2008年11月12日(水)「しんぶん赤旗」

大企業・大銀行応援か、
国民のくらし応援か

景気悪化から国民生活を守る
日本共産党の緊急経済提言


 日本共産党の志位和夫委員長が十一日、国会内での記者会見で発表した「大企業・大銀行応援か、国民のくらし応援か―景気悪化から国民生活を守る日本共産党の緊急経済提言」の全文は次の通りです。


 アメリカ発の金融危機は、世界経済の大混乱を引き起こし、日本経済にも深刻な影響を与えています。いま起きていることは、単なるバブルの崩壊ではありません。極端な金融自由化と規制緩和をすすめ、投機マネーを異常に膨張させ、世界有数の巨大金融機関が先頭にたって、ばくちのような投機=マネーゲームに狂奔する――「カジノ資本主義」が破たんしたのです。世界の経済と金融のあり方の根本が問われています。

 同時に、日本の景気悪化をここまで深刻にさせている根本には、極端な“外需=輸出だのみ”という日本経済が抱えているぜい弱性があります。そのために、アメリカ経済が減速し、世界経済が混乱すると、日本の景気悪化が一気にすすむという事態がつくられているのです。

 こうしたもとで、政治はどのような責任を果たすべきかが、いまきびしく問われています。日本共産党は、この経済危機にさいして、次の三つの柱で、国民生活を守るために、政治がその責任を果たすことを求めるものです。

 ――「ばくち経済」(カジノ資本主義)破たんのツケを国民にまわすことを許さない。

 ――「外需だのみから内需主導へ」、日本経済の抜本的な体質改善をはかる。

 ――「カジノ資本主義」への追随からの根本的転換をはかる。

(1)「ばくち経済」(カジノ資本主義)破たんのツケを国民にまわすことを許さない

 いま景気悪化を理由に、大企業・大銀行が競い合って、大規模な労働者の「首切り」「雇い止め」をすすめ、中小企業を下請単価の買いたたきや貸し渋り・貸しはがしで倒産に追い込むといった事態がすすんでいます。

 「ばくち経済」(カジノ資本主義)によってつくられた景気悪化のツケを、国民にまわすことを許さないために、政治はあらゆる手段をつかって責任を果たすべきです。

大失業の危険から国民を守る

 大企業の身勝手なリストラをやめさせる……いま、大企業が派遣社員や期間社員などを「雇い止め」にする動きが広がっています。トヨタ自動車とそのグループ企業では、7800人におよぶ期間社員、派遣社員の「首切り」をすすめています。日産780人、マツダ800人、スズキ600人などというように、大企業が相次いで派遣社員の削減計画を発表しています。このような大量解雇がいっせいにおこなわれるというのは、かつてなかった事態です。

 財界や大企業は「減益で大変だ」とか「米国での販売不振」などと言っています。しかし、トヨタをとっても、大幅減益とはいえ、なお年間6000億円もの利益を見込んでいます。大企業全体でも、2008年度末に24兆円もの利益をあげる見通しをたてています。これは「ITバブル」といわれた2000年度を上回る規模です。しかも、この5年間連続で史上最高の利益を上げ続けてため込んだ内部留保は、大企業(資本金10億円以上)だけで230兆円にものぼり、2000年以降で、57兆円、25%も増やしています(法人企業統計)。まだまだもうかっており、体力も十分ある大企業が、雇用に対する社会的責任を放棄し、「首切り」「雇い止め」による大失業の嵐の引き金を引くなど、許されるものではありません。

 「首切り」対象になっている労働者の多くは、若者であり、蓄えも十分でないために職を失えばただちに路頭に迷ってしまいます。政府は、危機を口実に、「リストラの嵐」を吹き荒れさせ、人間をモノのように使い捨てようとしている大企業に社会的責任を果たさせるために、毅然(きぜん)とした態度でのぞむべきです。「労働者の職業を安定させるための事業主の努力を助長するように努める」(雇用対策法第1条)ことは国の責任です。財界にも、個別企業にも、派遣社員や期間社員の解雇をやめるよう行政指導をすることをはじめ、強力な指導、監督をおこない、国の責任を果たすべきです。

 雇用保険の6兆円もの積立金を活用して、失業した労働者の生活と再就職への支援をおこなう……雇用保険の特別会計にため込まれた6兆円もの積立金を、ただちに活用すべきです。とくに、リストラの矢面に立たされている派遣や期間社員をはじめ、雇用を打ち切られて失業した労働者の生活と再就職をささえることが必要です。当面、以下の緊急対策をとることを要求します。

 失業給付を非正規で働いてきた労働者にもきちんと給付できるように改善します。失業給付受給資格に必要な就労期間を6カ月から12カ月に延長した改悪を元にもどす、給付期間の上限を「自己都合」とされた場合でも360日にする、削られた45歳未満の給付日数を元にもどすなど、この間の失業給付削減を見直します。

 雇用保険から排除され未加入だった労働者もふくめて、積立金のうちの1兆円程度をあてて、失業者、求職者への生活援助制度をつくります。職業訓練や再就職活動中の生活援助制度をつくるとともに、住宅困窮者への家賃補助や保証人などの援助制度も創設します。

 非正規雇用の労働者を正社員に登用した中小企業に、賃金の差額を助成します。

大倒産の危険から中小零細企業を守る

 貸し渋り・貸しはがしをやめさせ、中小企業への資金供給という社会的責任を果たさせる……大銀行を先頭にした貸し渋り・貸しはがしが激しさを増しています。資金供給で最大の責任を果たすべき3大メガバンク(みずほ、三菱UFJ、三井住友)が、この1年間で2兆7600億円も中小企業への貸出を減らし、貸し渋り・貸しはがしの先頭に立っています。

 政府は、銀行の経営トップを呼んで貸し渋りをしないよう「要請」をおこないましたが、「要請」=「お願い」ですむような問題ではありません。銀行に対して、中小企業への貸出目標と計画を明確にさせて監視・監督を強化するなど実効ある対策をおこなうべきです。

 公的な融資で中小企業への資金供給をささえるために、小泉内閣以来の「構造改革」路線によってズタズタにされてしまった政府系金融を立て直すことも急務です。とくに昨年10月に導入された部分保証制度は、民間の貸し渋りを助長する役割すら果たしています。政府は、中小零細企業の強い批判を受けて、「原材料価格高騰対応等緊急保証制度」を創設し、「新たな保証制度は全額保証にする」としています。これは、政府自身が部分保証導入の失政を認めたものにほかなりません。しかし、この制度は、わずか1年半の時限措置であり、対象となる中小企業は全体の約6割程度です。こうした一時的な小手先の対応ではなく、部分保証制度そのものを撤回し、全額保証にもどすべきです。

 円高の犠牲を下請企業に押しつけるなどの不当な単価たたきを許さない……販売不振や急激なドル安円高などを口実にして、大企業が下請中小企業に乱暴な単価切り下げを要求する事態も生まれています。自分たちの利益を確保するために、下請企業に圧力をかけ、強引に単価の引き下げを押しつけることは許されません。

 下請二法を厳格に運用し、立ち入り検査を強化する、下請検査官の大幅増員をはかる、「下請かけこみ寺」などの緊急相談体制をととのえるなど、指導・監督を抜本的に強化します。下請いじめや不公正取引をおこなった大企業を処罰するとともに、その事例と企業名を公表し、被害を補償させます。

(2)「外需だのみから内需主導へ」――日本経済の抜本的な体質改善をはかる

 日本経済を「外需だのみから内需主導」に切り替えていくことは、いまや日本共産党だけでなく、政府・与党も言い出しました。問題は、なぜ“外需だのみ”のぜい弱な経済になってしまったのかということです。この間、自公政権は「強い企業、産業を強くすれば、日本経済は強くなる」などとして、一部の輸出大企業を応援する経済政策に熱中し、そのしわ寄せを家計と内需に押しつけてきました。そのために大企業は利益を増やしましたが、家計の所得が減少したために内需は冷え込んでしまったのです。

 本気で「内需主導」というなら、経済政策の転換が必要です。すなわち、大企業から家計へと経済政策の軸足を移し、日本経済の体質改善をすすめていくことが必要です。内需をささえているのは、GDPの55%の規模をもつ個人消費と、その需要に応えるための生産です。雇用を守り、国民のくらしをささえる経済政策こそ、内需主導で日本経済の体質を変え、強化するという、いま緊急に求められている景気対策です。日本共産党は、以下の五つの対策をすすめます。

1、安定した雇用を保障するルールをつくる

 安定した仕事こそ、国民生活の基盤です。自公政権が労働法制の規制緩和で、低賃金で「使い捨て」ができる非正規雇用=「働く貧困層」を拡大させたことは、内需低迷の大きな原因になっています。

 しかも、いま、財界・大企業が、労働者派遣法などの規制緩和を強く求めてきた本当の目的が明らかになり、その深刻な害悪が猛威をふるっています。正社員の場合には、「解雇には合理的な理由が必要」などの諸要件がありました。財界・大企業にとってこの当たり前のルールこそ“目の上のたんこぶ”でした。派遣社員や期間社員という働かせ方をつくりだし、いらなくなったら一方的な「雇い止め」「契約解除」の紙切れ一枚をつきつければ解雇できるようにする――これが労働法制の規制緩和のねらいでした。こんな非人間的なやり方を見直し、非正規雇用から正規雇用へと雇用政策を抜本的に転換させることは、いよいよ急務です。

 派遣労働や有期雇用など「使い捨て」労働の規制が必要です。労働者派遣法を派遣労働者保護法に抜本改正し、期限のある雇用契約は合理的な理由がある場合に限定する労働基準法の改正をはかり、非正規雇用から正社員への転換をすすめます。

 全国一律の最低賃金制度をつくり、時給1000円以上に引き上げます。そのために中小零細企業への賃金助成をおこないます。

 「サービス残業」「名ばかり管理職」「QC活動」など、違法な「ただ働き」をなくし、長時間労働を是正して雇用拡大にもつなげます。

 これらは内需を拡大する大きな経済効果を発揮します。正社員になることを希望している派遣労働者と、正社員と同じ労働時間で働いている有期雇用労働者(約360万人)を正社員化すれば労働者の所得が8兆円増える、「サービス残業」を根絶すれば5・7兆円増える、さらに週休2日と年休の完全取得で7・5兆円増える、これによる民間消費の拡大が国内生産に波及し、国内生産額は24・3兆円も増えるという試算もあります(労働運動総合研究所)。これだけでGDPを2・5%押し上げる効果があります。

 政府も、賃金の上昇がなかったことが内需低迷の最大の要因として認めているように、不安定雇用と低賃金を放置したままで、経済を内需主導で成長させることはできません。

2、安心できる社会保障をきずき、国民のくらしをささえる

 雇用と並んで国民生活をささえる重要な柱は、社会保障です。ところが自公政権は、2002年度以来、社会保障予算の自然増を毎年2200億円(2002年度は3000億円)も削減し続けてきました。

 その結果、国民のくらしをささえ、命と健康を守るべき社会保障が、生活苦や将来不安を逆に増大させています。病気や失業、倒産などで生活が苦しくなったときに、高すぎる保険料が払えずに保険証が取り上げられるなど、低所得者が真っ先に社会保障制度から排除され、社会保障自体が貧困と格差に追い打ちをかけています。

 自公政権が「構造改革」で削減した年額1兆6200億円の社会保障予算を復活させて、つぎの施策にあてることを求めます。

 ――後期高齢者医療制度を廃止する。

 ――国保料(税)をひとり年1万円引き下げる。

 ――年金・生活保護・児童扶養手当などの水準を物価高騰に合わせて引き上げる。

 ――国の制度として子どもの医療費無料化を創設する。

 ――介護の保険料・利用料の減免制度をつくり、介護労働者の労働条件を改善する。

 ――障害者福祉の「応益負担」の廃止、福祉労働者の労働条件を改善する。

 これを第一歩として、社会保障の削減から拡充へと転換させ、最低保障年金に踏み出す、先進国でも異常に高い医療の窓口負担を軽減するなど、国民のくらしをささえ、憲法が保障する生存権を守る社会保障制度にしていきます。

 社会保障の拡充は、直接国民のくらしをささえ家計を温める、将来不安を解消する、そして、医療、介護、福祉などの各分野で新たな雇用を生み出し地域経済を活性化させるという、「一石三鳥」の経済効果もあり、景気対策としても大きな力になります。

3、農林漁業の振興・中小企業の応援・地域経済の再生を

 農林漁業の再生は、地域経済の活性化に欠かせません。自公政治のもとで、米価の下落がすすみ、稲作農家の労働報酬は、時給に換算すると179円という水準まで落ち込んでいます。漁業でも、コスト割れの赤字操業におちいるなどの深刻な事態に直面し、いっせい休漁というかつてない行動に漁民が立ち上がっています。こうした状況は、地方の経済・社会の基盤を弱め、衰退の原因となっています。

 日本共産党は、すでに、農産物の価格保障・所得補償、「食料主権」を保障する貿易ルールの追求などを柱にした「農業再生プラン」を提案していますが、この実行がいよいよ急務となっています。農業の再生と食料自給率の向上は、地域経済全体を再生させる土台となります。さらに食料自給率の向上は、国際的な食料不足と価格高騰のもとで、国民の命と健康、生活を守るうえでも欠かせないものです。

 漁業では、燃油への直接補てんをはじめ、価格保障・所得補償による経費に見合う魚価を実現するとともに、食料自給率を長期的にささえる資源管理型の漁業を追求します。国内林業を圧迫している野放図な外材の輸入に歯止めをかけるとともに、国による経営への支援を強めます。

 地域経済の活性化のためにも、中小企業への経営支援がますます重要になっています。「中小企業憲章」を定め、一般歳出の0・37%しかない中小企業予算を2%、1兆円に増額するなど、国の中小企業への施策を抜本的に強化します。そのもとで、中小企業への仕事が増えるように、製品開発、販売を支援する、官公需の中小企業への発注率を高める、自然エネルギー、省資源・リサイクルなどの分野への投資を増やすなど、地域産業の強化をはかります。燃油への依存度が高く、価格転嫁の難しい業種で、経営が苦しくなっている中小企業に対して、直接補てんを実施します。小麦などの穀物に対する政府の管理をつよめ、価格の暴騰をおさえます。

 また、中小業者団体が、大企業や大手の業界団体を相手に、下請取引の改善を求める「団体交渉」をおこなう権利を保障する「公正取引確保法」、公共事業のダンピング発注をなくし、人間らしく働ける労働条件を定める「公契約法」など、中小企業の経営を守るルールづくりをすすめます。

4、消費税増税ストップ、庶民の家計を応援する減税を

 麻生首相は、「生活者の不安を取り除く」などと言いながら、「3年後に消費税の引き上げをお願いしたい」と増税を明言しました。国民のくらしをおしつぶす消費税増税を宣言しておいて、どうして「くらしの不安」がなくなるのでしょうか。個人消費と内需に冷水を浴びせ、所得の低い層ほど重い負担を強いられる「福祉破壊」税である消費税増税に断固反対します。

 庶民生活を応援し、内需拡大につながる減税を実施すべきです。消費税の逆進性の大きな要因となっている食料品への課税をやめ、食料品非課税を緊急に実施します。05年から始まった高齢者、年金生活者への増税をやめて元にもどし、公的年金等控除の最低保障額をいまの120万円から140万円にもどし、一定所得以下の高齢者の老年者控除を復活します。所得の再配分という税制の民主的原則にたって、現在の税制のゆがみを正すことこそ、日本経済を立て直すうえでも急務です。

5、財源は「二つの政治悪」にメスを入れてこそ

 社会保障の拡充や中小企業・農業支援など、内需主導の経済対策をすすめるために必要な財源は、これまでの大企業と大資産家応援とアメリカいいなりの政治を転換することによって可能になります。

 ムダな大型開発はもちろん、米軍への「思いやり予算」を廃止することをはじめ、年間5兆円規模にものぼる軍事費の浪費に抜本的なメスを入れることを求めます。年間320億円の「政党助成金」も廃止すべきです。

 この10年間におこなわれた大企業や大資産家への減税は、直近の年間ベースで7兆円にもなっています。この減税の結果、10年間に40兆円以上もの税収が失われました。景気悪化とはいえ、大企業は、まだまだ大きな利益をあげているという点でも、この間の利益をため込んだ巨額の内部留保を持っているという点でも、日本経済をささえる社会的責任と負担を果たすだけの体力は十分あります。大企業・大資産家へのこの間の行き過ぎた減税を元にもどし、もうけ相応の税負担を求めることは当然です。

 軍事費と、大企業・大資産家優遇税制という「二つの聖域」にメスを入れれば、消費税にたよらなくても、くらしをささえる財源を確保することができます。財源問題でも「大企業優先・アメリカいいなり」という「二つの政治悪」をただすかどうかが問われているのです。

 大企業から家計へと経済政策の軸足を移す、以上のような日本経済の抜本的な体質改善こそ、最大・最良の景気対策です。従来型のゆがんだ体質をそのままにして、「ばらまき」を行っても、今日の経済危機を打開できないどころか、いっそう深刻にするだけです。

(3)「カジノ資本主義」への追随からの根本的転換を

 過度の投機を許さないルールを……アメリカ発の金融危機は、アメリカが行きついた「カジノ資本主義」、「ばくち経済」そのものの破たんです。米政府は、「市場万能」論に立って規制やルールをなくし、米大手金融機関は、ペテンとばくち同然の投機的な取引にのめりこみました。サブプライム問題では、返すあてのない住宅ローンをもとにした証券を「優良証券」のように偽装して世界中にばらまき、原油や穀物市場でもマネーゲームを繰り返しました。

 この「ばくち経済」の破たんをうけて、国際的な共同で、経済と金融のあり方を見直し、過度の投機を許さないルールづくりが始まっています。日本政府は、つぎのような方向で、国際的な投機規制のルールをつくるための積極的な役割を発揮すべきです。

 ――ヘッジファンドなど、規制がとどかない闇の投機集団にたいして、情報公開をはじめとして抜本的な規制強化にふみだすこと。デリバティブなどの投機的な金融商品にたいする規制強化をはかること。

 ――原油や穀物など人類の生存の土台となる商品を投機の対象としない国際的なルールをつくること。

 ――国境をこえて短期の売買を繰り返す投機マネーの暴走を抑えるために、適正な課税をおこなうこと。

 ――IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)などの国際的金融機関の規制・監督体制のあり方を抜本的に見直すこと。

 アメリカを手本にした金融自由化路線の転換を……自公政権は、「金融を自由化すれば経済もよくなる」といって、アメリカを“お手本”にした金融自由化路線をすすめてきましたが、この路線はあらゆる面で破たんしています。

 野放図な金融自由化の結果、東京株式市場は、短期売買を繰り返す外国人投資家が売買の6〜7割を占め、しかもその半数がヘッジファンドだといわれています。とくに、最近の異常な円高と株安は、ヘッジファンドなどの投機マネーが、解約金の支払いや追加担保の差し入れのために手持ち資産の「現金化」を迫られているために起きています。「ばくちの手仕舞い」とでもいうべき状況です。金融自由化路線は、日本の金融市場を他の先進国に比べても、乱高下の激しい不安定な「市場」にしてしまったのです。

 金融自由化路線は、企業と経済のあり方もゆがめています。金融自由化によって、短期のもうけだけをねらった株コロガシや会社コロガシが横行し、日本を代表する大企業でさえ「市場の圧力」に脅かされています。企業は、労働者の賃金や設備投資、研究開発などに配分すべき資金を減らし、配当や自社株買いなど「株主還元」に奔走しています。これでは、まともな企業の発展も経済の発展も望めません。

 いまこそアメリカを「お手本」にした金融自由化路線を抜本的に見直し、短期的なもうけだけをねらったマネーゲームでなく、企業や経済のまともな発展、実需に貢献する金融への抜本的転換をはかるべきです。日本共産党は、すでに「地域金融活性化法」を提案していますが、国、自治体、金融機関の責任を明らかにし、中小企業や地域経済に資金が流れるための実効性あるしくみをつくることが求められています。

麻生内閣の「景気対策」――大企業応援、国民に消費税増税でどうして景気が良くなるか

 麻生内閣は、10月30日に「経済対策」を発表し、麻生首相は、「生活者の不安を取り除く」などと言っています。しかし、政府の「経済対策」には、「ばくち経済」の失敗のつけ回しから国民を守るための施策はまったくありません。雇用、社会保障、農業、地域経済、税制などで「内需主導」に転換していくための抜本的な体質改善策も、ありません。

 麻生内閣が景気対策の「目玉」にしているのが、公明党が言い出した2兆円規模の「給付金」です。しかし、「家計支援」というなら、自公政権が02年以降、高齢者増税や定率減税の廃止、医療改悪や年金保険料の連続引き上げなどで国民に押しつけてきた13兆円(08年度年間ベース)、累計で50兆円近くもの負担増・給付カットこそ見直すべきです。痛みの押しつけはこれからも継続しながら、1回限りのばらまき、しかも3年後には消費税増税、これでどうして景気がよくなるのでしょうか。まじめな景気対策と呼べるものではなく、「公金を使った選挙買収」といわれても仕方がない代物です。

 麻生内閣の「経済対策」が応援しようとしているのは、庶民の家計ではなく、大企業・大資産家・大銀行です。

 大企業には、あらたに設備投資減税と海外子会社の所得非課税を追加しました。すでに大企業には、法人税率の引き下げや連結納税、研究開発減税などで年間5兆円も減税しています。いくら大企業に減税しても、内需の柱である家計に波及しないことは、政府自身も認めているにもかかわらず、さらに減税を追加するというのです。大資産家に対しても、株式の売買益や配当にたいする20%の税率を10%に軽減し、大資産家に毎年1兆円程度の減税をしてきた「証券優遇税制」を3年間も延長しようとしています。

 銀行への10兆円もの公的資金投入は、「金融機関の経営が悪化する前に予防的に資本注入」することを理由に、大銀行も対象に加えました。かつてはあった中小企業への貸出目標さえはずしています。この公的資金投入は、損失が出れば、国民が税金で負担する仕組みです。10年前、銀行業界全体では、約46兆8000億円もの公的資金が投入され、そのうちすでに10兆4000億円=国民1人あたり8万円以上が国民の負担になることが確定しています。公的資金を使った巨額の資本増強などの銀行応援策が「失敗しても損失は税金で救ってくれる」という体質を作り出し、投機に傾斜した銀行・金融機関を生み出す一因となっています。

 日本の大手銀行は、いまでは3兆円近い所得をあげながら、申告所得に対する法人3税の負担率はわずか4%というように、まともに税金も払っていません。さらに、公的資金で体力を増強し、損失が出ればまた国民に「穴埋め」させる、これほどの大銀行支援があるでしょうか。いま、日本の大銀行は、アメリカの大手金融機関に9000億円もの出資をおこなうなど、米英の金融機関に相次いで出資しています。「ばくち経済」の“張本人”の救済に乗り出し、それが失敗したら国民の税金で穴埋めする――こんなことが中小企業への貸し渋り対策にならないことはもちろん、景気対策にもならないことは明らかです。

「二つの政治悪」を正す、「政治の中身を変える」という立場での対策こそ

 いま日本経済が直面している経済危機は、小手先の対策や従来型の対策をいくら積み重ねても打開できません。

 大企業優先、アメリカいいなりという「二つの政治悪」をただす、「政治の中身を変える」という立場にたってこそ、日本経済を立ち直らせ、景気を良くする道が開かれます。日本共産党は、そのために全力をつくします。


緊急経済提言 用語解説

カジノ資本主義
 カジノとは、ルーレット、カードなどを備えた賭博(とばく)場のこと。「カジノ資本主義」という言葉は、イギリスの経済学者のスーザン・ストレンジが、その著書『カジノ資本主義』(一九八六年)のなかで、「金融システムは急速に巨大なカジノ以外の何物でもなくなりつつある」(岩波現代文庫)と表現して、有名になりました。「規制緩和」の名で金融取引の自由化を進めた結果、投機的なもうけを求めるマネーが国境を超えて飛び回っています。それによって各国通貨の交換価格や、金利、土地などの資産価格、原油や穀物などの価格が、必ずしも経済の実態を反映しないまま激しく変動し、各国経済を左右し打撃を与えるようになっています。二〇〇七年には、金融資産の総額が実体経済(全世界の国内総生産)の規模の四倍にも膨れ上がりました(十月十一日のNHK特集)。国民の金を預かる銀行も、ほんらいの貸し出し業務をおろそかにして、証券業務などに乗り出すようになり、こうした“ばくち経済”の片棒をかつぐようになりました。

部分保証制度
 経済力の弱い中小企業がお金を借りられるようにするために、法律によって設置される公益法人である信用保証協会がその融資を100%保証してきましたが、政府は〇七年十月以降、この保証率を80%にしてしまいました。これが「責任共有制度」という名目で導入された部分保証制度です。この制度では、残りの20%は民間金融機関のリスクとなるため、中小企業への「貸し渋り」を助長する役割を果たしています。

下請け二法
 「下請代金支払遅延等防止法」と「下請中小企業振興法」のこと。「下請代金支払遅延等防止法」は、親企業による下請け代金の減額、買いたたき、支払い遅延、物品の不当返品・受領拒否などを禁止しています。〇四年四月からは、物品の製造・修理に加え、サービス分野も、この法律の規制対象になりました。

 「下請中小企業振興法」は、下請け中小企業の支援をうたい、そのための「振興基準」を定めています。「振興基準」には、経済情勢の急激な変化の影響を不当に転嫁しないこと、単価については下請けの適正な利益を含むこと、納期については労働時間短縮等労働条件の改善が可能となるよう協議すること、などを明記しています。

中小企業憲章
 国民のくらしと雇用、地域と日本経済の重要な担い手である中小企業が、その役割を発揮し、日本経済が発展する、その条件と道すじを明らかにするのが中小企業憲章制定の目的です。EUは、二〇〇〇年に「ヨーロッパ小企業憲章」を制定、小企業こそ「ヨーロッパ経済の背骨」であり、「雇用の主要な源泉」であり、「ビジネス・アイデアを生み育てる大地である」とのべ、ヨーロッパ経済におけるその地位と役割を明記しています。

 わが国でも、中小企業家同友会全国協議会が〇四年七月に発表した「中小企業憲章」(討議素案)は、次のようにのべています。中小企業・自営業の経済的社会的な役割の発揮は、「21世紀の日本社会に生きる国民が自ら時代創造の主体者としての認識を持ち、公的機関と協力して時代の要請にふさわしい中小企業・自営業を柱とした産業経済政策を実現してこそ可能となります。その歴史的課題の到達への道すじを示すものが中小企業憲章です」。全国商工団体連合会も「私たちの要求」として小企業憲章の制定を求めています。

サブプライム問題
 サブプライムローンとは、米国の住宅ローンの一種で、返済能力が低いとされた人々(サブプライム層)に高い金利で貸し付けた住宅ローンです。通常の住宅ローンよりも貸し倒れの危険が高い点が特徴です。米大手投資銀行は、この住宅ローンをまったく別の金融商品に作り変え、格付け会社がこの金融商品に「トリプルA」などの高格付けを与えたことから、世界中の投資家が、「優良証券」として売買していました。しかし、米住宅市場が低迷を始めたとたんに「優良証券」というメッキがはがれおち、価値が暴落して世界の金融市場を大混乱に陥れました。

ヘッジファンド
 法的な定義はありませんが、一般的には、公募ではなく富裕層や大手金融機関を対象として私募でお金を集め、「年利20%」などのもうけを「絶対に稼ぎ出す」ことを売り物にする投機集団です。現在、世界で一万社程度存在し、運用残高は約二百兆円と推定されていますが、各国当局の規制が及んでいないことから、その実体は闇に包まれています。原油・穀物市場で投機を繰り返して生活必需品の高騰を招くなど、世界経済の混乱要因となっており、情報開示や登録制などの規制強化が早期に求められています。

デリバティブ
 デリバティブとは、株式・為替・商品等から派生(デライブ)した取引の総称です。金融商品を原資産とするものがほとんどであるため、金融派生商品とも呼ばれます。取引形態は多様で、経済活動に伴うリスクを回避・軽減する目的で行われる場合もありますが、そこから逸脱した投機目的の取引も急拡大しています。通常、取引所ではなく一対一で取引されており、当局の規制が及んでいません。〇七年十二月末の全世界のデリバティブ市場の規模は、約六京三千兆円に達しています(一京円は千兆円の十倍)。

IMF(国際通貨基金)・世界銀行・BIS(国際決済銀行)
 IMFと世界銀行は、一九四四年、アメリカ・ブレトンウッズで開かれた国際会議で、第二次世界大戦後の世界経済をアメリカ主導で再建することを狙いとして設立されました。現在、IMFには百八十五カ国が加盟していますが、議決権の非民主的な配分等により、その運営はアメリカに事実上握られています。世界銀行も歴代総裁はすべてアメリカ出身者です。一九八〇年代の南米通貨危機、九〇年代後半の東アジア通貨危機などでは、IMFや世界銀行の融資と引き換えに規制緩和、社会保障予算の削減などの新自由主義的な経済政策がおしつけられ、各国の国民が苦しめられました。

 BISは、一九三〇年、第一次大戦の戦後処理のための機関として設立されました。五十五の中央銀行が加盟しており、中央銀行間の決済などの業務を行うとともに、国際金融に関する諸問題について議論、調整する場としての役割を果たしています。八八年には、銀行に対する規制である自己資本比率の国際ルール(いわゆるBIS規制、二〇〇四年に改訂)を発表しました。


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