2008年11月9日(日)「しんぶん赤旗」
主張
滞納への制裁
これは奨学金でなく金貸業だ
政府による奨学金制度の見直しをうけ、日本学生支援機構(旧日本育英会)が奨学金の滞納者情報を信用情報機関に通報するしくみを来年度から導入する方針を決めました。返還が数カ月遅れると“ブラックリスト”に載せられ、銀行でローンを組んだりクレジットカードの作成が困難になります。
「延滞率の高い大学名の公表」や「回収業者への成功報酬付与」も検討しています。これらは政府が「骨太方針二〇〇六」(〇六年七月決定)で打ち出した奨学金の「有利子上限(3%)の撤廃」や「回収強化」の具体化です。奨学事業を金融事業に変質させるものです。
学業を守る制度が
奨学金とは、憲法の「教育を受ける権利」にもとづいて、経済的な理由で学業をあきらめる若者をうまないためのものです。営利を目的に、返済能力のある人だけに融資する金融事業とは、目的も貸し出す対象も全く異なります。
「世界一高い」学費のために、四年間の学生生活には、約九百万円が必要です。一般の家庭にとって過重な負担であり、奨学金は欧米諸国のように返還の必要のない給付制とすべきです。ところが日本は貸与制で、卒業後何百万円もの借金を背負わせています。
若者の二人に一人は低収入の非正規職についています。多くの若者にとって、すぐに返還するのは困難です。こうした奨学生に、返還を猶予するのでなく、数カ月遅れたことで制裁するとは、非情というほかありません。
こんなことがまかり通れば、進学意欲をもつ若者が、奨学金を借りることさえちゅうちょせざるをえなくなります。返済する見通しや条件を持つ者しか借りられないのでは、奨学金ではありません。
政府は滞納増を口実にしていますが、それは奨学生の急増(十年で二・六倍)によるもので、単年度の返還率は94%、繰り上げ返済も含めれば100%を超えており、機構の業績悪化や奨学生のモラル低下があるわけではないのです。
しかも返還が遅れている理由をみると、低所得が45%、無職・失業が24%など、経済的困窮が圧倒的です。現行の奨学金にも、災害、傷病、失業や失業に準ずる理由による生活困窮の場合は、返還を猶予する制度があります。この要件を満たしながら、未申請のために、無用な取り立てに追われている奨学生が少なからずいます。猶予制度を弾力的に運用するなど、ていねいな支援こそ必要です。
奨学金の変質の震源地の一つは、財界団体の経済同友会が、奨学金は「金融事業だから民間に委ねるべき」と提言(〇七年)したように、金融市場の拡大をもくろむ銀行業界にあります。
投機に熱中し、貸し渋っている大銀行の要求にこたえる一方、若者の教育権を保障するために必要な数十億円は出し渋る―政府のこの逆立ちした姿勢を、根本から正さなければなりません。
安心できる制度へ
日本共産党は、学費問題の「提言」(四月発表)で、奨学金は以前のようにすべて無利子に戻し、低賃金などの事情で返済が困難な場合、イギリスのように一定の収入(年三百万円)に達するまで返済を猶予することと給付制奨学金の導入を提案しています。
誰もが安心して利用できる奨学制度への充実こそ、いま必要です。
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