省し、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」すると明記しています。田母神氏の論文はこの戦後政治の出発点を根本からくつがえす、戦後憲法に対するクーデターともいうべき大罪です。
政府・防衛省は、田母神氏の論文公表を「文民統制に反する」とはいいますが、憲法をふみにじるという認識は示していません。日本共産党の井上哲士議員が、憲法尊重擁護義務を定めた憲法九九条に違反するとの認識があるかとただしたのにも、浜田靖一防衛相は「そこまでいっていない」と答えました(六日の参院外交防衛委員会)。そうした認識だから、田母神氏の処分ができないのです。
田母神氏の論文が、「植民地支配と侵略によって」アジア諸国民に「多大の損害と苦痛」を与えたことを認めた「村山首相談話」(一九九五年八月)など、アジア外交の土台となる政府の公式見解に反しているのは明らかです。だからこそアジア諸国から批判が噴出しているのであり、その意味でも政府は田母神氏の問題をあいまいにすべきではありません。
重大なのは、田母神氏は空幕長になって突然こうした主張を始めたのではなく、統合幕僚学校長など、空幕長になる以前からその異常な主張は防衛省や自衛隊内部ではよく知られていたことです。侵略戦争美化をくりかえす田母神氏を空幕長に任命し、続けさせてきた政府・防衛省の責任は重大です。
空幕長は、内閣の承認を得て防衛相が任命します。この点では河村建夫官房長官も「内閣にも責任がある」と認めています(六日の参院外交防衛委員会)。田母神氏は安倍晋三内閣の時代に久間章生防衛相が任命し、福田康夫内閣でも、麻生太郎内閣でも空幕長を続けてきました。当時の状況を徹底的に調査し政府・防衛省の責任を明確にしないで辞めさせるだけでは、「臭いものにふた」といわれても弁解の余地がありません。
自衛隊強化策が背景に
田母神氏が応募した懸賞には九十四人もの幹部自衛官らが応じていたことも明らかになりました。政府は事実関係を徹底調査し、防衛大学校の教育内容を見直すなど再発防止にとりくむべきです。
背景には、政府が自衛隊の増強を続け、海外派兵などの任務を与え、自衛隊の発言力増大を認めてきたことがあります。田母神氏の論文を自衛隊暴走の一歩にさせないためにも、「防衛」政策の根幹に踏み込んだ議論が不可欠です。