2009年3月21日(土)「しんぶん赤旗」

入所者 以前からSOS

空腹を訴える姿 住民証言

火災の老人施設


 十九日深夜に発生した火災で、入所者七人が死亡した群馬県渋川市の「静養ホームたまゆら」。以前から、福祉関係者や地域住民から、入所者への対応や施設の安全管理に関して不安や疑問の声があがっていたといいます。


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 「こんなことになるならもっと強く行政に改善を求めていればよかった」。こう悔しがるのは、介護施設などの実態の改善について提案活動をしている前橋市のNPO法人「ハートランド」の岸治彦さん。「たまゆら」から逃げ出してくる人がいるとの地域住民からの訴えに基づいて調査して、県などに指導を申し入れていました。

 岸さんは「ホームヘルパーやケアマネジャー、地域の人に話を聞き、満足な食事が提供されていないこと、施設周辺に廃材などが放置されていて火災があったら危険なこと、助けを求めて来る入所者がいることなどを県に知らせ、『見に行ってほしい』と訴えました。しかし、調査に入らなかった」と話します。

 「店の前に入所者が座っていたり、入ってきて『おなかがすいた』と訴えるんです。かわいそうだからおにぎりをつくってあげたりしました」。こう証言するのは、近くで商店を営む女性(33)です。

 女性は、店の前で入所者が倒れていたことがあり警察に連絡したことがあるといいます。「警察もひどいことになっていることは知っていたはず。お客だった入所者は『東京に帰りたい。ここは素人が金もうけのためにやっている』と話していました」と言います。

 近所に住む男性(59)は、「アパートのような建物なのに、内装を何度も変えたり増設したりして危険なので抗議文を施設に出した。入所者が何人いるのか地域には説明がなく、群馬県庁にも改善を求めましたが…」と述べ、行政の対応の遅れを指摘します。


解説

行政は経営者任せにするな

 老人ホームなどの福祉施設で、介護の必要な高齢者から多くの犠牲者を出す火災がまたも繰り返されました。老人入所施設「静養ホームたまゆら」の火災では、入所者の半数近い高齢者が亡くなりました。

 二〇〇六年一月の長崎県の認知症高齢者グループホーム火災では、夜間一人体制で入居者を避難誘導できず、消防法のスプリンクラー設置の義務付けの対象外で、設備や人員体制の不備が火災拡大の大きな要因になりました。

 今回火災があった「たまゆら」でも、夜間のスタッフが少なく、運営責任者は取材に「スプリンクラーや防火設備はなかった」と話しており、福祉施設の運営責任者として、必要最低限の防火対策を怠ってきた人命軽視とも言える姿勢が厳しく問われます。

 厚生労働省は〇六年四月、長崎県のグループホーム火災などを契機に、老人福祉法や介護保険法などを改正。都道府県の立ち入り調査権を盛り込み、それまで届け出義務のなかった既存の入所施設なども、有料老人ホームとして届け出ることを義務づけました。

 「たまゆら」は全国の有料老人ホームを紹介するホームページにも紹介されています。それによると、〇四年七月に開設し、居室数が三十七。介護や支援が必要な高齢者を受け入れ、食事も提供しています。

 ところが、「たまゆら」は、有料老人ホームとして県に届け出ていませんでした。

 同施設をめぐっては、県などに対して、福祉関係者や地域住民が問題点を指摘し、調査や指導を求めていました。しかし、県の対応は鈍かったとの証言もあります。県の対応に問題はなかったのか―解明が必要です。

 過去の教訓から、強化された防火対策の徹底を国や県などが急いでいたら、今回の悲劇は避けられたのではないか。有料老人ホームなどの福祉施設における防火・消火・人員体制の強化を、経営者任せにせず、国や県が財政支援も含め迅速で強力に指導し推し進めることが求められています。(宇野龍彦)



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