2008年12月26日(金)「しんぶん赤旗」
経済時評
金融危機・世界同時不況
新しい発想の政策転換必要
年の瀬をひかえて、京都と東京の中小企業の経営者の方々と懇談する機会がありました。
「十一月に入るころから、売り上げが夏場に比べて半減している」
「これまで経験したことがないすさまじい勢いで受注が減っている」
「銀行がカネを貸さない。年末に社員の給料を払うめどがたたない」
毎日、町工場でいっしょに汗を流している従業員とその家族の暮らしを背負っているだけに、中小業者の悩み、苦しみは、察するに余りあるものがあります。
中小企業の経営苦境への対策で、すぐ効果のあるのは、資金面からの手当てです。
金融庁が十月十六日に開設した、「貸し渋り・貸しはがし」についての大臣直通の情報受付窓口(「大臣目安箱」)には、さまざまな苦情が寄せられているといいます。金融危機のツケを絶対に中小企業に押し付けることにならないよう政府は全力を挙げるべきです。
なぜ、V字形の市場収縮がすすむのか
減産体制は、自動車、電機、工作機械、精密機械など、製造業の広範な分野に及びはじめています。大企業は、非正規労働者の解雇とともに、それと同じスピードで下請けへの部品発注を減らしています。それは、現実の信用収縮よりもはるかに急速なテンポで、大規模にすすんでいるかのようにみえます。
「日経」紙の「社長百人アンケート」によると、「景気は急速に悪化している」と答えた経営者は、今年十月の10・8%から十二月には86・8%に大幅に増えています(注1)。
また、『週刊東洋経済』(電子版)の「産業天気図」では、次のように述べています。
「ほんの3カ月のうちに、天気はあっという間に下り坂へ向かった。…今や日本の産業界を覆うのは真っ黒な雨雲で、あまりの豪雨の襲来に傘すらもまるで役に立たないずぶ濡(ぬ)れ状態といったところ」(注2) |
いったいなぜ、こんなにV字形に市場が収縮しはじめているのか。減産体制の先陣を切ったトヨタ、日産、ホンダなど自動車業界では、「現在考えられる悪材料を極力織り込む方針」をたて、在庫を徹底的に減らし、「手元資金の拡充を最優先し、体力の温存に努める」と言います(注3)。
もともと資本主義的市場経済では、いったん金融危機や不況の兆しがみえると、個別企業は、自分の「損失」を回避するために、われ先にと信用を収縮、生産・在庫を収縮するため、市場収縮の悪循環が生まれてきます。
市場まかせ、個別企業まかせでは、こうした無政府的な市場収縮競争の悪循環を断ち切ることはできません。国家や自治体が産業再生、地域再生の長期的、計画的な政策構想を提起して、経済再生の全体的展望を示していくことが必要です。
金融危機、世界不況の打開と世界的軍縮
「百年に一度」という金融危機と世界的不況の悪循環に対処するには、従来にない新しい発想で、思い切った政策転換が求められます。本欄でも先に、「一九三〇年代の「ニューディール」より、さらに革新的な『二十一世紀型ニューディール』とでもいうべき政策体系」が必要だと提起しました(注4)。
米国のオバマ次期大統領が提唱する「グリーン・ニューディール」は、大規模な環境・エネルギー投資、たとえば自然エネルギー・次世代バイオ燃料・省エネ・エコカー・エコハウスなどの事業に十五兆円(十年間)を投資し、五百万人の「グリーンジョブ(緑の仕事)」を創出する戦略構想だといいます。これも、新たな発想の一つといえるでしょう。
しかし、米国経済の再生のためには、こうした新たな需要創出策だけでなく、軍産複合体でゆがめられた米国の産業構造を抜本的に改革する計画が必要でしょう。
この問題を考えているとき、一般紙に掲載された投書がふと目にとまりました。
「世界的な経済不況が懸念されているが、その克服策の一つとして、各国が思い切った軍縮策をとることを提唱したい。…世界で費やされる途方もない額の軍備費が日々の生活を資する方向に転換されれば、経済は元気づけられる。…軍縮は理想に過ぎないと片づけず、進行中の不況を奇貨として国際的な軍縮会議を開き、各国が協調し軍縮へ思い切って舵(かじ)を切るべきだ」(注5) |
これは、長野県で農業をやっている八十歳の方の投書です。憲法九条を持つ日本が、率先して世界に大不況打開と軍縮のための国際会議を呼びかけるという政策構想は、いま傾聴に値するアイデアかもしれません。
日本が日米安保条約を条約一〇条(アメリカ政府への通告)によって廃棄し、日米友好条約を結ぶことは、ただ日本の真の自立のために必要なだけではなく、米国が軍産複合体でゆがめられた経済を改革して、真に平和的な産業構造を再建していくために、米国にとっても有効な課題になっているといえるでしょう。(友寄英隆)
(注1)「日経」十二月二十二日付。
(注2)『週刊東洋経済』(電子版)十二月十九日。
(注3)「日経」十二月十八日付。
(注4)本紙、十月二十一日付。
(注5)「朝日」十二月六日付の「声」欄。
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