2009年2月16日(月)「しんぶん赤旗」
「寝たきり」なのに「自立」!?
介護判断基準が大幅後退
厚労省 4月から新方式
介護保険で四月実施予定の要介護認定の新方式に伴い、利用者から聞き取り調査をする際の判断基準が大きく変えられ、重度の寝たきり状態の人などが複数の調査項目で「自立(介助なし)」と認定されることがわかりました。認定の軽度化に拍車がかかり、利用者の生活に深刻な打撃を与える恐れがあります。
要介護認定は、介護保険サービスを利用するために必要なもの。認定調査員による聞き取り調査と主治医の意見書に基づいて行われます。厚労省は判断の考え方は変えていないとしていますが、聞き取り調査の方法や判断基準を示した『認定調査員テキスト』には大幅な変更が加えられています。(表)
「移動」「移乗」の調査項目では、移動や移乗の機会がない重度の寝たきり状態の人でも、従来なら「全介助」と判断されました。ところが新テキストでは、介助自体が発生していないとして「自立」を選択するよう迫っています。
「食事摂取」の項目でも、食べ物を口にできず高カロリー液の点滴を受けている人の場合、食事の介助が発生していないとして「全介助」から「自立」へと変更されます。
症状の重い利用者を「自立」と判断する、逆立ちした基準です。
厚労省は昨年、認定方式変更の影響を調査するために約三万件のモデル事業を実施しましたが、新テキストは織り込んでいませんでした。その後に行った八十六例の検証で「新旧テキストの判定のずれは許容範囲内だった」としますが、内容はこれまで公表していません。
東京都内の認定審査会で委員を務める医師は、「厚労省は介護の手間を積み上げて要介護度を判断するというが、利用者の状態を総合的にみてどれだけの介護が必要かを判断すべきだ。モデル事業での検証も抜きにテキストにこっそり重大な変更を加えることは許されない」と話しています。
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解説
要介護調査の基準変更計画
認定軽度化に拍車
重度の寝たきりの人について「移動・移乗」の項目を「自立(介助なし)」と判断するなど、要介護認定の際の聞き取り調査の基準を変更する計画は、利用者の生活に重大な影響を与えかねません。
すでに、四月実施予定の新しい認定方式では、聞き取り調査の項目が大幅に削減されることが明らかになっています。二次判定を行う認定審査会の裁量権も弱められ、コンピューターによる一次判定を変更しにくくなるとの批判があります。サービス利用者の生活実態を反映しない軽度の判定の多発が危ぐされています。
今回明らかになった調査基準の変更で、コンピューター判定がこれまでより軽度に出る危険性は高く、認定の軽度化に拍車がかかる恐れがあります。
認定が軽くなると、サービスの利用限度額も施設への報酬も減額されます。利用者の生活と事業所の経営に対する深刻な打撃です。
四月からの認定方式と調査基準の変更は延期して十分な検証を行い、その内容と結果を明らかにして国民の意見を聞くべきです。(杉本恒如)
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