2008年12月16日(火)「しんぶん赤旗」
大企業の大量解雇撤回へ政府が責任をもって乗り出せ
テレビ朝日系番組 志位委員長の発言
日本共産党の志位和夫委員長は、十四日放映されたテレビ朝日系「サンデープロジェクト」に出演し、なぜいま共産党が注目されるのか、深刻化する大量解雇に抗して雇用をどう守るのかを中心に、キャスターの田原総一朗氏の質問に答えました。コメンテーターの吉崎達彦氏(双日総合研究所副所長)、高野孟氏(インサイダー編集長)も発言しました。
いま、なぜ共産党なのか
番組冒頭で、司会の寺崎貴司、小川彩佳アナウンサーが「この不況のもと、雇用や労働環境が悪化するなかで、共産党が活気づいています。いまなぜ共産党に若者が集まり、何を求めてくるのでしょうか」「共産党の志位和夫委員長にこのあと生直撃です。この不況下で、共産党に景気回復の処方せんはあるのでしょうか。ずばりうかがってまいります」と紹介。田原氏とのあいだで次のようなやりとりがありました。
田原 いま、若い人がやたらに『資本論』を読んでいるんだって。なぜ『資本論』なのか。『蟹工船』ブームでしょう。また、共産党の人数が増えているんだって。新しく入ってくる人が。
寺崎 ネットで人気が増しているということです。
田原 ネットで増えてるんだって。
インタビュー前には、VTRが流れ、「急速に悪化する雇用情勢、吹き荒れるリストラの嵐」というナレーションとともに、「労働者派遣法の抜本改正をめざす12・4集会」で、あいさつする志位委員長の姿が映し出され、「大企業は無法な首切りをやめよ」「雇用を守る社会的責任を果たせ」との訴えが響きます。
さらに、「景気悪化のなか、注目が集まる共産党、去年九月からの入党者は一万三千人を超え、自動車雑誌や経営者の雑誌でも取り上げられた」との紹介とともに、『ニューモデルマガジンX』十二月号や経営塾での講演を掲載した『BOSS』十二月号などの映像が流れます。「そして海外メディアでも」として、「日本の若者が共産党に救いを求める」というイギリスの有力紙テレグラフ(電子版)の記事も。インタビューのテーマはずばり「いま、なぜ共産党なのか、志位委員長に聞く」。
「働く貧困層」なくし、「ルールなき資本主義」ただす主張が、共感を広げる
田原 よろしくお願いします。
志位 よろしくお願いします。
田原 ここのところその共産党が大変なブームでして、ドイツではマルクスの『資本論』がベストセラーになった。日本でも『蟹工船』が大変なブームになった。日本でも最近、『資本論』を改めて読む人が多くなっていますね。
志位 そうですね。
田原 これでみると、共産党への新規入党が去年九月から(今年の)十一月まで、一万三千人ですね。それから「(しんぶん)赤旗」の購読がまたこれ増えているんですね。(七カ月で)一万八千人ですか。
志位 そうですね。全体の流れとしては、(「しんぶん赤旗」読者は)一九八〇年ぐらいをピークにして残念ながら減らしてきたんですよ。ようやく、それが、「赤旗」の読者が増え始めた。(増勢への)離陸が始まったと。
田原 離陸がね。
志位 それから入党のほうは、このところ十三カ月ほど連続的に前進して、新規に入られた方が一万三千人というのは、これまでにない、また変化が起こっていると(思います)。
田原 なんでいま、マルクス、あるいは共産党がブームになっているんですか。
志位 一つは、「働く貧困層」の問題の解決に、私たちが取り組んできたことが共感を広げているということがありますね。
ただ同時に、日本の国のあり方として、こんなにルールのない資本主義でいいのかと。暮らしを守るルール、これが雇用でも、社会保障でも、中小企業でもない。この「ルールなき資本主義」を「ルールのある経済社会」に変えようじゃないかという、この主張も共感を広げていると思います。
米国経済――金融投機にのめりこんだ「カジノ資本主義」の破たん
田原 そこで、まずおうかがいしたい。資本主義の代表的な国、アメリカですね。いわば究極の資本主義のアメリカが、去年から今年にかけて経済破たん――金融破たんといってもいい、追い込まれた。これはどうみたらいい。何が原因か。
志位 やはり、アメリカ経済の一番の大きな問題というのは、資本主義全体が金融化してしまったと。
田原 金融化ね。
志位 例えばアメリカの企業全体の利益の約50%は、金融の利益なんですよ。モノづくりの力、製造業の力がどんどん衰えて、要するに金融でしか利益の上がらない国になってしまった。そこから、サブプライムローンとか、さまざまないかがわしい、ばくち的ないかさま商品が生まれて、それが膨れ上がって、とうとう破たんしたというのが実態だと思うんですね。だからモノづくりや実体経済を忘れて、そういう投機にのめりこんだ「カジノ資本主義」の破たんですね。
田原 「カジノ資本主義」の破たん、ですね。
志位 はい。
労働法制の規制緩和がまねいた“政治災害”
田原 それが日本にも及んでいまして、例えば(一九)九五年には収入が二百万円以下、13%だった。それが二〇〇七年には17・9(%)、今年はもっと増えているんですよね。20(%)いくかもしれない。さらに、非正規社員――正社員じゃない、これが二〇〇二年には(全体の)29・4%だったのが、ついにこの二〇〇八年の第三・四半期には34・5(%)と、非常に非正社員――派遣労働者とか、パートタイマーが増えている。さらに、最近、ソニーをはじめいろんな会社が、がんがんがんがん、首切りを始めている。この日本の社会がどうみても、不健全っていうか、おかしくなってきた。この原因はどこにある?
志位 原因は、やはり、政治の責任がまず大きいですね。
田原 どういうふうに大きい?
志位 つまり一九九〇年代後半から労働法制の規制緩和――「労働ビッグバン」ということで、正社員を減らして、非正規雇用に置き換える、派遣とか請負とか、契約社員に置き換える、この流れがずーっとひろがった。
田原 とくに九九年までは、派遣社員は一部のある限られた業種だった。
志位 そう、専門的な業種だったんですね。
田原 それが、一般業種にどんと広げられた。
志位 一九九九年に(派遣労働が)原則自由化されたわけですね。これが非常に大きな転機になって、二〇〇四年には製造業に解禁されて(田原「そう、そうです」)、それがこうまん延したわけですね。「使い捨て」労働が。ですから、政治の責任が大きい。私は、これは“政治災害”だといっているんです。
いすゞ自動車――「違法解雇は やめよ」の要求に合法だと説明できず
田原 志位さんは、六月にキヤノンとか、あるいはいすゞ(自動車)に十一月、のりこんで直接談判された。
志位 はい。
田原 経営陣は何と言っていました? リストラがんがんがんがんやっているところが問題でしょう。
志位 例えば、いすゞ(自動車)の問題は、いすゞは千四百人の派遣社員と期間従業員を年内で、全部首切る計画なんです。ところがこれ、ほとんどが契約中途なんですよ。契約中途の首切りというのは、違法なんですよ。ですから、違法解雇はやめるべきだ、ということを私は言いました。(いすゞは)合法だという説明はできなかった。しかし、なかなか撤回しない。
田原 撤回しない。
志位 撤回しない。ただ、私が、じゃあ、(労働者を)寒空に放り出していいのか、ホームレスたくさんつくるつもりなのか、と。
田原 住宅もなにもなし。
志位 そうですね。派遣社員でしたら、多くは寮に住んでいますからね。
田原 そのとおりですよ。
志位 追い出されちゃったらもうホームレスですよ。ホームレスをつくるつもりなのか、といいましたら、“寮は契約満了までは追い出さない”という、そこは約束をしましたけれどもね。しかし、なかなか撤回しないですから、これはやはり政府が動いてきちんとやる必要があります。
トヨタの首切り計画――内部留保の0・2%をあてれば撤回できる
田原 だけど企業から言わせれば、もしリストラをしなきゃ、解雇しなきゃ、企業がやっていけない。たぶん、こういうと思うんです。
志位 ちょっと、これを、私はつくってみたんです(パネルを示す)。(主要な)自動車産業の人員削減計画と財務状況の表なんですけれども、トヨタ系の六社だけをみても、人員削減計画、一万四百六十人(詳細は表参照)。
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田原 大変なもんだ。
志位 しかし、経常利益の見通しは、落ちているといえ、なお〇・九兆円、九千億円あるんですね。それから、株主への中間配当は、(二〇〇〇年九月から〇八年九月までで)だいたい五倍に膨らんでいるんです。
田原 五倍。
志位 二千四百億円でしょう。それから内部留保は、これもだいたい倍に膨らんでいる。
田原 内部留保、増えているの。
志位 増えています。十七・四兆円ですよ。ですから、この人員削減計画、これを撤回するのに三百億円あれば(人員を)切らなくてすむ。
田原 なるほど。
志位 そうしたら、中間配当のだいたい八分の一ぐらい、まわせばすみますし、内部留保にいたっては、0・2%を取り崩せばすむ。
田原 0・2%。
志位 ええ。それで、これ(雇用)は守れるんですよ。そういう体力はあるということを言いたいですね。
雇用を守る責任を果たさせてこそ、景気もよくなり企業にも先行きが出てくる
田原 ここで吉崎さん、どうですか。おそらく企業側は、解雇しなかったら、やっぱり企業が苦しくなって、下手したら倒産するっていうんだろう。内部留保はあるじゃないか、と。
吉崎 それは、製造業の場合は工場が止まった瞬間に、そこで働いている人たちは固定費になっちゃいますから、もう少しドラスティック(劇的)な結果が出てくるだろうと思います。もちろん私は首切りがいいとか、そういうことをいうつもりはないけれども、いまの志位さんのご説明は、トヨタなりホンダなりの人からみたらちょっと違うぞといわれると思います。
もうちょっとこちらから、おうかがいしたいんですが、会社というのは別にイデオロギーで経営しているわけじゃないので、もしそれがいいと思えばリストラも撤回すると思うんですね。いまの感じでいきますと資本市場の復活が当分ありえないと思うんですね。そうすると、いままで続いてきた、資本効率を上げる経営というのに、見直さなきゃいけないだろう。
そうするとその先に何があるかというと、多分、日本的経営への回帰みたいなことがこれから起きてくるだろうと思うんですね。そうなった場合に果たして、日本共産党としては評価されるのか、やっぱりそんなのはよくないと(いうことになるのか)。
志位 これまでの日本の経営というのは、不況になっても簡単には首を切らなかったわけですよ。一時帰休をやったり、残業を減らしたり、いろんなやり方で生産調整をやってきたわけですね。ヨーロッパの企業をみても、例えば(自動車会社の)ダイムラーなどは一時帰休をやって、休業手当を出していますよ。操業短縮をやって、操業短縮手当を出しています。簡単に人を切るようなことをやっていません。人を切るのは最後の最後、万策尽きたときだというのが、資本主義でもルールにしなかったら、企業としてもやっていけなくなると私は思います。
私は、景気の問題を考えても、例えばトヨタが(人員を)切ると、リーディングカンパニー(主導的企業)が(人員を)切ると、そうするとさっきの田原さんの表でも、全部横並びでドミノ倒しで切り始めるわけですよ。それからソニー、キヤノンが切ると、リーディングカンパニーが切ったら、これも横並びが起きるわけですよ。こうやってやりだしたら、それこそどうなるか。一つの企業にとっては首切りをやったら、その瞬間は財務状況はよくなるかもしれない。しかしみんながやり出したら景気の底が抜けてしまいますよ。
いま外需がだめになっているときに、内需の底も抜けちゃったら、いったい例えば車だってどこに売るのか。外で車が売れなくなった、国内でも売れなくなった、そうしたらトヨタだって本当にいよいよ深刻になりますよ。ですからここでは、雇用を守る責任を企業に果たさせることをきちんとやってこそ、景気もよくなっていくし、企業にとっても先行きが出てくるということを、私はいいたいですね。
欧州では、非正規労働が保護され、解雇規制のルールもある
田原 志位さんの論理はそうだけれども、企業にしてみると、リストラをしなくちゃ(企業が)苦しくなる。いってみればね…。その兼ね合いはどうなんだろうね。
例えば、非正規雇用が日本はやたらに多い。ヨーロッパはドイツ、フランス、イタリア、みんな13―14%。日本だけ37・8%。やたらに高い。これはやっぱりおかしいと。
志位 (日本とヨーロッパの非正規雇用労働者の割合を比較したグラフを示しながら)これは、ヨーロッパと日本と、同じ資本主義でもタイプが違うわけです。ヨーロッパの場合は、非正規労働者についていろいろな保護の規定がある。例えば有期労働については、本当に例外的にしか認められない。派遣労働については、本当に一時的、臨時的なものしか認められない。それから均等待遇のルールがある。(非正規雇用は)だいたい一割前後なんです。ですから日本が37・8%というのは本当に異常で、ここにも「ルールなき資本主義」と私たちがいっている問題が現れている。
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田原 何でこのなかにアメリカが入っていないんですか。
志位 これはヨーロッパとの比較ですから入れていないんですけど、アメリカの(非正規雇用労働者の)水準は低いんですね。アメリカは数%というところです。
吉崎 それは、(日本は)そもそも正社員を簡単に首が切れないから、それだけ派遣が増えるという…。
志位 アメリカは正社員の首をどんどん切れるんです。アメリカの場合は解雇規制のルールがないんですね。ヨーロッパは解雇規制のルールもしっかり持っている。
欧州では、政府が「解雇をするな」と乗り出し、撤回させている
田原 ただちょっとお聞きしたい。ヨーロッパは非正社員、非正規雇用が少ないとわかる。しかし失業率が高い。日本の二倍ですよ。失業率はドイツが7・5%、フランスが7・9%、日本は3・7%で、(独仏は)多い。しかもパートタイマーが入っていないんでしょ、この(ヨーロッパの非正規労働者の)中に。
志位 ヨーロッパの場合は、パートタイマーもほとんどが期限の定めのない雇用、つまり正社員ですから。
田原 パートタイマーが正社員になっている。そういうのをみると、この数字は日本だけが高いと、日本だけが悪いとはいえないんじゃないか。
志位 ただ、いままさに、非正規雇用に置き換えて四割に近づいている。この方が非正規雇用という一番切られやすい形になって、しかもその多くが「働く貧困層」ですよね。そういう方々が切られることによって、失業率がうんと足元では高くなっていく。これはいま4%というところですけれども、ぐーっと上がってきますよ。
田原 これからね。
志位 これから。ですから、そういう社会になってしまっているのが問題です。
田原 たしかにね。
志位 例えばヨーロッパの場合は、こういう危機のときには政府が乗り出すんですよ。例えばフランスで(自動車会社の)ルノーが大規模なリストラ計画を出した。そうするとボキエさんという雇用大臣が「巨大企業で資産をもっているルノーがリストラ計画をやるのは言語道断だ」とやるんですよ。それからスペインの日産のバルセロナ工場が解雇計画を出した。そうしたらセバスチャンさんという産業大臣が「解雇計画を撤回せよ」といって乗り出すんですよ。これは撤回させたんですね。それをやる必要があるんですよ、日本でも。
田原 日本はいまソニーが一万六千人とか、だーっとあると。もしヨーロッパだったらこんな解雇をするなと。
志位 解雇するなと乗り出しているわけですよ。フランスにしても、スペインにしても。(日本での)いまの解雇の多くは、例えば有期(契約)労働者にしても、(契約)期間の途中で解雇。これは違法ですよ。よほどの理由がない限り解雇できない。
雇用を守りながら生産調整――そうしてこそ新しい知恵・事業が生まれる
田原 いまのところで高野さんに聞きたい。日本はどんどん解雇していると。リストラ。ある意味で企業が解雇しないとやっていけないんだと。ヨーロッパの場合には政府が解雇するなと企業に指示をする、命令するっていうんだけど、命令したほうがいい?
高野 だからいろんな形がありうるんですね。このバランスの問題は。かつての日本のように可能な限り、終身雇用ということを基本形態にして最後まで面倒をみろということは、ある意味では高度成長期には、発展途上国型の高度成長期にはそれでやっていいけれど、見通しが立っていますからね。だけど、成熟社会になって大変動、しかもグローバル化というなかで、いつどういう目にあうか企業もわからないということになったときに、日本ではそういう格好ができたわけですよね。非正規社員労働を増やすという。そこを実はバッファー(緩衝装置)にするというやり方になっちゃったわけですよ。そうじゃなくて、全部ヨーロッパ型に全部正社員で抱えるんだったら、首切りは認める、法的にはですよ。首切った場合の、あとの保障、セーフティーネットはきちんとやる。けれども、首切りは認める。だけど、それもむやみにやるなといま政府の介入もある。
志位 ヨーロッパの場合は、例えばドイツについても、ダイムラーはほとんど非正規社員はいません。3%くらいしかいません。ですから、(正社員の)一時帰休というやり方で(生産調整を)やっている。一時帰休をやったら休業手当が出るわけですよ。操業時間短縮をやる。時間短縮をやったら、短縮手当が出るんですよ。これは(ドイツ)連邦政府からも出るし、企業も払うというやり方で雇用を守っているわけですね。雇用を守っておけば、やはりそこから新しい知恵も生まれるし、事業も生まれてくる。
日本共産党が目指す社会――「ルールなき資本主義」と米国いいなり政治をただす
田原 時間がなくなってきたので、志位さんに最後に聞きたい。共産党は日本をどういう社会にしようとしているんですか。
志位 大きくいえば、二つですね。
田原 どういう社会。共産主義にしようと思っているんじゃないんでしょう。
志位 まずはね。
田原 まずはどうするんです。
志位 まずは資本主義の枠内で二つのことをやりたい。一つは、さきほどいった「ルールなき資本主義」といわれる国民生活を守るルールがあまりにもない、これをただして、「ルールある経済社会」にしていく。そのときヨーロッパが一つの参考になります。もう一つは、アメリカいいなり。
田原 これをやめろと。
志位 この異常をただし、独立した本当の平和な日本につくりかえていくことです。
田原 ありがとうございました。
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