2009年1月1日(木)「しんぶん赤旗」
「ルールある経済社会」への一歩を踏み出す年に
志位委員長の新春トーク
聞き手 奥原 紀晴 赤旗編集局長 大内田わこ 編集局次長
奥原紀晴編集局長・大内田わこ局次長 明けましておめでとうございます。
志位和夫委員長 おめでとうございます。
雇用・生活――社会的反撃が始まった
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奥原 昨年は、情勢の激動と変化という点でも、党の活動という点でも、文字通り疾風怒濤(しっぷうどとう)の年でした。一年をふりかえって、一番印象深く残っていることはなんですか。
志位 昨年末のNHKニュースのトップで「ついに労働者が立ち上がりました」と報じました。いすゞ自動車で、違法解雇撤回を求め、期間・派遣労働者のみなさんが労働組合をつくって立ち上がったというニュースです。このニュースが一番うれしかったですね。
日本共産党は、二〇〇六年の第二十四回党大会で「社会的連帯で反撃を」ということを打ち出し、暮らしと平和のあらゆる問題で連帯してたたかい、世の中を変えていこうと呼びかけました。昨年は、世界金融危機と景気悪化による、暮らしの非常な危機のなかで、それに「負けていられない」という本格的な社会的反撃が始まった年といえると思います。
奥原 危機は深刻だが、明るい展望もみえてきた。
志位 そうです。雇用問題でも、後期高齢者医療制度でも、農業再生でも、あらゆる分野で反撃が始まった。平和と憲法を守る運動もさらに広がった。ここがやはり一番うれしいし、印象的です。あまりにひどい生活苦、人間「使い捨て」について、みんなが「これではいけない」と思っている。社会全体から待ち望まれていたニュースだからこそ、NHKもトップで伝えたのだと思います。
大内田 いすゞは、千四百人の期間・派遣労働者を十二月二十六日に全員解雇すると一方的に通告していましたけれど、そのうち五百五十人の期間従業員についてはともかく中途解雇の撤回を決めました。
志位 これは重要な前進の一歩だと思います。会社側は、期間従業員への中途解雇を撤回しましたが、なお早期退職を迫り、派遣労働者については解雇の方針を変えていない。引き続くたたかいが非常に大事ですが、大企業がいったん解雇通告をして、それを撤回したというのは、戦後の労働運動の歴史のなかでもあまり例のない、特筆すべき出来事だと思います。
日産ディーゼル、大分キヤノン、マツダなど、各地で労働者が立ち上がっている。いすゞで労働者のみなさんが勇気をもって旗揚げした、この動きが全国各地に広がり、大きな流れになろうとしている。これはほんとうに未来ある動きです。
大企業に労働者の思いをぶつける
「死人が出ないとわからないのか」という悲痛な訴え
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奥原 労働者のたたかいと結んで、委員長ご自身、昨年はキヤノンから始まって、いすゞ、トヨタと会談し、日本経団連とも会談しました。私は、歴史的事件だと思っていますが、党本部にもこんなメールが寄せられました。
「『歴史が動いた』日になりました。志位氏の記者会見の最後に、路頭に迷うひとが、でないように、がんばっていく、としめくくっていました。首切りを絶対に、許さないとの決意表明に、感激です。すべての、良心ある、ひとびとの心をとらえる、大事な行動です。…歴史の一ページに刻んだ日にばんざい」
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こうした行動を起こそうと考えたきっかけは…。
志位 昨年末、麻生首相との党首会談をやりましたが、政府が本気で乗り出していって、「派遣切り」「期間社員切り」をやめさせようという姿勢が伝わってこない。一方で、大量解雇の波がいよいよ荒れ狂っている。私たちのもとには、「冬に外で寝ろというのか。死人が出ないとわからないのか」という悲痛な訴えが殺到する。そのもとでやむにやまれぬ思いがありました。私たちは野党で、権力を持っているわけでもない。しかし寄せられた労働者の訴えを直接ぶつける責任がある。事実と道理をもって話せば、大企業でも動かざるをえない面もあるだろう。たたかっている仲間への多少なりともの激励になればという思いもありました。
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大内田 実際に会談をやってみた感想はどうですか。
志位 やはり日本共産党は自由だな(笑い)ということです。大企業と面と向かって話しても、言いたいことが何の気兼ねもなしに言える。企業献金を一円ももらわない、腐れ縁がない党ですから。日本共産党員であることの誇りを、私自身も感じました。
相手も容易には否定できない事実と道理をしめして
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奥原 なるほど。日本経団連との会談はいかがでしたか。
志位 日本経団連というのは財界の総本山です。日本共産党とは、もとより立場が対立しているわけです。しかし、対立する相手であっても容易には否定できない事実と道理があるはずです。それを「要求書」にまとめあげて、大量解雇の不当性をしっかり説き、撤回を求めるという姿勢が大事だと考えました。
大内田 まず人道上許されるのかとズバリのべていますね。
志位 「真冬の冷たい巷(ちまた)に放り出していいのか」と。これには経団連側も結構だとはいえません。「苦渋の選択」だとしかいえない。そして、「雇用の安定のためには、景気回復が求められる」と繰り返すわけです。しかしこんな矛盾した議論はありません。個々の企業でみれば、人員削減をすれば、瞬間的には財務状況を良くするかもしれない。しかし、大企業がみんな横並びで「首切り」競争を始めたら、日本経済の底が抜けてしまって、「景気回復」はいよいよかなわなくなるじゃないですか。そこを話すと、相手は返す立場がないわけですね。
奥原 大企業としても見通しをもってやっているわけではない。
志位 そうです。私は、「いま大企業が周章狼狽(しゅうしょうろうばい)してどうするのか」と言ったのです。世界金融危機が起こった、これはたいへんだ、ともかく人員削減をすれば身軽になるだろうと、われもわれもと「首切り」競争をやったら、いったい日本経済はどうなるのか。それは結局は、企業にとっても自殺行為になるではないか。そこは、日本経団連が会員企業に対して、きちんといわなければだめではないですかという話をしました。
株主に配当増、労働者は「首切り」――資本主義の堕落
大内田 続いてトヨタの幹部ともお会いになりました。
志位 トヨタは日本を代表するリーディング・カンパニー(主導的企業)であるわけですね。そのトヨタが真っ先に「派遣切り」の引き金を引いた責任は重い。トヨタと会ったのはそういう理由でした。
ちょうど会談の前日に、共同通信が、大量「首切り」を進めている自動車と電機・精密の大手十六社で、内部留保が最高になったという記事を配信し、各地の地方新聞が一面トップで報じました。この記事によると、株主への配当は、この不況下に、増配が五社、維持が五社、未定が六社、減配のところは一つもない。大株主への配当を増やしながら、労働者をどんどん切る、これは資本主義のあり方としても堕落ではないかと先方の認識をただしました。
これについては、トヨタの幹部は「アメリカ的株主優先は、あまりにもどうかなと思う」、「日本型経営とアメリカ型経営についていま議論されるべきだ」とのべました。
奥原 ここでも経済界が進んでいる道に不安がある。
志位 「これでいいのか」という思いはある。もちろん、私たちがトヨタに話しただけで事が進むということにはなりません。やはり、労働者とともにたたかってこそ、事態を打開していくことができます。
野党であっても民主的規制のための努力を
奥原 財界・大企業とも、問題があれば会談するという関係がつくられたことは、新しい一歩ですね。
志位 この問題を考えてみますと、私たちは、二十一世紀の早い時期に民主連合政権をつくろうという大目標をかかげています。この民主的政権の経済政策は「ルールなき資本主義」を正して「ルールある経済社会」をつくろうということです。その手段として「大企業にたいする民主的規制」をおこなうと、綱領に明記しているわけですが、この民主的規制というのは、私たちが政権を担ったら初めて始めるというものではないんですよ。
野党であっても、国民と連帯したたたかい、国会での論戦、立法措置、直接の働きかけ、さまざまな力を総合して、大企業への民主的規制を、一定の範囲でやっていくことはできるし、その努力をつくさなければならない。大企業や経団連との一連の会談も、私たちなりのそういう努力の一つとして始めたものなのです。
私たちが政権を担った場合は、政府の権限を最大限に活用して、大企業への民主的規制を進めるわけですが、その場合でも、相手を事実と道理をもって説得していく努力が必要でしょう。私たちが昨年始めた一連の行動は、何よりも労働者の苦難を打開するうえで緊急に迫られたものでしたが、政権を担う政党へと力量を高めていく一つのプロセスとしても、意義があると思っています。
「赤字だと?黒字の金はどこ行った」
奥原 昨年の秋以降、大企業の大量解雇が始まって、一般メディアの報道で「これはアメリカ発の金融危機で、急速な減産が始まっているからしょうがないんだ」という論調や報道も目立ちました。それに対して「しんぶん赤旗」は、そうではなく、企業には雇用を守る体力はあるということを書き続けました。これは、問題を解決していくうえで、一つの重要なカギになると思いますね。
志位 私は、トヨタとの会談で、新聞に載った川柳を紹介しました。「赤字だと?黒字の金はどこ行った」(笑い)
大内田 庶民はよく見抜いていますね。(笑い)
志位 ええ。それでも連日これだけ「派遣切り」「期間工切り」のニュースが続くと、「しょうがないのではないか」という気分にさせられかねない。そのときに、「しんぶん赤旗」が果敢に、資本金十億円以上の大企業では、二百二十九兆円ため込んでいると書き、「雇用を守る体力はある」と連打しました。そのなかでさきほど紹介した共同通信の配信も出てきた。
たとえばトヨタ自動車とそのグループ企業の内部留保は十七・四兆円にのぼり、そのわずか0・2%を取り崩せば「首切り」計画は撤回できます。だいたいだれのおかげで、このため込み金は積み上がったか。派遣・期間労働者の血と汗と涙の上にため込んだお金でしょう。恩人を切っていいのかという話ですよね。
働くみなさんに背中を押されてとりくんだ質問
奥原 私が去年、雇用問題で「流れを変えたな」と思ったのは、二月に委員長が国会の予算委員会で派遣労働の問題を正面から追及した質問でした。あのときはどういう思いで質問されたんですか。
志位 あの質問は、多くの方々のたたかいに支えられて、はじめてできたものでした。質問準備の過程で、全労連、首都圏青年ユニオン、派遣ユニオンなどのみなさんから、実態を詳しくうかがいました。派遣労働者の方々からも直接お話を聞きました。そうした方々がつくってくれた質問というのが実感なのです。
実態をうかがって、あまりの非人間性に慄然(りつぜん)とする思いでした。究極の不安定雇用、低賃金、そして労働災害が多い。これは何としても変えなくてはという責任を感じました。ですから質問では、政府の姿勢の問題点はきちんとただしながら、一歩でも二歩でも前に動かさないといけない。そうしないと、責任を果たせないという思いが強かったですね。働くみなさんに背中を押されてやった質問でした。
奥原 質問の最後に、人をモノのように使い捨てる状況を放置したら、日本社会に未来がないと言われた。あれは、大義の声だと私は聞きました。
志位 ほんとうに未来はないと思います。私は、派遣問題の質問を、昨年の二月と十月におこないましたが、党の議員団としては、この十年来の積み重ねがずうっとあるんですよ。たとえば一九九九年に労働者派遣法の原則自由化が強行されたときに、日本共産党は堂々たる反対の論陣をはっています。参議院労働・社会政策委員会で市田さん(現書記局長)が反対討論をしていますが、いま議事録を読みなおしても、先をみた的確な批判点が提起されています。このときにきっぱり反対したのは共産党だけだった。それがずうっと後に生きてくるわけです。
労働者の立場に立って頑張りぬく政党、大企業に堂々とモノが言える政党、そして綱領で「ルールある経済社会」を掲げている政党ならではの一貫したものがあるということを痛感します。
大内田 新年は、雇用と暮らしを守るたたかいがいっそう広がっていくと思いますけれど…。
志位 そうですね。昨年は社会的反撃が本格的に始まった年だと言いましたが、今年は、雇用、社会保障、中小企業、農業、重税反対、あらゆる分野でさらに発展させ、ひとつの大きな流れに合流させて、社会的連帯で政治を変える――「ルールある経済社会」にむかう一歩を築く、そういう年にしたいですね。
日本資本主義のあり方が根本から問われている
労働と金融の規制緩和は表裏一体で労働者を苦しめている
奥原 いったい日本の雇用がなぜこんなひどいことになったのか。けっして自然災害などではないことを、きちんと明らかにすることがたいへんに大事ですね。
志位 私は、「政治災害」という言葉を使っているんです。一九九〇年代後半から労働法制の規制緩和をどんどん進め、派遣労働を九九年に原則自由化し、二〇〇四年には製造業にも拡大した。「使い捨て自由」の労働がどんどん広がりました。景気のいいときは大企業は派遣に置き換えてコストダウンでもうけ、景気が悪くなったら「調整弁」として真っ先に切り捨てる。景気悪化が現実に起こるもとで、派遣労働とは、こういうときのためにつくったものでもあるということを、つくづく感じます。政治の責任は、たいへんに重いものがあると思います。
大内田 さっき内部留保でたくさんため込んできたという話が出ましたけれど、株主への配当もものすごい。それでいて労働者は平気で切る。こんな非人間的なことを、どうしてやるのかと思うのですが。
志位 労働者の首を切りながら、大株主への配当は維持・増配というのは、どう考えても異常で許しがたいことです。こうした企業行動に対しては、個々の企業もそれぞれがきびしく社会的責任が問われることを強調したい。同時に、そういう行動に企業を駆り立てていくシステムにも目を向ける必要があると思うんです。
大内田 どういうことでしょう。
志位 それは証券市場の投機化ということです。橋本内閣いらい進められてきた「金融ビッグバン」といわれる金融の規制緩和によって、いま東京証券取引所(東証)の株の売買の六割から七割は外国人投資家によるものとなっています。そのほぼ半分はヘッジファンド(投機的基金)だと言われている。そうした投機マネーが跋扈(ばっこ)する市場となってしまっているのです。
投機マネーは、短期的な株の売買で利益をどんどん上げていく稼ぎ方をする。短期でみて利益が上がらない企業の株はどんどん売られるのです。企業も四半期(三カ月)ごとに業績開示が求められるようになり、短期でみて利益を上げるかどうかで企業価値が決められるようになった。そういう投機的市場が、労働者の首を切ってでも株主への配当を増やすことを個々の企業に強制する、圧力になって働いているのです。
新自由主義のもとでの労働の規制緩和によって、派遣労働など「使い捨て」労働が広がった。同時に、金融の規制緩和によって投機化した証券市場をつくってしまった。それが「派遣切り」を強制し、国民の暮らしを破壊している。両面で新自由主義はいよいよゆきづまった。
奥原 労働と金融の規制緩和は、裏表の関係にあるわけですね。
志位 そうです。表裏一体の関係にあって、労働者を苦しめているのです。この仕掛けを根本から転換させなければなりません。
外需頼みのもろさがあらわれた――内需主導に軸足の転換を
奥原 もう一つ異常だと思われるのは、トヨタをはじめとした自動車、それから電機メーカーが直前まではものすごいもうけをしていたのが、どかんと落ちたでしょう。景気の落ち方もあまりに速い。いったいどうしてと思っている人も多いと思いますが。
志位 どうしてここまで急降下するかということを考えますと、日本経済が異常な外需頼みの経済になっている。新自由主義の経済路線が、一部の輸出大企業の「国際競争力」を高めるのだと、税金はまけてやるなど、あらゆる応援をやった。それで外需はものすごく伸びたけれども、そのもうけは勤労者にまわらなかった。逆に勤労者の所得は毎年減っていく。そこに社会保障の切り捨てと庶民増税が追い打ちをかける。内需を踏みつけにしながら外需で稼ぐという異常にいびつな経済を、新自由主義はつくってしまったのです。外需頼みの経済はたいへんにもろい。外国の経済がだめになったらいっぺんにだめになるわけです。
トヨタやホンダなど個々の企業体をみても、海外売上高比率が七割から九割という外国頼みの企業になってしまった。外国とくにアメリカ経済がだめになると、急激に収益が落ちるというもろい経営体質になってしまっている。
こういう道には未来がありません。この経済のゆがみやもろさを解決しようと思ったら外需頼みから内需主導に経済の軸足を切り替えなければならない。安定した雇用、安心できる社会保障、農業の再生という方向に、切り替えることがいよいよ大切になっています。
「世界同時不況」というが、日本と欧州では現れ方が違う
大内田 もう一つ、こういう経済危機のときに政治がどう対応するかはとても大事だと思うんです。最近フランスのサルコジさん(大統領)が大企業に乗り込んだりして、けっこう頼もしく見えます(笑い)。フランスだけでなく、スペインもドイツも労働者を守るシステムがわりあいによく出来ていると思うんです。
志位 サルコジ大統領は、昨年九月の国連総会で、投機への規制を訴えて、「ルールある資本主義をともに再構築しよう」といった。これは日本共産党と共通するスローガンですよね。(笑い)
ヨーロッパでも大企業は経済危機を口実にリストラ計画を進めています。しかし、かなり強力な解雇規制の法的枠組みがあります。そして、政治がどう対応するかでは日本とは雲泥の差があります。政府が直接乗り出していって、リストラをやめさせるわけです。フランスでルノーがリストラ計画を出したときに、ボキエ雇用相が「ルノーのような巨大企業グループは、資産を持っているのだし、こんなリストラやるのは論外だ」といってやめさせる。
大内田 志位さんが言ったセリフと同じですね。(笑い)
志位 ほんとうは政府がやるべき仕事なんですね(笑い)。スペインで日産バルセロナ工場がリストラ計画を進めようとしたときには、セバスチャン産業商務相が解雇計画の撤回を求め、撤回させている。どうしてそういうことができるのかと調べてみますと、ヨーロッパの場合は、労使の関係に、政治が必要に応じて介入できる仕掛けが制度としてあるわけです。だから、個々の紛争事項についても、必要に応じて政府が企業に直接モノを言えるわけです。日本にはそういうルールがない。政府にはやる気もない。
もう一つ社会全体が、こういう場合に雇用を守る仕組みを整えている。たとえば、ドイツの場合、ダイムラーなどの自動車会社が、生産調整をどういうやり方でやるかというと、操業短縮です。その場合、労働者は一年六カ月まで操業短縮手当が出ます。企業と連邦政府が出すわけです。
奥原 給料も九割ぐらい保障しますよね。
志位 そうですね。それから、テレビで特集していましたが、オランダの場合は、派遣労働者で解雇になったとしても失業保険が三年間ですよ(「ほーっ」)。だから、テレビのインタビューでも、労働者が「まったく不安ありません」と言っていました。「世界同時不況」とよくいわれるけれど、その現れ方は、日本みたいな「ルールなき資本主義」の国と、暮らしを守るルールがある国では、ぜんぜん違うのですね。日本ではものすごく残酷な形で現れる。
新自由主義を推進してきた人からも「懺悔の書」が
奥原 日本でも吹き荒れた新自由主義路線では、二〇〇一年以降の小泉「構造改革」路線がとくにひどかったですね。日本共産党と「しんぶん赤旗」は、これが始まった当初から、こんな路線で突っ走ったら、どんなにひどい社会になっていくかを警告しつづけました。いま、それが無残な形で破たんしているもとで、それを推進した側の人たちからも、深刻な反省の弁がでています。
志位 最近読んだなかで面白かったのは、中谷巌さんという、小渕内閣の「経済戦略会議」の議長代理を務めた、「構造改革」の急先鋒(せんぽう)だった人が書いた『資本主義はなぜ自壊したのか』です。この本は「自戒の念を込めて書かれた『懺悔(ざんげ)の書』でもある」ということをいって、「グローバル資本主義は、世界経済活性化の切り札であると同時に、世界経済の不安定化、所得や富の格差拡大、地球環境破壊など、人間社会にさまざまな『負の効果』をもたらす主犯人でもある」「規律によって制御されない『自由』の拡大は、資本主義そのものを自壊させることになるだろう」といっています。新自由主義を進めた人々のなかからもそういう声が起こっていることは、この路線の破たんを象徴するものです。
奥原 「ルールある経済社会」という主張がピタッとくる新しい状況ですね。
志位 そうですね。私たちの綱領で「ルールなき資本主義」を正そう、「ルールある経済社会」をつくろうといってきたわけですが、ちょっと前まではマスメディアの方と話していても、「何を言っているのか」とピンとこないという感じがあったんです。ところが、去年はテレビなどに出ても、「ルールなき資本主義」とは何かということを司会者から聞いてくる。ある新聞では「『ルールある資本主義』訴え、働く貧困層が共感」という記事を載せました。
新自由主義は、内にあっては、貧困と格差、人間「使い捨て」という異常な非人間的社会をつくってしまった。外にあっては、新自由主義の総本山だったアメリカが無残な経済破たんを遂げた。この両方をみて、やっぱりこれは先がないということになってきた。
そういうなかで私たちの綱領の掲げている「ルールなき資本主義」を正せ、「ルールある経済社会」をつくれという主張が、社会のなかにすーっと入っていく状況、多くの国民のみなさんに共感をもって受け止められる状況が生まれているのだと思います。
「二大政党」の現状と日本共産党の立場
国民の生活苦のなかで、党略だけの政治は見放される
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奥原 ところで、麻生・自公政権ですが、どこから見ても、末期状態といいますか、どこに打開の道を求めていいかもわからない状態に陥っていますね。
志位 そうですね。私は、福田内閣が安倍内閣に続いて政権投げ出しをやったときに、「自公政治は政治的解体状況だ」といったんですけれども、いまや「漂流状態」という感じですね。内外の問題に何ひとつ対応ができなくなっている。
昨年の臨時国会では、まず正体を隠したまま冒頭解散をやろうとしたけれど、うまくいかなくなった。「政局より政策だ」といって出してきた「景気対策」の目玉にしようとした二兆円の「給付金」はごうごうたる非難で、「目玉」どころか致命傷になってしまった。そこに、首相自身の資質を疑わせるような「諸問題」が生まれて(笑い)、街ではもっぱらその言葉が使われています。
奥原 未曽有の事態が…。(爆笑)
志位 将棋でいえば、詰んでいるのがこの政権です。それでも延命したいという党略だけで動いている。
大内田 そのなかでも、いまの事態を少しでも打開するためにと、麻生首相とも直接、党首会談をされましたね。
志位 私たちは、この政権への対応では、二つが大事だと思っているのです。一つは、政権がだれであれ、国民は生活苦の真っただ中にいるわけですから、国民の暮らしを現実に守るための最大限の努力をするということです。いま一つは、国会論戦と国民のたたかいで解散・総選挙に追い詰めていくということです。国民の暮らしを守るための真剣な努力をやらないで、党略だけに走ったら、国民から政治は見放されます。この両面が大事だと思います。
大企業にモノが言える党か、モノを言われる党か
奥原 その点で、昨年の臨時国会での民主党の対応はひどかったですね。
志位 そうですね。最終盤に民主党は雇用対策法案を出してきました。あの法案には前向きの要素もあった。だったら、与野党がよく協議して、一致点で成立させたらいいじゃないですか。日本共産党は、自公と民主の両方にそうよびかけ、最後まで実らせるための努力をつづけたけれども、民主党は、参議院では強行採決、衆議院では自分の出した法案を否決させる。自公の「無策ぶり」をあぶりだすための道具に使った。雇用という人間の命と生活の土台にかかわる問題を党略でもてあそんだ。この態度には強い怒りを感じます。
一方、民主党は、麻生政権に対する対応についても、私たちのように、正々堂々と国会論戦と国民のたたかいで追い込むという立場はないわけです。臨時国会の前半は、早く解散をやってくれ、何でも協力しますといって、第一次補正予算に賛成したり、新テロ法延長案の衆議院通過に協力してしまう。その党略がうまくいかなくなると、「二次補正予算案を出せ、出したら新テロ法延長案の成立に事実上協力する」という道理のない取引を言い出す。そして最後が、雇用問題を利用した党略でしょう。国民の深刻な生活の苦しみに心を寄せて、打開しようという姿勢がない、やっているのは党略だけというのは、自公も民主も「どっちもどっち」ですね。
大内田 閉会のさいの議員団総会のあいさつで委員長が言われた「大企業にモノが言える政党か、モノを言われる政党か」(笑い)というフレーズがとても印象に残りました。
志位 あの議員団総会は、トヨタとの会談を終えた直後で、心底そう思って話しました(笑い)。考えてみると、大企業に堂々と何でも自由にモノが言える共産党と、大企業にいろいろと指図されて、通信簿をつけてもらって、献金をあっせんしてもらっている、自民、民主という「二大政党」の流れと、結局二つに分けられる。これはとても簡単な分類法です。(笑い)
「二大政党づくり」――批判とともに「共産党は何をする党か」を広く伝えて
奥原 この数年、メディアの中でも「自民か民主か」、二者択一を迫るようなキャンペーンが吹き荒れました。それを見る世論の目にも変化が生まれているという気がするんですが…。
志位 「自民か、民主か」という二者択一を国民に強制し、共産党を選択肢の外に置くという、手ごわい反共シフトがこの数年やられています。しかし、それがなかなか思い通りに機能しない面もある。「麻生さんと小沢さんとどっちが首相にふさわしいか」と聞くと、「どっちもダメ」というのが多数になりますね。
ただやはり、選挙が近づくにつれて、「二大政党」に染め上げていく力もまた働くでしょうから、頑張りくらべです。「二大政党」というけれど、アメリカいいなりと財界中心という「二つの政治悪」という点では、自民党はその担い手だし、民主党にもそれを変える立場はない。
そこを批判すると同時に、「共産党は何をする党か」をうんと積極的に打ち出していくことが大切だと思っています。「『ルールなき資本主義』を正す」、「アメリカいいなりをやめる」という太い線とともに、それを具体化した政策、さらに行動が大切です。共産党はどういう日本をめざしているのか、そのためにどういう政策をだし、行動をしているのかというメッセージが広い国民に伝わってこそ、「二大政党づくり」という仕掛けを打ち破って、共産党が前進・躍進できる。
「二大政党づくり」とのたたかいは、何回かの国政選挙で取り組んできたけれど、知恵と力をつくして頑張り抜けば、これを打破して共産党が前進・躍進できる手ごたえのようなものを、昨年一年のたたかいでつくったように思います。
世界金融危機、世界の動きをどうみるか
世界金融危機――「カジノ資本主義」の破たん
奥原 ここで世界に目を向けてみたいと思います。昨年は、世界でも大激動が起こりました。とくに、経済の面でも、軍事の面でも、アメリカの一極支配がいよいよ大破たんをきたしています。
まず経済の面では、「資本主義の総本山」のアメリカで、きわめて深刻な金融危機が起こり、世界を景気悪化に突き落としました。
志位 アメリカで何が起こったかを一言でいえば、「カジノ資本主義」の破たんです。アメリカでは、とくに一九八〇年代以降、ひたすら金融の自由化を続けてきました。一九二九年の大恐慌の教訓をふまえてつくられたグラス・スティーガル法――銀行業務と証券業務を分離し、商業銀行による株保有などを禁止した法律が、一九九九年に事実上撤廃されたのは、その象徴でした。銀行業と証券業の境目がなくなり、銀行・証券・保険が相互参入し、つまり金融機関のすべてが投機的な商売をやるようになったのです。
そういうなかでデリバティブとよばれるさまざまな投機的金融商品が、異常に膨らんでいく。サブプライムローンのような、所得の少ない方からお金を巻き上げる詐欺とペテンのいかさま商法が横行する。このローンを証券化し、さらに他の債権とまぜあわせて債務担保証券(CDO)といわれるものを売って、世界中にばらまく。そういう投機資本主義、「カジノ資本主義」が破たんして、世界中の経済に大打撃を与えているのです。
巨大な投機マネーの暴走が、庶民の暮らしを破壊する
奥原 昨年の党創立記念講演会で、世界的規模でみて、実物経済にくらべて金融経済が三倍以上にもなっているというお話が印象的でした。
志位 あの講演で紹介した数字は、三菱UFJ総研の経済アナリストの水野和夫さんの試算によるものです。水野さんが最近出した本で、新しい試算をされていますけれども、直近の二〇〇八年十月で、世界の実物経済を表すGDP(国内総生産)の総額が六十・一兆ドル、それに対して金融資産の総額――株式、債券、預金の総額が百六十六・八兆ドル。この間の金融危機で株式の資産価値が一定程度崩れましたが、それでもなお百兆ドル以上、金融経済が実物経済を圧倒する状態になっているということです。
この百兆ドルのなかの数十兆ドルは、投機マネーとして世界中を暴れまわり、繰り返しバブルをつくりだしてはそれを崩壊させる。バブルのさいにも、その崩壊のさいにも、実体経済、とくに諸国民の暮らしを破壊するという動きを繰り返す。昨年の前半の時期は、原油と穀物に流れ込み、価格高騰というたいへんな被害をもたらしました。九月十五日の「リーマン・ショック」をきっかけに世界的規模で信用収縮がおこり、世界の実体経済に甚大な被害を及ぼしています。
奥原 各国は、危機にさいして金融機関への公的資金の投入をおこなったり、金融緩和政策をとりました。
志位 これは金融危機にさいしての対症療法にすぎません。高熱が出たときに、熱さましが必要なときもあります。しかし、これをやるとお金がまた余ってくるわけですよ。そしてつぎのバブルを起こし、それがまた崩壊する。そのたびに被害にあうのは実体経済であり、諸国民の暮らしです。世界の資本主義がそうした悪循環のなかに落ち込んでいるように思われます。まさに、「カジノ資本主義」の破たんです。金融の自由化路線との根本的な決別、転換が求められていると思います。
アメリカ流「金融立国」の破たん――これへの追随に未来はない
奥原 金融危機の発祥の地のアメリカ経済はたいへんなことになっていますね。
志位 アメリカは「金融立国」路線をつき進んできたわけですが、アメリカ経済を調べてみてびっくりしたのは、企業のもうけの約50%が金融業のもうけになっていたのです。これは驚くべき比率です。
この50%のうち三十数%は金融機関がもうけてきたわけですが、残りの十数%は巨大自動車企業のGM(ゼネラル・モーターズ)など多国籍企業が、金融業に乗り出して稼ぎ出したもうけでした。こうしてモノづくりができなくなり、金融業が経済の中心を占めるにいたった。中心を占めていた金融が破たんすると、後には何も残らなくなってきます。
GMがたいへんな経営危機です。一言でいって、モノづくりを忘れて金融に頼ったツケが回ってきた結果だと思います。GMは、レンタカー向けに車を販売することは採算がとれないといって大幅に削減した。ハイブリッドカーも採算にあわないといって、研究開発費を減らした。研究開発費まで削って、株主に配当した。そして、GMACという金融子会社をつくって金融業に乗り出した。製造部門での赤字を、金融部門での黒字で埋めて、何とかやり繰りする企業になっていきました。ところが頼みの金融部門がサブプライムローンなどで巨額の損を出した。そこからどうにもならない経営危機に陥っているのです。
こうしたアメリカ流「金融立国」を日本にも輸入しようとしたのが、橋本内閣以来の「金融ビッグバン」路線でした。それに未来がないことは、アメリカの現実が証明しました。ここでもアメリカ追随からの抜本的な転換が求められています。
金融規制への転換、ドル支配の終えんの始まり
大内田 そういう「カジノ資本主義」は、やっぱりなんらかの規制が必要ではないかという声が世界でも起こっていますね。
志位 資本主義の枠内でも、規制の方向に進まなくてはならないし、進まざるを得ないと思いますね。昨年の十一月十五日の世界二十カ国・地域(G20)首脳会議は、その方向性を打ち出したと思います。
一つは、金融の規制強化の方向がはっきり打ち出された。いま一つは、国際金融機関を、アメリカ中心の機関から途上国と新興国とがより大きな発言権と代表権を持つ機関へと改革するという方向が打ち出された。もちろん具体化はこれからですし、それは簡単ではないと思うけれど、一つの大きな転換が国際的に起こったことは間違いないと思います。
大内田 そうですね。
志位 アメリカは、IMF(国際通貨基金)や世界銀行を使って、新自由主義、金融自由化路線を世界中に押し付けてきました。ドルを世界基軸通貨としてその特権のうえにあぐらをかき、世界中の富を吸い上げてきました。しかし、そうした経済覇権主義が、本家のアメリカで大破たんをとげ、世界でいよいよ通用しなくなった。ドル支配体制の終えんが始まった。これがいまの世界だと思います。
平和でも経済でも、世界の力関係が大きく変わっている
奥原 アメリカの軍事的な覇権主義も破たんに直面していますね。
志位 そうです。イラク戦争の失敗が大きいですね。ああいう先制攻撃戦略、国連憲章を無視した無法な戦略が、アメリカ国民からもノーの審判を突きつけられて、破たんした。歴史の審判が下ったといえます。オバマ新政権がどういう政策をとるかは、いまいうことはできないけれども、「ブッシュ路線ノー」に示された民意に背いた行動をすることは、なかなかできないだろうと思います。
大内田 昨年暮れには、中南米・カリブ海三十三カ国の首脳会議が開かれました。
志位 これは画期的な動きだと思います。私は、昨年の「党旗びらき」で、東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心としてつくられた東南アジア友好協力条約(TAC)が大きく広がったという話をしました。この流れは二十五カ国、地球人口の57%を擁するまでに広がっています。
これはユーラシア大陸での動きですが、昨年十二月十六日と十七日にブラジルで開かれた中南米・カリブ海諸国首脳会議には、アメリカとカナダを除く、南北アメリカ大陸の全部の国が集まったんですね。そして、中南米・カリブ海諸国機構を二〇一〇年二月に立ち上げるということを決めた。この動きもまた、紛争の平和解決、主権尊重、国連憲章を土台とした平和で民主的な国際関係をめざしています。TACの広がりと共通するような流れが南北アメリカ大陸で起こっているわけです。
昨年一年間を振り返ってみると、平和でも、経済でも、進歩の方向に世界の力関係が大きく変わっている。世界金融危機のもとでの深刻な困難という問題がありますが、危機のもとでも進歩への歩みを進めている。世界もまた大きな転換点にありますね。
奥原 そういうなかで日本外交のあり方が問われますね。
志位 それだけ世界が変わっているときに、まったく世界がみえないで、軍事でも、経済でも、いまだにアメリカに言われるままにやっていればいいという政治は、もう先はありませんね。ここでも政治の中身の大きな転換が必要だと思います。
「資本主義の限界」と未来社会への展望
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奥原 昨年は、世界でも、日本でも、「資本主義の限界を問う」という問題意識が急速に広がってきた一年でした。委員長ご自身、去年一年間、テレビ、雑誌をはじめいろんなメディアで、このテーマに答える機会が多かったですね。
志位 そうでしたね。十八年前に旧ソ連が崩壊したときは、「資本主義万歳」論が横行したものでした。テレビに出ても苦労が多かったですね(笑い)。「小泉改革」が「全盛期」のときにも、こんなテーマはあまり考えられませんでした。ずいぶんな様変わりですね。(笑い)
奥原 大きく時代が動いてきたなと思います。しかもその動き方が、ずいぶんと速いような感じがします。
投機マネーの問題から「資本主義の限界」を考える
志位 自民党政治が行き詰まっているという話をしましたが、資本主義体制そのものが、二十一世紀という歴史的視野でみると深刻な行き詰まりにつきあたり、それを乗り越える新しい社会への発展が求められる時代に入ったということを痛感する一年でした。
私は、五月に、テレビ朝日の番組に出演したさい、貧困、投機、環境破壊という三つの大問題で、「資本主義の限界」が問われていると話しました。もちろん、それぞれの問題について、まず資本主義の枠内で解決のための緊急の努力が求められることは論をまちません。同時に、その根本的解決は、資本主義の枠内ではなかなか難しいのではないかということも、多くの方が感じはじめていることではないでしょうか。
私は、昨年はずいぶんと経済界の方々とも話す機会がありましたが、わけても怪物のように膨れ上がった投機マネーの問題は、「資本主義の限界」を多くの人々に真剣に考えさせる一番の問題となっているように思います。
さきほどものべたように、過度な投機の規制は、まず資本主義の枠内でも緊急に必要ですし、ヘッジファンドの規制や、投機マネーへの課税など、一定の規制は可能でしょう。同時に、その努力をつくしたとしても、世界で百兆ドルものお金が余っている問題が解決できるでしょうか。私は、根本的解決は難しいと思います。
大内田 お金が余っているなら、世界の貧しい人々のために使えばよいと思うのですけれども。(笑い)
志位 そのとおりなのですが、それがなかなかできない。その根本的理由は、余っているお金が、たんなるお金ではなく、貨幣資本だからです。貨幣資本というのは、つねにどこかに投資して、利子を生みつづけなければなりません。ところが、百兆ドルもの貨幣資本を、安定的に、また健全な形で投資でき、利子を生みつづけるような投資先は、世界のどこにもみあたりません。そこから過度の投機――バブルが繰り返され、バブルは必ず破たんします。私は、そこにまさに「資本主義の限界」が存在するし、この問題の解決のためには経済システムの根本的な変革が必要だと考えています。
貧困、投機、環境破壊など、二十一世紀に、人類社会に提起されているさまざまな問題を、まずは資本主義の枠内でもギリギリのところまで解決をする努力をするなかで、その次の社会への展望が見えてくる。私たちの綱領がさし示す未来社会――社会主義・共産主義の社会への条件が熟してくるというのが二十一世紀ではないかと考えています。
品川正治さんとの「響き合い対談」を振り返って
奥原 ちょうど一年前の、委員長と品川(正治)さん(経済同友会終身幹事)の「響き合い対談」で、品川さんが最後に「私なんかも日常使わない言葉ですが、『新しい社会主義』ということを考えざるをえなくなるんですね」という発言をされて、大きな反響を呼びました。
志位 品川さんのご発言は、非常な卓見を示したと思いますね。この一年、世界金融危機という問題が起こって、それを通して「ルールなき資本主義」の残酷さが浮き彫りになりました。同時に、それにとどまらないで、資本主義というシステムの限界も、よりよく見通せるようになった。多くの方々から「資本主義でやっていけるのか」という問いかけが聞こえてくるようになりました。
大内田 綱領の未来社会論を大いに語っていける時代ですね。
志位 そうですね。綱領で掲げている未来社会、自由で平等な人間関係からなる共同社会をつくるという展望を、胸を張って語っていきたい。日本共産党という党名を高く掲げて頑張りたいと思います。
国民の期待にこたえ、総選挙で必ず前進・躍進を
奥原 党活動でも、去年一年は画期的な一年になったと思います。共産党の党勢拡大が相次いでメディアのニュースになりました。こんなことは前例のないことですね。(笑い)
志位 全党のみなさんの奮闘によってつくった前向きの流れは画期的といっていいと思います。
何といっても冒頭お話ししたように、国民のたたかいがあらゆる分野で豊かに広がった。どこでも日本共産党が草の根でたたかいを支え、連帯しているということは素晴らしい変化です。
綱領を語り、日本の前途を語り合うという「大運動」が、大きな規模で広がって、党支部などが開いた「集い」の参加者が五十七万人にもなった。屋内の演説会を含めますと百万人を超えました。これも、画期的なことです。
党勢拡大でも、いろいろなことを多面的・総合的にやりながら、ずいぶんと苦労もしながら、前進の流れをつくってきた。今年は、もっと飛躍させたいと思います。そういう活動を支えてくれた同志のみなさんや、支持者のみなさんに、心からの感謝を申し上げたいと思います。
奥原 今年は麻生さんや自民党がどれだけ逃げたくても、総選挙がやってきます。ここで前進することが国民のみなさんに対する責任だと思います。
大内田 本部にこんなメールも届きました。「経団連会長に対する志位委員長の要求書」を「しんぶん赤旗」で何度も繰り返し読んだという方です。
「私は党外の人間ですが、この党をもっともっと大きくしなければなりません。生きるために大きくしなければなりません。大多数の国民にとっても、それしか生きる方法はありません。どのような政治的立場も関係がありません。この党は政治的立場で動いているのではないのだ。あらゆる国民の苦しみに寄り添って、その苦しみを一歩でも二歩でも取り除くために決して口にすることもなく、同じ苦しみのなかで奮闘している」
ほんとうにこういう気持ちに応えたいですね。
志位 胸が熱くなる期待の声です。総選挙で前進・躍進することは、国民にたいする責任だということを強く感じます。私自身、去年一年間、いろいろなたたかいを全党のみなさんといっしょにやってくるなかで、「何としても勝ってくれ」という激励の声をたくさんいただきました。こういう方々の期待を考えても、いまの国民の苦難を考えても、日本の針路を考えても、さらに世界のなかでの日本の果たすべき役割を考えても、日本共産党が前進・躍進することは国民にたいする責任だと心得て頑張り抜きたいと決意しています。どうか「しんぶん赤旗」読者のみなさんのご支持・ご支援をよろしくお願いいたします。
奥原 歴史の新しいとびらを、国民のみなさんといっしょに開く年にしたいと思います。
志位 そういうつもりで頑張ります。
奥原、大内田 ありがとうございました。