2008年12月14日(日)「しんぶん赤旗」
内定取り消し、“派遣切り”――政治の責任でやめさせよ
志位委員長語る
テレビ東京系番組
日本共産党の志位和夫委員長は十三日、テレビ東京系番組「田勢康弘の週刊ニュース新書」に生出演し、雇用危機に対して政治の果たすべき責任を語りました。主な聞き手は、早稲田大学大学院教授で日経新聞客員コラムニストの田勢康弘氏です。
司会者の大江麻理子アナウンサーが、深刻化する雇用問題をこの日の「トップ記事」として紹介。「人員削減や内定取り消しのニュースが後を絶ちません。こうしたなか、存在感を増しているのが、雇用対策を強く訴える日本共産党です。そこで今日は、ゲストに共産党委員長の志位和夫さんをお迎えしました。雇用を守るために、いま何をすべきなのか。志位さんと田勢(康弘)さんに、トコトン話し合っていただきます」と述べました。
田勢 今日のゲストは、日本共産党の志位委員長です。ようこそおいでくださいました。
志位 よろしくお願いします。
田勢 おそらく、私の記憶でも、お一人でテレビ東京にお見えになるのは初めてじゃないですか。
志位 そうですね。
田勢 今日はじっくりと、雇用問題を中心にしていろんなことをお尋ねしたいと思います。
内定取り消し――労働契約は成立、許されるものではない
大江 まずは、相次ぐ内定取り消しについてなんですけれども、この状況というのはどういうふうにごらんになっていますか?
志位 内定というのは労働契約ですから、これを一方的に取り消すというのは、解雇と同じになるわけですね。ですから、これは当然、ただ業績が不振になった、景気が悪くなったということで、取り消すということは許されるものではない。
田勢 ちょっとVTRを見ていただきましょう。
番組では、不動産大手の日本綜合地所から採用内定を取り消された大学生三人が労働組合関係者と団体交渉に向かう場面がVTRで流されました。
ナレーションでは、内定時に社長自らが、「業界は不況だが、ウチは大丈夫」と説明していたのに、その翌月に「業績の悪化」を理由に五十三人全員の内定を取り消したことが明らかにされました。
交渉では会社側が、「迷惑料」として、これまで一人四十二万円を支払うとしてきた金額を百万円に増額すると提案しただけ。学生側が「留年した場合の学費と家賃を合わせれば、とても百万円では生活できない」と訴えると、会社側は「会社が生活費まで面倒を見る理由はありません」と冷たい言葉を返しました。
ナレーターは、「不況の波を乗り切らなければならないいまこそ、企業には人材を預かる責任が問われている」と指摘しました。
田勢氏が、「このVTRごらんになって、どんなご印象ですか」と問いかけたのに対し、志位氏は、「本当に心が痛む」と述べて、成立した労働契約を一方的に取り消した企業の違法性をあらためて指摘するとともに、「ちょっと業績が悪化したとか、不景気だということで、安易に人の一生を左右するような取り消しをやるというのは絶対に許すわけにはいかない」と批判しました。
その上で、志位氏は、VTRの内容について、次のように語りました。
志位 VTRを見ましたが、学生のみなさんが労働組合に個人で入り団体交渉をしていましたでしょう。あれはできるんですよ。ですから、泣き寝入りしないでがんばっていくことが大事です。労働審判への申し立てもできますし、いろいろとたたかっていくことが大事です。
それから、政府は、内定取り消しをやった不埒(ふらち)な企業について、企業名を公開するのはあたりまえですが、それにとどまらず、違法行為ですから、(政府の)指導・監督で実際にやめさせるというイニシアチブがどうしても必要だと思います。
“派遣切り”――しくみをつくった政治に責任
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番組では、四日に東京・日比谷公園で開かれた「労働者派遣法の抜本改正をめざす12・4集会」で志位氏が、「景気のいいときには、非正規への置き換えでもうけ、悪くなったらモノのように使い捨てにする。大企業のこんな横暴勝手は絶対に許すわけにはいきません!」と訴える姿が映し出されました。また、志位氏が麻生太郎首相と党首会談をおこない、緊急雇用対策を申し入れた模様も紹介されました。
一方、日本経団連の御手洗会長が大量解雇について、「苦渋の選択」などと弁明する姿も映し出されました。
田勢 私、思うんですけれども、まじめに汗を流して働いている人が幸せになれない国というのは、相当ひどい国なんじゃないか。いつの間に、日本はこんなことになってしまったのか。しかも、大きな企業、「世界のなんとか」というふうにいわれる大企業が真っ先に雇用調整の名のもとに切りやすいところから切っていくというこのやり方です。いったいどうしてこんなことになったんでしょうか。
志位 流れとしては、一九九〇年代の後半から、いわゆる労働の規制緩和がずっとすすみ、とくに一九九九年には労働者派遣法が原則自由化される。そして、二〇〇四年には、製造業にまで派遣労働が解禁になり、派遣という一番切りやすい働かせ方がまん延しました。それで、(大企業が)景気のいいときには正社員を派遣や期間工に置き換えて大もうけをし、(景気が)悪くなったら真っ先に調整弁のように(非正規労働者を)捨てるという横暴勝手が自由にやれる仕掛けをつくったんです。私は、「政治災害」(だと思います)。政治の責任というのは重いですから、いま起こっていることの解決も、政治が責任をもって、こういう“派遣切り”や“期間工切り”をやめさせるべきです。“お願い”ではなく、きちんと指導・監督を政治の責任でやるべきです。
トヨタ、キヤノン――名だたる大企業が引き金ひいた
田勢 そうですね。来年は(大量の派遣契約期間切れが予想される)二〇〇九年問題というのが出てきます。(机の上に企業名と解雇者数の表示)これをみても、本当に名だたる大企業が、みんな数千人単位で(首切りをしている)。
志位 その企業のなかで、結局、今回のいわゆる“派遣切り”がどこから始まったかというと、最初に引き金引いたのはトヨタです。すでに八月の段階で、トヨタ自動車九州で八百人の派遣労働者を切った。このことが引き金になり、“あのトヨタがやっているんだから”ということで、横並びで自動車業界にダーっと広がり、それが電機産業に及び、他の産業にも及んだ。つまり、日本を代表するリーディングカンパニー(主導的企業)が引き金を引いたんです。
田勢 (日本)経団連会長を出した企業、そのトヨタ、キヤノンが真っ先に…。
志位 そうです。トヨタ、キヤノン、ソニー、こういう名だたる大企業が引き金を引いた。そういうところが引いたら、“じゃあウチも当然やっていいだろう”ということでまん延したんです。この責任は重いと思いますね。
田勢 そういうときにやはり立ち上がるべきは政治と労働組合じゃないかと思うんですが、どうも両方ともきちんと役割を果たしていないように思うんですが。
志位 政治の方についていうと、私は麻生内閣はいろいろと(雇用対策の)メニューは出てきているけれど、現に行われている“派遣切り”や“期間工切り”という事態は、労働法に照らしても違法あるいは違法性の極めて高いものです。これをきちんとやめさせるという厳しい指導が必要なのに、これをやらないでおいて、失業させられたあとの手当てだけを考えている。これ(手当て)は必要ですが、しかし、それも(来年)四月以降(の実施)で、時期遅れのものです。このように、政治が責任を果たしていない。
労働組合――いすゞや大分キヤノンなどのたたかいに希望
志位 ただ、労働組合についていうと、私が非常に最近希望を持っているのは、たとえば、あのいすゞ(自動車)です。いすゞが千四百人の派遣労働者と期間労働者を年内に全員解雇するといい、しかもほとんどが契約中途の解除ですから、違法な解雇です。これに対して、栃木の工場と神奈川県の藤沢の工場で、若い方々が労働組合をつくって、解雇撤回、正社員化を目指して立ち上がっているという動きが起こりました。
それから、大分キヤノンでは、派遣労働者、請負労働者の方々が組合に結集しました。キヤノンは、派遣切り、請負切りをやっている一方で、期間工は募集しているんです。だから、仕事がないわけじゃないでしょう。だったら、優先してそこに(派遣・請負労働者を)就けなさいというたたかいを起こしています。
田勢 ただ、全体的にみますと、連合のような、いわゆる労働組合のナショナルセンターのようなところは、いってみれば正規社員の労働組合の集まりみたいなところがあると思うんです。どうしても派遣労働者の問題というのは後手後手になってきたような気がしますよね。こういう問題は別にしても、派遣で働いている人たちの受けているマイナスは、相当深刻な問題がたくさんあると思うんです。
志位 やはり、正規労働者が、派遣あるいは期間社員という非正規労働者の問題は、自分たち自身の問題としてとらえて、共同して連帯してたたかうということを、もっともっと強めないといけません。それをやらないと、結局今度は正社員にも切り捨ての波が襲ってきます。現に日本IBMやソニーは、正社員も含めて切り捨てが始まろうとしているわけですから、これは非正規・正規の壁を越えて、あるいはナショナルセンター、労働組合はいろいろありますが、壁を越えて連帯してたたかうことが大事だと思いますね。
田勢 経済大国といわれる日本で、いま貧困が一番大きな問題になりつつある。これはいったいどういうことなのかという感じがします。
志位 やはり、正規社員から非正規社員への置き換えがこの十年間ものすごく進んだわけです。それから年収二百万以下で暮らしている、いわゆる「働く貧困層」の方が一千万人ぐらいの規模で広がってしまっている。問題は、いまやられている“派遣切り”、“期間工切り”というのは、「働く貧困層」を切っているわけです。そうすると、職を失うと同時に住居からも追い出されるわけだから、この師走の寒空のもとで路頭に放り出されることになるわけです。これはどんなことがあってもやってはならない。
田勢 さきほどのVTRで、御手洗(日本)経団連会長が、「個々の企業の苦渋の決断」による雇用調整だと(のべました)。しかし、苦渋の決断にしては、ずいぶん早いじゃないかと思いますけどね。
志位 私、御手洗さんの発言聞いて、よくああいうことが言えるなと思ったのは、例えばキヤノン一つとっても、減益とはいっても、今年度の利益の見通しは五千八百億円の黒字企業です。それから内部留保=ため込み金は三・三兆円あるんです。株主配当は中間配当だけでも七百十五億円です。株主の配当はやっておいて、労働者は切る。それでため込み金はいったい誰のおかげでため込んだかといったら、派遣や期間社員(の働き)です。
田勢 ある時期まで日本は「労使対立」とかいろんなことがありましたけれども、まあ、基本的に会社はやっぱ従業員を大事にしてきた。(志位「そうですね」)それがもう“大事なのは株主だ”という感じになっている。
志位 そうですね。例えば、このまえ日本経済新聞に出ていましたが、上場企業の75%が、この不況期でも株主への配当は維持するか増やすといっているんです。株主への配当は増やしながら従業員を切るというのは、これは間違った資本主義です。
田勢 アメリカ型の考え方が、急速にこの五年くらいの間にぱぁっと広がってきたということですよね。
党員増――若い人が「入党させてほしい」と事務所に
志位 そうですね。
大江 そんななかで日本共産党は党員数が増えているんです。現在の党員数はおよそ四十万人なんですけども、去年の九月から今年の十二月までに(新規党員で)約一万三千人も増えています。その内訳を見ますと、二十代から三十代が二割、四十代から五十代が六割、そして六十代以上が二割ということで、若年層が増えてきているのが特徴だそうです。
志位 以前はだいたい(二十代、三十代は)一、二割だったんです。ところがいま二割から三割くらいになってきてますから、若い方の入党が最近増えているのはうれしいことです。
大江 その背景にはどういうことがあるんですか?
志位 いろいろありますが、私たちはこの間、とくに「働く貧困層」の問題の解決にずっと取り組んできたなかで、若い方が、(インターネットの)ホームページなどで共産党の主張をずっとみていただいて、それで共鳴して、先方から私たちの事務所に来て「入党させてほしい」ということが全国各地であるんです。いままでは、(そういうことは)あまりなかったですね。
田勢 「たしかな野党」っていう言い方をされてますよね?
志位 ちょっと前までは言っていましたが、今度はそのフレーズだけでは…。私たちは、与党になるという志(こころざし)をもっていますから。ですから、「政治の中身を変えよう」ということをいっています。
田勢 二十一世紀のなるべく早い時期に民主(連合)政府をつくることに向けてですか。
志位 それに向けて第一歩の前進になるような結果を、今度の(総)選挙で出したいと私たちは考えています。
暮らし守る緊急課題にとりくみながら総選挙でも前進を
田勢 最近の政治を見ていると、“どうすればどの党が有利か”みたいな議論ばっかりで、やはりあるときは党派を超えて、ここはもう大変な時期なんだから、雇用問題なら雇用問題で一緒にやろうじゃないかと、そういう動きがあってもいいんじゃないかという気がするんですけど。
志位 やっぱり政治全体を見ていますと、選挙でどうやったら有利になるか、あるいは政局をどうやったらリードできるか、そんな話ばっかりで(田勢「そんな話ばっかりですよね」)、一番大事な、国民の多くが苦しんでいる雇用の問題や社会保障の問題、農業の問題、そういう問題が正面から議論されていないと思うんですね。私たちは、こういう状況のなかで、本当に暮らしを守る緊急のたたかいをあらゆる分野で起こしているところです。実際に暮らしを守りながら、選挙でも勝ちたいと思っています。
田勢 しっかりお願いします。
志位 ありがとうございました。
田勢 ありがとうございました。
(対談を終わって志位氏は退場)
大江 共産党の志位さんとお話になっていかがでした?
田勢 私も久しぶりにお目にかかったんです。やはり、ずっと同じことを言い続けている政党というのは貴重です。ですから、これから役割が大きいんじゃないかと思いますね。
大江 そうですね。
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