2009年3月21日(土)「しんぶん赤旗」
たたかい全国各地で
「派遣切り」許さない
「本来なら私たちは正社員」
「力を合わせれば道開ける」
製造業を中心にした大企業の「派遣切り」が、この三月末に大規模に強行されようとしています。厚生労働省の調べで十五万八千人、派遣業界によると四十万人にのぼることが見通されています。このなかで労働組合の結成や行政機関への申告などに労働者がたちあがり、全労連など諸団体の支援活動が全国に広がっています。日本共産党は、労働者、各団体のたたかいを激励、連帯して、事態打開に全力をあげています。
申告運動広く
35企業で131人が
派遣先への正社員化を求め、労働局に申告する運動が広がっています。十七府県の三十五の企業に対し、百三十一人が申告しています。
いすゞでは、偽装請負などで八年間も働かされていた労働者が申告。愛媛でも、ハリソン東芝で派遣会社を変え、五年以上も働かされていたと申し出ました。三菱電機では、雇用期間は短いものの、製造ラインでは期間制限を超えて働かせていたとして青年労働者が申告。ソニー、マツダ、パナソニックなどで申告が続いています。
外国人労働者の申告もあり、茨城県のトステム土浦工場では日系ブラジル人三十四人が正社員にするよう申し立てています。
労働局が2度調査 日本トムソン
「違法に派遣され、本来なら正社員になっていなければなりません。たたかうしかないと思いました」
二月十六日に兵庫労働局へ集団申告した十三人のうちの一人の男性(21)はこう話します。派遣先は東証一部上場のベアリングメーカー「日本トムソン」姫路工場(兵庫県姫路市)。四月からの減産を理由に二月三日、派遣会社を通じて三月末での中途解雇を告げられました。
結婚して長女が生まれ、家庭を築くために選んだ職場でした。「正社員になれると信じて頑張ってきたのに許せない」。男性らは職場のJMIU(全日本金属情報機器労組)日本トムソン支部に入り、正社員化を求めて立ち上がりました。
偽装請負のころから五年以上、派遣されてきた人もおり、日本トムソンには直接雇用の申し込み義務が生じていました。
JMIU日本トムソン支部の前尾良治委員長は、「この工場で若者が正社員として働き続けてもらうことは私たち正社員の要求です。やれることは、すべてやりきっていく」と話します。
組合では、会社との団体交渉とともに、兵庫労働局への要請や宣伝、署名を提出。「全国の派遣の仲間が期待している。早く是正指導を出してほしい」と訴えています。
兵庫労働局は、申告から八日後に現地調査に入り、今月三日に二度目の調査を行っています。
申告が各地で相次ぐことに、「みんな、正社員になりたい思いは一緒です」と男性。「みんなを元気にし、勇気づけられるよう、早く正社員化を勝ち取りたい」
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行政を動かす
指導企業は2250社
「派遣切り」を止める活動の一つとして、日本共産党の地方党機関、議員団などが重視してとりくんでいるのが労働局に監督・指導を求める要請や懇談です。これが事態を動かす力になっています。
要請にあたっては、派遣労働者の多くが違法状態で働かされ、派遣先企業に直接雇用責任があることをあきらかにした志位和夫委員長の二月四日の国会質問全文を収録した「しんぶん赤旗」号外を届けて、内容の説明をしています。労働局側からは、多くのところで関心が示され、「志位質問での大臣答弁をふまえて対応したい」「質問を視聴した」「危機感をもって調査の方法を検討したい」「企業に雇用維持をはかっていく」など意向が示されています。
この間、日本共産党の国会論戦や諸団体の支援活動の広がり、労働者のたたかいを通じて、政府・厚生労働省の対応に少なからぬ変化が生まれています。
昨年十一月二十八日には、派遣法に違反して労働者を働かせた派遣先または発注企業にたいして「対象労働者の直接雇用を推奨する」とした通達を出しました。
また十二月九日には、不適切な解雇、雇い止めにたいして労働契約法や判例を活用して予防措置をとるとした通達も出しています。この通達から三カ月間に、厚生労働省が指導した企業数が二千二百五十社に達しています。このうちの七割にあたる千五百二十五社が派遣労働者にかかわるものです。
「申告は最優先で対応」舛添厚労相の国会答弁「派遣労働者からの申告が各労働局にありましたら、これを最優先で対応する。法違反があれば、確実に指導・監督を行う」「できる限り迅速にやるということで、適切にそういう指示を出していきたい」「(労働局に受理拒否のようなことがあれば)これは法律にもとづいて職務をやっておりませんということになりますから、厳正に私が指導をしてまいります」(二月二十七日、衆院予算委員会。日本共産党の笠井亮議員質問にたいして) 「問題があれば、各県の労働局に特別窓口がありますから、ぜひそこに飛び込んできて、こういうひどいことをやっているんだと言ってくだされば、必ず立ち入って必要な指導をやっていきます」(二月九日、衆院予算委員会。佐々木憲昭議員質問にたいして) |
申告とは
労働者派遣法は、法律違反の事実がある場合、派遣労働者は「その事実を厚生労働大臣に申告することができる」とし、派遣元や派遣先は、申告したことを理由に「解雇その他不利益な取扱をしてはならない」としています。(四九条の三)
申告は、違法な働き方をやめさせるために、労働者に与えられた権利です。申告先は、厚生労働省が都道府県に設置している労働局になります。
派遣労働は、派遣可能期間が原則一年(最大三年)に制限され、引き続き使う場合は派遣先企業が派遣労働者に直接雇用を申し込む義務があります。製造業の大企業は、これを逃れるために「偽装請負」にしたり、派遣と派遣のあいだに直接雇用の期間をはさんだりして違法に働かせています。
いま解雇、雇い止めにあっている労働者の多くは、こうした違法状態で長期間働かされ、すでに直接雇用の対象になっている人たちです。違法で働かされていたと労働局に申告するのは、正社員への道を開く第一歩になります。家族からの訴えも情報提供として対応します。
労組に入った
150件1800人超える
非正規労働者らが相次いで労働組合を結成・加入し、解雇撤回などの成果をあげています。本紙調べでは、全労連加盟の労働組合を中心に全国で労組結成・加入が三十七都道府県百五十以上(三月二十日現在)、千八百人以上に上っています。
先陣を切ったのは、いすゞ自動車栃木工場で中途解雇を通告された期間・派遣社員です。昨年十二月、JMIU(全日本金属情報機器労働組合)いすゞ自動車支部を結成。団体交渉などで、期間社員五百五十人の解雇を撤回させました。マスコミでも、「非正規労働者が立ち上がった」と大きく報じられ、海外ニュースでも報道されました。四月以降の雇い止めを許さず、正社員化を求めてたたかっています。
自動車メーカー・マツダ防府工場(山口県)の派遣労働者らは地域労組に加入し、わずか五日で派遣会社に雇い止めを撤回させ、再就職先のあっせんを約束させました。現在、十四人がマツダに正社員化を求めてたたかっています。
その一人の男性(42)は、「一人だったらあきらめていました。労組に出合って本当によかった。仲間をさらに増やし、力を合わせて直接雇用を実現したい」と語ります。
日産ディーゼル工業、大分キヤノン、三菱ふそう、ソニーでも、派遣会社に解雇撤回や寮の入居継続を実現。シャープ、三菱電機、ホンダなどでも解雇撤回・正社員化を求め団体交渉、労働局への申告も取り組んでいます。
外国人労働者の労組結成・加入も。静岡県浜松市では日系ブラジル人派遣労働者らが労組を結成して派遣先と交渉し、直接雇用を実現。滋賀県では、解雇された百二十人の外国人労働者が加入し、雇用保険加入、失業給付の支給を実現し、雇用確保を求めてたたかっています。
団体交渉「すごい」 名古屋
三菱電機、パナソニック、東芝、NTT西日本、三菱重工。大企業がひしめく名古屋市北部で、これらの企業で働く派遣労働者が労働組合に加入し、派遣法違反を愛知労働局に相次いで申告してたたかっています。九日には三菱電機を相手取り、正社員としての地位確認を求めて三人の労働者が名古屋地裁に提訴しました。
名古屋北部青年ユニオン。三菱電機名古屋工場で派遣切りにあった労働者の勇気ある決意がきっかけになり、全労連全国一般愛知地方本部の地域分会として昨年十二月に旗揚げしました。派遣切りや正社員で解雇を通告されている労働者が次々に加入し、組合員は二十六人です。
派遣切りにあった男性(33)は、派遣元との団体交渉で高すぎた寮費を返還させ、解決金を支払わせています。
「とても歯が立たないと思っていた大企業にも、労働組合に団結すれば立ちむかえる」「団体交渉ってすごい。一人で文句をいっても全然聞く耳を持たなかった会社が、話し合いに応じる」。組合員たちは労働組合の力に自信を深め、人間としての誇りを取り戻しています。
愛知県労働組合総連合などが十五日に名古屋市栄で開いた「春の大集会」で、三人の組合員がユニオンのノボリを持ってステージに立ち、千五百人の参加者を前に訴えました。「三年がんばれば正社員になれると思い、契約にはない有機溶剤を使う有害作業も、二四〇〇ボルトの高圧電流を扱う危険作業にも従事し、残業も休日出勤にも応じて、六年半働いてきました。それなのに、減産となったら多くの派遣労働者を、まるでダンボールに入った部品を捨てるように放り捨てる。こんな無茶苦茶は絶対に許せません」
「派遣村」次々
相談・支援に全力
「派遣切り」にあった労働者は、寮から追い出されて住居を失うなどたちまち悲惨な目にあいます。これにたいして全国各地で労働組合、市民団体、医療機関、弁護士、ボランティア組織などが実行委員会をつくって支援活動にとりくんでいます。日本共産党も加わって支援に力をいれています。
東京・日比谷公園に昨年末に開設した「年越し派遣村」は、メディアでも大きくとりあげられ、厚生労働省が講堂、施設を開放するなど、政府、自治体を巻き込んでひろがっています。この経験が「一日派遣村」というかたちで全国に広がり、三月の年度末を迎えてとりくみが強まっています。
路上生活者も生活保護決定 福岡
学者や弁護士らが呼びかけ人となった「なくそう貧困!福岡県民実行委員会」が主催した“福岡県版・一日派遣村”(1日)では、二百人を超す人たちが、弁護士、医師など専門家による労働・生活、医療相談を受けました。
炊き出しでは、おにぎり二百個、雑炊三百食を用意。百十五人のボランティアが参加し、うち「新聞記事を見た」(五十代・男性)などとして、当日登録したボランティアも八十五人にのぼりました。
福岡市は全国一ホームレスが増加したとされ、県の目視調査では、昨年一月比で、百八十七人増(24%増)の九百六十九人。これまで市は、路上生活者の生活保護申請を認めてきませんでした。
今回、実行委員会などの強い要請があり、派遣村を側面支援する形で市は、“派遣村”の相談者を対象に生活保護の「集団申請」を受理。八十人の申請に対し、七十人の保護を開始しました。
昨年末に「派遣切り」にあい、今年一月から博多駅周辺で路上生活していた男性(38)は、「ボランティアの人に会わなければ野垂れ死にしていた。これで暖かく眠れる」と胸をなでおろしていました。
同実行委員会の塩塚啓史事務局長は「市が路上からの申請で保護決定したことは、まだ不十分な点もあるが、これまでになく踏み出した対応だった」と評価しています。
雇い止め撤回 共産党の宣伝・交渉が力に茨城 日立建機 「ほっとした」「職探しをせずにすんだ」―。茨城県土浦市にある建設機械メーカーの日立建機土浦工場では、契約社員がこんな声を職場の日本共産党員たちに寄せています。 同工場では、一月末までに順次、派遣社員四百人の雇い止めを強行しました。さらに三月末で契約が切れる契約社員五百人を雇い止めする計画でした。その計画を二月に撤回し、四月以降も契約を更新することを明らかにしました。 日本共産党茨城県委員会は昨年十二月から連続して門前で宣伝してきました。「酷使して大もうけ、そして使い捨ては許されません」とビラを配布。塩川てつや衆院議員らが工場を訪れ、計画の撤回を求めてきました。ハローワークと懇談し、地域でも訴えました。 最初にビラ配布をしたときは、守衛がごみ箱を持ち、ビラを捨てるように呼びかけました。しかし、契約社員たちはビラを家に持ち帰りました。やがて休憩室などで公然と回し読みされるようになりました。 「共産党がよくやってくれた」という声が広がっています。三月末の雇い止めは阻止しましたが、契約期間はこれまでの六カ月から三カ月に短縮されました。六月末の雇い止めを許さないため、新たなとりくみを開始しています。 たたかいのなかで、企業が雇い止め・解雇の計画を撤回し、直接雇用化に動くなど一定の変化がおきています。とくに製造業務への派遣について、日本共産党の国会論戦などで、偽装請負や違法クーリングが告発され、派遣可能期間最大三年をごまかして派遣労働者を使うことが困難になっています。 このため派遣の導入を断念し、直接雇用の期間社員か請負会社への業務委託に切り替える動きがリコーやキヤノンなどの企業に広がっています。この場合も、現在働いている派遣労働者は「偽装請負」など違法な状態で働かされ、法律上、直接雇用義務が発生するため、派遣労働者を雇い止めする方針を変えていません。こうした動向を踏まえ、雇い止めされる前に違法派遣を告発し、正社員化を求めるたたかいが重要になっています。 |
数々の成果 厚労省が新「通知」
◆東京・日比谷公園での「年越し派遣村」など各地の生活支援活動のなかで、たくさんの重要な成果を獲得しています。
主な到達点として、次のようなものがあります。
(1)住所がなくても公園などを「現在地」として生活保護を適用(2)アパート入居を希望する人には家賃、敷金・礼金・仲介手数料・火災保険料、保証人がいない場合の保証料、布団代、家具什器(じゅうき)費などを生活保護の決定と同時に支給(3)生活保護の申請、決定・支給を即日、2日から4日で実施(4)手持ち金がほとんどない人には、生活保護が決定されるまで自治体の「緊急つなぎ資金」の貸し付け(5)働く能力があっても、働く場が得られない場合は生活保護を利用できる―などです。
これらの措置は現行の生活保護法や、都「保護課長通知」(2008年12月)などを活用したものです。
埼玉県では、やむを得ずビジネスホテルやカプセルホテルに宿泊する場合は、「1.3倍額を限度に住宅扶助費を支給する」との「福祉部長通知」(1月16日)を出しました。
◆舛添要一厚労相は国会で「派遣村」での生活保護法にもとづく申請・適用例を「周知徹底したい」と答弁。しかし実際には「住民票や住所がないからと申請を受け付けない」「稼働年齢だから仕事をさがしなさいと追い返される」といった事例が起きていました。
このため全国生活と健康を守る会連合会(全生連)など各団体が、事態を打開するため厚労省に対して繰り返し、「通知」をだして徹底するよう要求してきました。
この結果、厚労省は3月18日付で都道府県などに対し、「職や住まいを失った方々への支援の徹底について」とする「通知」をだしました。
「通知」では生活困窮者増加に対応する体制強化や、住まいのない人について「派遣村」を現在地として保護する、働く能力があっても、働く場がない場合の生活保護の利用など、「派遣村」活動の成果に基づく内容の徹底をしています。