2009年3月15日(日)「しんぶん赤旗」

交戦想定 犠牲を覚悟

海上自衛隊員 本紙に胸中語る

戸惑い不安 家族にも言えず

「いずれソマリア沖に」


 「法的根拠もない見切り発車になり不安だ」「上級幹部は交戦を想定している」「犠牲の覚悟なしに行けない」――。「海賊対策」としてインド洋のソマリア沖に護衛艦二隻を派兵した海上自衛隊。海上勤務の現職隊員が、とまどいと不安の胸中を本紙に語りました。


写真

(写真)ソマリア沖に向けて呉基地を出航する護衛艦「さみだれ」。手前は出航を待つ同「さざなみ」=14日、広島県呉市

憲法に違反も

 海外任務はインド洋の燃料補給活動など数多く体験しています。しかし今回はこれまでとは違って、格段に危険を感じます。「海賊」といわれる武装勢力と交戦が想定されています。その意味でソマリア沖は、戦場。ここで武器を使用すれば自衛隊創設以来のことになります。当然、海外での武器使用を禁じた憲法に違反します。

 名古屋高裁はイラク派兵を「海外での武力行使になる」として憲法違反と断じました。その意味で名古屋高裁の「違憲判決」は今回も適用されます。

 海上警備行動というが、もともとは日本周辺を想定しています。日本から一万キロも離れた海域での警備行動は想定されていません。自衛艦の医務室を改修して拘束した「海賊」を収容する営倉なども設置しました。

 ソマリア作戦には海上自衛隊の特殊部隊、特別警備隊が投入されます。自衛隊の海外任務への特殊部隊の公然とした出動は初めてです。特警隊は昨年、離任する隊員を事実上の集団リンチで命を奪っています。しかしリンチ事件への罪悪感はもうありません。今回の出動を追い風とさえ感じています。

 防衛省は作戦の危険性を承知しています。だから派兵期間もインド洋の半年間の半分、三カ月交代にしました。精神的に維持できない隊員が出ることが予想されるからです。向こう一年間の派兵部隊はすでに確定し、次は横須賀(神奈川)、大湊(青森)から出されます。

 アメリカは「海賊」対策も「対テロ戦争」と位置づけています。

米軍のもとに

 自衛隊は米軍の作戦と武器技術抜きに行動できません。インド洋での燃料補給も、今回の海賊対策も米海軍の作戦・統制のもとで行われます。海賊対策を口実に別の任務も要求されることも否定できません。自衛隊は表向きは拒否するでしょうが、アンダー(水面下)でやることもありえます。

 そうした前のめりの作戦をやる背景に上層部にはこんな思惑もあります。これまで自衛隊と距離をもってきた民間船の船主会が、こんどの海賊対策で恩義を感じるからです。

 本来、軍隊は戦闘だけでなく、輸送、調達、医療なども合わせて自己完結していますが、自衛隊は違います。「(運輸会社の)日通の限界が自衛隊の限界」という言い方があります。

 自衛隊は、訓練や作戦で補給を民間に依存します。しかし民間は輸送距離や危険性の判断で限界点があります。また自衛隊への協力を歓迎しない空気があります。しかし海賊対策で、民間の船主側に大きな貸しができます。有事の際に民間は協力を拒めなくなる、少なくとも今までよりも協力的になると踏んでいます。民間徴用の面でプラスになるという読みです。戦争態勢の強化です。

 国内法もないまま、派兵ありきは過去の侵略戦争と同じだという指摘は否定できません。いずれは自分の部隊も派兵されるでしょうが、こんな無理を重ねたソマリア沖作戦には参加したくありません。身の危険への不安は家族にも言えません。



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