2009年1月14日(水)「しんぶん赤旗」
主張
ソマリア海賊対策
“派兵先にありき”が問題だ
政府は、海賊から日本のタンカーなどを守るためだとして、アフリカ・ソマリア沖への自衛艦派遣の検討を急いでいます。
麻生太郎首相の狙いは、海賊対策を名目に、「とりいそぎ」という形でまず自衛艦を現場に送り込み、その一方で派兵新法を制定して、外国船舶の護衛とそのための武器使用に道を開くことにあります。日本共産党の志位和夫委員長が八日の記者会見でも批判したように、政治的・外交的な役割についての議論さえせず、自衛艦の派遣しか考えない態度は重大です。
人命財産保護の担い手
海賊対策で重要なことは、現場海域の状況をよく知っているソマリア周辺諸国の警備能力向上への支援です。マラッカ海峡などアジアで海賊対策を実施してきている海上保安庁が、長年培ってきた能力を生かして周辺国に警備技術を指導したり、警備艇購入のための財政支援をおこなうなど、日本にはやるべきことがたくさんあります。そうしたことを十分検討もしないで、自衛艦の派遣しかないようにいうのは大間違いです。
ソマリア沖で海賊が横行するのは、二十年以上続く内戦で政府も経済も崩壊し、漁民などが仕事を失ったことが背景になっています。そうした海賊をなくすには、ソマリアの混乱終結と復興のための国際協力が不可欠です。
タンカーなどの安全確保のために、直接的な対応が必要というのなら、まず海上保安庁の活用を考えるべきです。海の秩序維持の主体はどこでも海上警察機関です。アジア海賊対策でも、インドネシアなど各国は海上警察機関の船舶を使っています。
海上保安庁は、海上警察権を行使し、海の秩序を守るのが任務です。海上保安庁法第一条は、「海上において、人命及び財産を保護」するため「海上保安庁を置く」と定めています。このため政府も「一義的にはやはり海上保安庁の責務」(浜田防衛相)と認めざるをえません。にもかかわらず、海賊がロケット砲などをもっているから「海上保安庁の能力をこえる」といって、最初から巡視船を検討対象から除くのは、自衛艦派遣を強行するのが本音だからです。
一九九二年に英仏から日本までのプルトニウム運搬船の護衛に当たった巡視船「しきしま」は、自衛隊のイージス艦並みの大型船であり、海賊がもっているというロケット砲や携帯用ミサイルなどに耐えられないはずはないとの指摘もあります。海上保安庁も「能力的には不可能ではない」と説明しています。航行することによる「抑止効果」を期待するというなら、巡視船で十分です。
政府は、海賊対策を名目にした“派兵先にありき”の態度をあらためるべきです。
派兵新法作業をやめよ
麻生首相は四日の年頭記者会見で、ソマリア沖の海賊問題をもちだしたうえで、集団的自衛権の行使についても「議論される必要がある」とのべました。派兵新法づくりにさいして、他国の船舶を守るために武器を使用することを念頭においた重大発言です。民間船舶にとどまらず、アメリカからの圧力が強い米艦船保護に道を開く狙いも否定できません。
海賊対策を名目にした自衛艦のソマリア沖派遣の危険な企てを断念するよう求めます。
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