2008年11月18日(火)「しんぶん赤旗」

社会リポート

国保証奪われ手遅れ死3件

保険料・窓口10割重く がん治療我慢

札幌・昨年10月以降


 国民健康保険証の取り上げ・資格証明書発行で病院にかかれず、手遅れになって死亡した事件が昨年十月以降の一年間、札幌市で三件発生していることが北海道勤労者医療協会(道勤医協)の調べでわかりました。(富樫勝彦)


 「もうちょっと早く治療ができていたら、と思うと残念でなりません」。手遅れ死を調査している道勤医協組織広報部の斉藤浩司課長は、国民の命をないがしろにする自民・公明政治への怒りをあらわにします。

不況で困窮

 昨年十月、国保証が取り上げられ、資格証発行になっていた内装工事業の男性(51)が腹痛で札幌市内にある勤医協の病院の救急外来を受診しました。

 全身に黄疸(おうだん)などの異変があり、検査の結果「肝がん」と判明。病院の協力で生活保護を受け、入院・治療を続けたものの、今年一月に亡くなりました。末期の肝がんでした。

 男性は、長引く不況で仕事が減少し、年収百五十―二百万円で生活していました。以前からB型肝炎の治療を受けていましたが、保険料が払えず資格証が発行され、通院を中断してしまいました。

検査を渋る

 痛みにこらえかねて一昨年十一月、札幌市内の勤医協の病院に飛び込んできた配達運転手の男性(64)も、胸にがんを疑う影が見つかりました。しかし、事業に失敗してアルバイトの配達で食いつないでいた男性は資格証明書にされていて、精密検査を渋りました。

 病院の職員と区役所に何度も掛け合って、「分割払い」の約束でやっと保険証を手にしました。ときすでに遅く、がんが進行していて昨年十月、手遅れで死亡しました。

 札幌市内で清掃作業をしていた女性(58)も、昨年十二月に亡くなりました。肺がんが転移し抗がん剤治療をすすめられましたが、「治療費が払えない」と断ったのです。

 障害を持つ子どもと二人暮らしの女性。「食べるのが精いっぱい」で保険料を滞納、この時は短期保険証でした。申請していた生活保護が決まったのは葬儀の翌々日でした。

国の支出減

 ほかにも、かろうじて命を取りとめた例があり、命の危機が広がっています。

 全日本民医連は今年三月、保険証の取り上げなどで手遅れ死した人が昨年で三十一人にのぼると発表しました。今回の三人は含まれていません。

 「いま仕事も収入も不安定な人が増えています。病気になるとさらに収入が減り、国保料が払いたくても払えないのが実態です。国の保険証取り上げ強化で資格証にされてしまったら、保険料を払えない人が病院の窓口で全額の十割も払えるはずがありません。結局、苦しくても我慢することになります」と斉藤課長はいいます。

 札幌の国保加入者の所得は、ここ十数年で半分の百二十万円前後に減少し、事実上二倍に近い負担に。ところが保険料は、同じ収入でも社会保険と比べ二―三倍も高いのが実情です。

 市町村国保への国庫支出比率は49・8%(一九八四年度)から30・6%(二〇〇五年度)に激減しました。国保赤字の最大の原因です。

 「失業や営業の悪化で、多くの国保世帯は苦しんでいます。高い国保料が払えないのを『自己責任』として保険証を取り上げるのはおかしい」と述べ、斉藤課長はこう強調しました。「国保は公的医療保険であり、『金を払えないなら医療を受けるな』という資格証明書発行の在り方は、根本から見直さなければなりません。命にかかわる医療を受ける権利を閉ざしてしまうのは、安心の医療への逆行です」


 資格証明書 国保料を1年以上滞納している世帯で、支払いが困難な「特別な事情」がない場合、保険証を取り上げ、引き換えに発行しています。国が自治体に発行を義務づけた1997年の国保法改悪には、当時の自民、民主、社民の各党が賛成しました。窓口で医療費の全額(10割)を払わなければならず、受診抑制や治療中断が起き、深刻な問題となっています。



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