2008年12月28日(日)「しんぶん赤旗」
クローズアップ
ホンダ期間工 2カ月きざみの人生
「細切れ契約」で「継続雇用隠し」
ホンダは二月上旬までに埼玉、鈴鹿、熊本、栃木、浜松の国内五工場で千二百十人の期間社員を削減し、円高が続けば「期間社員は限りなくゼロ」(福井威夫社長)としています。年越し前の寒空の下に放り出そうというのか。埼玉県狭山市にある埼玉製作所狭山工場に向かいました。(本田祐典)
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西武鉄道・新狭山駅を降りると、「HONDA」のロゴをかかげた建物が見えます。三十八万五千平方メートルの敷地面積をほこるホンダ自動車生産の主要工場「埼玉製作所」です。
午後三時半、早朝からの勤務を終え、寮に帰ろうとする三十代後半の男性に声をかけると、「ぼくは十二月末でアウト。寮も出ないといけない」。二十代前半の女性は「ホンダはあこがれだった。きつい仕事にやっと慣れたばかりだったのに」と声を落とします。
アコード、オデッセイなど人気車種を製造する埼玉製作所は、今年十一月下旬まで製造ラインで働く従業員の三分の一(約千五百人)を期間社員が占めていました。このうち六百人が削減対象で、段階的に雇い止めを通知されています。
妻にいえず
「これを理由に、ホンダはモノをいわせようとしない」。二十代後半の女性は、財布の中から小さく折りたたんだ紙を取り出しました。「期間契約社員雇用契約書」です。
「○月○日〜○月○日」と記された契約期間は二カ月。女性は「私たちはブルーカラー(肉体労働者)の底辺で、使い捨ての負け組集団」と語ります。
ホンダのような大企業がたった二カ月の雇用契約で使い捨てにしていいのか。労働契約法の趣旨について二〇〇七年五月三十一日、柳澤伯夫厚生労働相(当時)が「非常に短期間の細切れ的な期間を設定してそれを更新すると、頻繁に更新するというような雇用契約というものが望ましいとは、これは全く考えておりません」と国会で答弁しています。
不安定雇用でも作業は正社員と同じ。ホンダ本社の広報担当者も「期間社員の作業内容が異なればラインはまわらず、車は完成しない」と説明します。
埼玉製作所では「人を中心とした理想の生産現場」をうたっていましたが、減産が打ち出された十一月、一変しました。
三十代の男性は、雇い止めにおびえる日々に耐え切れなかったと、この一カ月間を悔しそうに振り返ります。ストレスから契約更新を自ら希望せず、一月末の雇い止めが決まりました。「まだ、かあちゃん(妻)には言えていない。次の仕事も見つからないし、どう説明したらいいのか」
「車のローン返済が月十万円」(二十代男性)、「家のローン、子育てがある」(三十代男性)―など工場周辺で困窮した声を聞くと、期間社員の人生は決して短期で刻めないことがわかります。
当然のように更新を繰り返し、五年、十年と働いてきた期間社員もいます。
二十代からの青春を期間社員として過ごした三十代男性は、ホンダの車づくりに誇りを感じてきました。今月五日発売の新型アコードのパンフレットも一度は開きましたが、「今のオレにどこの銀行だってローンを組んでくれないよ」。
奇妙な更新
この男性はホンダの契約更新に奇妙な点があると指摘します。「二カ月の契約更新を繰り返して二年半がたつと、いったん契約を切るんです。そして一カ月ぐらい間をあけてまた入り直させる。その繰り返しです」
なぜ二年半で区切るのか。ホンダ本社は「二年半や二年十一カ月働いた方には、継続雇用と混同されないように数週間あけていただいている」(広報担当者)と説明します。
更新を繰り返した有期雇用労働者については常用雇用と同様にみなし、雇い止めを認めなかった判例(東芝柳町工場事件東京高裁判決)があります。ホンダの行為は、長期間継続した雇用をごまかすものです。
厚労省労働基準局の担当者は「一部の製造業で判例のような事態を恐れ、形式的に間をあける行為が見られるが、それで雇い止めが認められる法的根拠はない。裁判では労働の実態が判断される」と話しています。
内部留保は6兆円超
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自動車メーカー十四社で構成する「日本自動車工業会」(自工会)の会長企業でもあるホンダは「企業の競争力を維持していく観点からの苦渋の決断」(青木哲ホンダ・自工会会長)と非正規切りを正当化しています。
しかしホンダの内部留保は六兆五百八十八億円(連結、二〇〇七年度)で、製造大企業ではトヨタグループの十三兆九千億円に次ぐためこみです。
厚生労働省は「有期雇用を常用雇用の代替とするのは好ましくない」としていますが、ホンダは手取り月約二十万円で働く期間社員をもうけを生み出す道具として増やし続けてきました。(グラフ)
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